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第1章 ■てくれ
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☆side??
わかったぞ。この能力も、施設の陰謀も、自身の正体も……。今となっては検査の『仕掛け』である『砂』・『滝』・『風』・『雷』に対して
ダメージを受けない、無敵や無効化といった境地に至った。
まぁ、それでも食らったフリを続けている。弱く見られた方が都合がいいからだ。
さらに言えば、それらをコントロールできるようだ。
4つの能力を使えると言っても過言ではない。そう、まるで、伝説の『龍』のように……。反射的に一般知識が引用される。
[龍…伝説上の生き物。主に水龍を始め様々な力を持った龍がいる。想像上と言えどあまりの神々しさに、神の使いや神同然の扱いをされることもある]
[五龍神…万物は5つに分類できるという思想(五行思想)に影響されたもの。春夏秋冬や五行などの意味をもつとされる。『五龍神』は龍を神と同格に崇拝されていたと考えられる。その具体的な名称は以下の通r]
また、五行は
[五行…木 ・ 火 ・ 土 ・ 金 ・ 水に分r]
ちなみに、『八卦』では、『風』や『雷』は『木』に分類される。
この『一般知識の引用』は、いつの間にか日常に溶け込んでいる。
まぁ、『龍』や『五行』、『八卦』などの線を少し考えていたが、辻褄が合わな過ぎたのだ。もっと筋の通った考えが確立された。
複数能力を保持しているのだろうか?
否!これは1つの能力だけで複数の能力に見せているのだ。
そして、検査での『仕掛け』には共通点があった。それが、能力の本質と大きく関わっていたと考えられる。
それは、流れだ。
『流れている』と把握したもの限定で、感知・制御・操作できるようだ。少なくとも、今、操れる物は、
流砂・水流・風・電流
今ではこの能力のせいか、周りの動きが視えるようになったのだ。これらの能力によって、とある話し声が聞こえた。
【風】の応用で話し声を運ばせただけだが。
その話し声は被害者たちのものだと知った。どうにも最近ではある男子集団が反抗計画を練っているらしい。
何を隠そう、ボクら被害者は『検査』を受けているのだ。
ここの施設の陰謀は、子どもたちの『検査』だ。
では、何故ボクらを『検査』するのだろうか?
ここで、ボクらの正体が関わってくる。ボクの思考の順序を知っているかのように、『一般知識』が引用される。
[神子…異能を操る神童、それこそ神様のような子どもが世界には存在する。神子が死ぬと新しい神子の力が子どもに宿るとされる。つまり、世界に常に神子はいるとされている]
『常識』は不思議なほどに自然と染み付いており、綴りや意味が分からないと一瞬でも思えば、『引用』されるようだ。疑問点としては、何故最初の問いである病衣について『引用』されなかったのかは、まだ分かっていない……。始まりの1週間ではこれはなかったものだ。謎は多い。
おっと脱線した。
詰まる所、『神子』はボクなのだと思う。この施設は『神子』を探し、それを支配下に置こうとしているようだ。
また、『神子』とは別に、異能を扱う存在がある。
案の定、『引用』される。
[妖精の隣人…異能は一つだけの上、その一つでさえ神子に劣る。質も量もどこか物足りなさがある。その戦力は所詮人間のお隣さんにすぎないのだ]
『妖精の隣人(以下:隣人)』は恐らくこの施設内にたくさんいる。まさに、反抗計画を練っている男子集団には『隣人』がいるようで、『隣人』曰はく、
「俺たちは妖精にお願いしているにすぎない」
そう漏らしていた。『神子』も『隣人』も同じような異能ならば、ボクにはまだ見えないだけで妖精はいるのだろうか?
「フーーー……」
ゆっくりと息を吐き出し、頭をクールダウンさせる。そう、熱を冷やすために……。それは、興奮からではない。情報処理で熱くなるパソコンに近いのだと思う。
あの日、グラさんとの問答で感情が壊れた。
目の前にはソースがかけられた『とんかつ』が少し残っていた。ほとんど無心で食べていたようだ。まぁ、脳内で丁寧に情報整理していたのだから、しょうがない。
言ってしまえば、どうでもいい
喜怒哀楽をほぼ忘れたようなボクにとって、どう食べても味も、感想も変わりはしないのだ。この生活が始まった当初はこのソースに救われた節もあった。だからだろうか、残せば少しだけ心の何処かが翳る。ただの癖みたいなものだ。
さて、これまでの生活を振り返って情報を整理した。それでも未だに謎がある。
謎は2つ
〈この身体の認識〉
〈一般教養知識〉
前者は違和感と言える。
過去、ボクは何をしていたのか、
それが気になって仕方がなかった。
ボクは誰かと比較して自分の状態を把握していた
約一年前に思ったことだ。ボクはこう思わずにいられなかった。
輪廻転生もしくは、時間のループ
もし、誰かのせいの基で、考えていると仮定するならそのあたりが怪しい。『タイムリープ』だったら『誰か』が『過去や未来の自分』となるのだが……。結論が出せるはずもなく、これ以上の進展は未だにない。
ピアス野郎への生理的憎悪も何かしらの因果かもしれない。
後者には2つの謎が内包されている。
❶どうして、引用されるのか
❷どうして、こんなに常識を知っているのだろうか?
❶『引用』は謎だ。辞書引きと言ったが、性能はこちらの方が遥かに上だ。ほぼ待ちなしで返事が返ってくるのだ。そうは言っても、人間でもAIでもないから会話は成り立たない。
❷『引用』抜きにしても知りすぎている気がした。この年代で知ることではないことも含まれている。それこそ、大人にとっての常識やマナー、サバイバル知識まであるのだ。こんなことを外で暮らしていたとしても、知っているだろうか?
[No]
頭の中で2文字が浮かんだ。普段は反応しない一般知識も、妙な時に返事をするものだな。
ボクは個人の部屋にいた。窓越しに見えるグラサンの人を一瞥し、そっと目を閉じた。
異変に対応するために……
そして、見えない状態で、さりげなく、さも自然に、流れるように足元に手を伸ばす……。常人が耳を澄ませば、小さな声が聞こえるのだろう。
「なっ……!?」
グラサンの人の声だろう。ボクは淡々と状況を把握した。目を開けたのだが、もはや何も変わらなかった。
そう視界は真っ黒だった。
ゆっくり立ち上がり、出入り口に足を運ぶ。扉は常時オートロックというか、『電気』で鍵をかけるタイプのものだから、【電気】で簡単に解除できるのだ。扉を出るとすぐに通路だった。左右に分かれているようだが、実際は暗闇で壁も見えはしない。
それでも、【風】の本質、『空気』の流れを感じる、視ることで、
空間把握能力は格段と上がるのだ。
マップを把握しているため迷いはしない。
<左だ>
頭の中に作ったマップを辿るように歩みを進める。扉の開閉音が聞こえたので、陰に潜むように体を丸める。数瞬後、反対方向に進む足音が聞こえたが関係ない。
――side龍成
僕はずっと葛藤に苛まれていた。あの日、僕が言ってしまった。
《……僕は敵だ……》
たったそれだけとも思う自分も、少なからず……いた。
それは間違っていない。
でも、あの子には言ってはいけなかった。心身ともに疲弊しきった状態で、疑心暗鬼になり、あの子の目から見たら最後の希望だったのだろう。
分かっていた。
望む言葉を出す覚悟も、権利もあるわけがない。
そもそも、『味方』だと言ってはいけないことも分かっていた。
頭の中では結論はついていた。それでもグズグズ引きずるのは、あの子の様子を毎日観ているからこそ、あの子の苦悩が、辛さが痛いほど分かってしまうのだ。
〈僕は間違っていたのだろうか?〉
誰も答えてはくれない。僕もあの子も相談や頼る相手がいないのだ。お互い認知しているのに、あの子の痛みが分かっているのに……。こうも何もできないとは、運命は残酷だ………。
この施設にあの子が連れてこられてから約1年だ。
そう1年なのだ……。
いつしか、感情を表に出さないようになった。心ここにあらずと言わんばかりに、ほとんど無心に食べている様は
僕の心に深々と突き刺さる……。
〈覚悟を決めないとな……〉
手元には監視カメラにも映らないように大事なソレをそっと撫でる。自責と自己嫌悪とは別に、渇望に近い願望が渦巻く。撫でていたソレを無意識に強く握った。
〈しっかりしないと……〉
あぁ今、あの子が食べている『とんかつ』を見ながら思いを馳せる。依怙贔屓のようで少なからず罪悪感はあるが、
あの子にはこんな仕打ちは酷すぎる。
『食堂』で弁当配布は有りはするが、お粗末すぎるのだ。そう思ったから作るようにした。
ガスを使ったこだわりの『とんかつ』であった。
強火、とろ火、加熱方法などもウマイ人の見よう見まねで心を込めて作った代物だった。
〈誰も美味しいと言ってはくれないがな〉
自虐的に嘲笑を浮かべた。
《美味しい!ありがとう龍成》
忘れるはずのない幸せな笑顔が脳裏に甦る。連想的に自分のしたこと、していること、する未来のようなものが視えた。不意の走馬灯のような現象に何故か涙が自然と零れ落ちる。
「なっ……!?」
目元を拭うのとほぼ同時に、視界が暗転した。反射的に声が漏らしたのだ。その原因は目を開けた際のブラックアウトもあるが、感情が乱れたのもあるだろう。声を漏らした直後、同僚からの言葉を思い出す。
《近々、反抗が起こるだろう。『神子』に、細心の注意を払え》
きっとこのことを知っていたのだと直感がそう言っている。そこまで考えると、部屋の扉の開閉音が響く。
あの子が部屋から出てしまったのだと察する。
なんとかして取り出したペンライトで辺りを照らす。明かりを照らしてすぐソレの存在を確認する。
「良かった……」
冷静になれた頭で状況を整理する。
パチ、パチッ……。
施設のブレーカーが落とされたようで、照明のスイッチは意味をなさない。電気器具は使えないものが多いことが察した。
監視室であるこの部屋の裏にある倉庫に入る。小さな光を頼りに多少埃の被ったランタンを取り出し、廊下に向かう。耳を澄ませば、廊下の右側から叫び声が聞こえる。
「集まらなきゃ……」
思考放棄して、考えなしに集まろうとしてるのではない。心のどこかでこの状況を予見していたのか、冷静だった。きちんとした目的の基で右に進むことを決意した。
<施設の全体の動きを把握することが、この後どう転じようがカギになってくるハズだ>
そこまで結論を出しても、未だ自分の今後の立ち振る舞いを困っていた。
<どうすればいいのか?>
出ない答えに葛藤しながら、廊下の一直線上にある『検査室』に重い足を進めていく……。
食堂に着いた。そこでは凄惨な光景が広がっていた。『隣人』としての『検査』を受けた少年たちは床で呻き蠢いていた。
「くそがっ………」
少年たちの最期の抵抗かのように、声を絞り出す。ランタンで足元を照らせば、血だまりは僕の足に纏わりつくかのように床に広がっており、少年たちの足が捥げているようだ。
「……」
静かに目を瞑る。この光景は頭の片隅で知っていた。なんだったら、その瞬間も観たことがあった。その時は、慈悲も、同情も、何も感じなかった。目を開けると、少年の瀕死の身体が目に映る。
少年の身体があの子と重なる……
胸が鈍く痛む。
〈弱くなったのだろうか?〉
《そんなことないよ》
きっと亡き妻がいたら言ったであろう、言葉が、力と温もりと共に湧いてくる。
「おい龍成。『砂』んとこに行ってくれるか?」
「…はぃ」
先輩から命令が下りる。話を聞くと【風】の『隣人』を筆頭に数名が足を切断されても尚『検査室』へと逃走を続けているようだ。ちなみに、『検査室』は4つとも集まっているため、どうせ行くつもりだったので丁度いいのかもしれない。そんなことを考えているとも知らずに、先輩は話を続ける。
「2つの意味で馬鹿だよなぁ~。あいつらの目的なんてどうせ『風の検査室』のダミーガラスからの脱走だ。
なんで信じているんだろうな
あれがガラスだと…。異能が使えるのが自分たちだけだってな」
先輩の言葉に無意識に頷く。先輩が僕に行かせる意図を汲んで、進む。僕が適任だということだ。
〈食堂にアピスや幼馴染は来てなかった……〉
『砂の検査室』に足を運びながら、ふと思い出したのだった――
☆side??
カツンカツンカツンカツン....
妙なゴーグルをかけて暗い廊下をいつも通りの歩調で男は歩く。よく見れば妙な筒状のものを持っているせいか僅かに重心がズレている。耳元には見覚えしかないピアスがあった。男は時折、ニヤニヤとほくそ笑んでいた。そして、止まる。
ガチャ……
この部屋の扉を開け、高らかと言い放つ。
「『隣人』は案の定、ただの狂犬にすぎない。問題はお前だよな?把握かってるぜ?そこにいるのは…………
『神子』ちゃんよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
まるで狂ったかのように筒状のものからナニかを乱暴に放ちだす。
わかったぞ。この能力も、施設の陰謀も、自身の正体も……。今となっては検査の『仕掛け』である『砂』・『滝』・『風』・『雷』に対して
ダメージを受けない、無敵や無効化といった境地に至った。
まぁ、それでも食らったフリを続けている。弱く見られた方が都合がいいからだ。
さらに言えば、それらをコントロールできるようだ。
4つの能力を使えると言っても過言ではない。そう、まるで、伝説の『龍』のように……。反射的に一般知識が引用される。
[龍…伝説上の生き物。主に水龍を始め様々な力を持った龍がいる。想像上と言えどあまりの神々しさに、神の使いや神同然の扱いをされることもある]
[五龍神…万物は5つに分類できるという思想(五行思想)に影響されたもの。春夏秋冬や五行などの意味をもつとされる。『五龍神』は龍を神と同格に崇拝されていたと考えられる。その具体的な名称は以下の通r]
また、五行は
[五行…木 ・ 火 ・ 土 ・ 金 ・ 水に分r]
ちなみに、『八卦』では、『風』や『雷』は『木』に分類される。
この『一般知識の引用』は、いつの間にか日常に溶け込んでいる。
まぁ、『龍』や『五行』、『八卦』などの線を少し考えていたが、辻褄が合わな過ぎたのだ。もっと筋の通った考えが確立された。
複数能力を保持しているのだろうか?
否!これは1つの能力だけで複数の能力に見せているのだ。
そして、検査での『仕掛け』には共通点があった。それが、能力の本質と大きく関わっていたと考えられる。
それは、流れだ。
『流れている』と把握したもの限定で、感知・制御・操作できるようだ。少なくとも、今、操れる物は、
流砂・水流・風・電流
今ではこの能力のせいか、周りの動きが視えるようになったのだ。これらの能力によって、とある話し声が聞こえた。
【風】の応用で話し声を運ばせただけだが。
その話し声は被害者たちのものだと知った。どうにも最近ではある男子集団が反抗計画を練っているらしい。
何を隠そう、ボクら被害者は『検査』を受けているのだ。
ここの施設の陰謀は、子どもたちの『検査』だ。
では、何故ボクらを『検査』するのだろうか?
ここで、ボクらの正体が関わってくる。ボクの思考の順序を知っているかのように、『一般知識』が引用される。
[神子…異能を操る神童、それこそ神様のような子どもが世界には存在する。神子が死ぬと新しい神子の力が子どもに宿るとされる。つまり、世界に常に神子はいるとされている]
『常識』は不思議なほどに自然と染み付いており、綴りや意味が分からないと一瞬でも思えば、『引用』されるようだ。疑問点としては、何故最初の問いである病衣について『引用』されなかったのかは、まだ分かっていない……。始まりの1週間ではこれはなかったものだ。謎は多い。
おっと脱線した。
詰まる所、『神子』はボクなのだと思う。この施設は『神子』を探し、それを支配下に置こうとしているようだ。
また、『神子』とは別に、異能を扱う存在がある。
案の定、『引用』される。
[妖精の隣人…異能は一つだけの上、その一つでさえ神子に劣る。質も量もどこか物足りなさがある。その戦力は所詮人間のお隣さんにすぎないのだ]
『妖精の隣人(以下:隣人)』は恐らくこの施設内にたくさんいる。まさに、反抗計画を練っている男子集団には『隣人』がいるようで、『隣人』曰はく、
「俺たちは妖精にお願いしているにすぎない」
そう漏らしていた。『神子』も『隣人』も同じような異能ならば、ボクにはまだ見えないだけで妖精はいるのだろうか?
「フーーー……」
ゆっくりと息を吐き出し、頭をクールダウンさせる。そう、熱を冷やすために……。それは、興奮からではない。情報処理で熱くなるパソコンに近いのだと思う。
あの日、グラさんとの問答で感情が壊れた。
目の前にはソースがかけられた『とんかつ』が少し残っていた。ほとんど無心で食べていたようだ。まぁ、脳内で丁寧に情報整理していたのだから、しょうがない。
言ってしまえば、どうでもいい
喜怒哀楽をほぼ忘れたようなボクにとって、どう食べても味も、感想も変わりはしないのだ。この生活が始まった当初はこのソースに救われた節もあった。だからだろうか、残せば少しだけ心の何処かが翳る。ただの癖みたいなものだ。
さて、これまでの生活を振り返って情報を整理した。それでも未だに謎がある。
謎は2つ
〈この身体の認識〉
〈一般教養知識〉
前者は違和感と言える。
過去、ボクは何をしていたのか、
それが気になって仕方がなかった。
ボクは誰かと比較して自分の状態を把握していた
約一年前に思ったことだ。ボクはこう思わずにいられなかった。
輪廻転生もしくは、時間のループ
もし、誰かのせいの基で、考えていると仮定するならそのあたりが怪しい。『タイムリープ』だったら『誰か』が『過去や未来の自分』となるのだが……。結論が出せるはずもなく、これ以上の進展は未だにない。
ピアス野郎への生理的憎悪も何かしらの因果かもしれない。
後者には2つの謎が内包されている。
❶どうして、引用されるのか
❷どうして、こんなに常識を知っているのだろうか?
❶『引用』は謎だ。辞書引きと言ったが、性能はこちらの方が遥かに上だ。ほぼ待ちなしで返事が返ってくるのだ。そうは言っても、人間でもAIでもないから会話は成り立たない。
❷『引用』抜きにしても知りすぎている気がした。この年代で知ることではないことも含まれている。それこそ、大人にとっての常識やマナー、サバイバル知識まであるのだ。こんなことを外で暮らしていたとしても、知っているだろうか?
[No]
頭の中で2文字が浮かんだ。普段は反応しない一般知識も、妙な時に返事をするものだな。
ボクは個人の部屋にいた。窓越しに見えるグラサンの人を一瞥し、そっと目を閉じた。
異変に対応するために……
そして、見えない状態で、さりげなく、さも自然に、流れるように足元に手を伸ばす……。常人が耳を澄ませば、小さな声が聞こえるのだろう。
「なっ……!?」
グラサンの人の声だろう。ボクは淡々と状況を把握した。目を開けたのだが、もはや何も変わらなかった。
そう視界は真っ黒だった。
ゆっくり立ち上がり、出入り口に足を運ぶ。扉は常時オートロックというか、『電気』で鍵をかけるタイプのものだから、【電気】で簡単に解除できるのだ。扉を出るとすぐに通路だった。左右に分かれているようだが、実際は暗闇で壁も見えはしない。
それでも、【風】の本質、『空気』の流れを感じる、視ることで、
空間把握能力は格段と上がるのだ。
マップを把握しているため迷いはしない。
<左だ>
頭の中に作ったマップを辿るように歩みを進める。扉の開閉音が聞こえたので、陰に潜むように体を丸める。数瞬後、反対方向に進む足音が聞こえたが関係ない。
――side龍成
僕はずっと葛藤に苛まれていた。あの日、僕が言ってしまった。
《……僕は敵だ……》
たったそれだけとも思う自分も、少なからず……いた。
それは間違っていない。
でも、あの子には言ってはいけなかった。心身ともに疲弊しきった状態で、疑心暗鬼になり、あの子の目から見たら最後の希望だったのだろう。
分かっていた。
望む言葉を出す覚悟も、権利もあるわけがない。
そもそも、『味方』だと言ってはいけないことも分かっていた。
頭の中では結論はついていた。それでもグズグズ引きずるのは、あの子の様子を毎日観ているからこそ、あの子の苦悩が、辛さが痛いほど分かってしまうのだ。
〈僕は間違っていたのだろうか?〉
誰も答えてはくれない。僕もあの子も相談や頼る相手がいないのだ。お互い認知しているのに、あの子の痛みが分かっているのに……。こうも何もできないとは、運命は残酷だ………。
この施設にあの子が連れてこられてから約1年だ。
そう1年なのだ……。
いつしか、感情を表に出さないようになった。心ここにあらずと言わんばかりに、ほとんど無心に食べている様は
僕の心に深々と突き刺さる……。
〈覚悟を決めないとな……〉
手元には監視カメラにも映らないように大事なソレをそっと撫でる。自責と自己嫌悪とは別に、渇望に近い願望が渦巻く。撫でていたソレを無意識に強く握った。
〈しっかりしないと……〉
あぁ今、あの子が食べている『とんかつ』を見ながら思いを馳せる。依怙贔屓のようで少なからず罪悪感はあるが、
あの子にはこんな仕打ちは酷すぎる。
『食堂』で弁当配布は有りはするが、お粗末すぎるのだ。そう思ったから作るようにした。
ガスを使ったこだわりの『とんかつ』であった。
強火、とろ火、加熱方法などもウマイ人の見よう見まねで心を込めて作った代物だった。
〈誰も美味しいと言ってはくれないがな〉
自虐的に嘲笑を浮かべた。
《美味しい!ありがとう龍成》
忘れるはずのない幸せな笑顔が脳裏に甦る。連想的に自分のしたこと、していること、する未来のようなものが視えた。不意の走馬灯のような現象に何故か涙が自然と零れ落ちる。
「なっ……!?」
目元を拭うのとほぼ同時に、視界が暗転した。反射的に声が漏らしたのだ。その原因は目を開けた際のブラックアウトもあるが、感情が乱れたのもあるだろう。声を漏らした直後、同僚からの言葉を思い出す。
《近々、反抗が起こるだろう。『神子』に、細心の注意を払え》
きっとこのことを知っていたのだと直感がそう言っている。そこまで考えると、部屋の扉の開閉音が響く。
あの子が部屋から出てしまったのだと察する。
なんとかして取り出したペンライトで辺りを照らす。明かりを照らしてすぐソレの存在を確認する。
「良かった……」
冷静になれた頭で状況を整理する。
パチ、パチッ……。
施設のブレーカーが落とされたようで、照明のスイッチは意味をなさない。電気器具は使えないものが多いことが察した。
監視室であるこの部屋の裏にある倉庫に入る。小さな光を頼りに多少埃の被ったランタンを取り出し、廊下に向かう。耳を澄ませば、廊下の右側から叫び声が聞こえる。
「集まらなきゃ……」
思考放棄して、考えなしに集まろうとしてるのではない。心のどこかでこの状況を予見していたのか、冷静だった。きちんとした目的の基で右に進むことを決意した。
<施設の全体の動きを把握することが、この後どう転じようがカギになってくるハズだ>
そこまで結論を出しても、未だ自分の今後の立ち振る舞いを困っていた。
<どうすればいいのか?>
出ない答えに葛藤しながら、廊下の一直線上にある『検査室』に重い足を進めていく……。
食堂に着いた。そこでは凄惨な光景が広がっていた。『隣人』としての『検査』を受けた少年たちは床で呻き蠢いていた。
「くそがっ………」
少年たちの最期の抵抗かのように、声を絞り出す。ランタンで足元を照らせば、血だまりは僕の足に纏わりつくかのように床に広がっており、少年たちの足が捥げているようだ。
「……」
静かに目を瞑る。この光景は頭の片隅で知っていた。なんだったら、その瞬間も観たことがあった。その時は、慈悲も、同情も、何も感じなかった。目を開けると、少年の瀕死の身体が目に映る。
少年の身体があの子と重なる……
胸が鈍く痛む。
〈弱くなったのだろうか?〉
《そんなことないよ》
きっと亡き妻がいたら言ったであろう、言葉が、力と温もりと共に湧いてくる。
「おい龍成。『砂』んとこに行ってくれるか?」
「…はぃ」
先輩から命令が下りる。話を聞くと【風】の『隣人』を筆頭に数名が足を切断されても尚『検査室』へと逃走を続けているようだ。ちなみに、『検査室』は4つとも集まっているため、どうせ行くつもりだったので丁度いいのかもしれない。そんなことを考えているとも知らずに、先輩は話を続ける。
「2つの意味で馬鹿だよなぁ~。あいつらの目的なんてどうせ『風の検査室』のダミーガラスからの脱走だ。
なんで信じているんだろうな
あれがガラスだと…。異能が使えるのが自分たちだけだってな」
先輩の言葉に無意識に頷く。先輩が僕に行かせる意図を汲んで、進む。僕が適任だということだ。
〈食堂にアピスや幼馴染は来てなかった……〉
『砂の検査室』に足を運びながら、ふと思い出したのだった――
☆side??
カツンカツンカツンカツン....
妙なゴーグルをかけて暗い廊下をいつも通りの歩調で男は歩く。よく見れば妙な筒状のものを持っているせいか僅かに重心がズレている。耳元には見覚えしかないピアスがあった。男は時折、ニヤニヤとほくそ笑んでいた。そして、止まる。
ガチャ……
この部屋の扉を開け、高らかと言い放つ。
「『隣人』は案の定、ただの狂犬にすぎない。問題はお前だよな?把握かってるぜ?そこにいるのは…………
『神子』ちゃんよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
まるで狂ったかのように筒状のものからナニかを乱暴に放ちだす。
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