解放

かひけつ

文字の大きさ
34 / 136
第3章 ~よう

別れ

しおりを挟む
☆sideシン
オレはリンが倒れるのを見ていることしかできなかった。すぐさま、リンを抱き起す。

 〔リン!大丈夫か!?〕

 「……」

リンもメハも何も喋らない。違和感と焦燥感からメハへ視線を向けると、立ってるのも辛そうにしてるメハが目に焼き付く。悲痛さを滲ませたメハの目からハイライトが消えていく。そして、落ち着いた口ぶりで話し始める。

 「…私たちを徹底的に潰すつもりみたいね」

メハが手を見せながらそう言う。その手はホログラムのように透けていて、ところごころがバグったように黒ずんだり、重なって存在したりしている。

 〔どうすりゃいいんだよ…〕

 「決まってるでしょ。さっさとここをログアウトしなさい」

メハは背を向けてそう言う。だから言わずにはいられなかった。

 〔メハも一緒にだろ?〕

メハは小さく首を振る。

 「やだよ…」

見るからに衰弱しているリンは小さく、だがはっきりとそう言う。

 「リン!あなたなら分かってるでしょ?もう私の体は!!」

 「…でも!…ぃや」

リンはうつ伏せになったまま匍匐ほふく前進のようにメハに這い寄ろうとする。だが、片手だけではなかなか進まない上に、力もそんなにないので、ほとんど動けない。リンは体も意識も限界に近いはずなのに、叫ぶ。

 「シン!!力、かして!」

 「リン…」

メハは分かっていた。いや、リンも頭では分かっているのだろう。オレの力は万能ではない。ルコの身体がボロボロになったように、適応できない身体にはオレの異能は害となる。確かに子どもは適応しやすい。が、リンの身体は今蝕まれている。とてもじゃないが耐えられない。せめて、安定させてからなら話は別だが……。

 〔……〕

メハをチラ見する。メハもオレの異能を使う適性があった。が、彼女もまたプログラムにウイルスが入り込んで弱っている。

 <メハが犠牲覚悟でリンに異能を使>

 「…!」

 「……リン?」

リンはオレとメハの間に立ち上がる。

 「無理しちゃダm」

こちらに殺気に近い圧をかけて一言だけ話す。

 「てき?」

オレは息を飲んだ。動揺しながら言葉を並べる。

 「…敵じゃない」

 「そ…」

フラッ

リンはそのままて倒れてしまう。

 「っ!危ない」

 「まったく…リンったら」

倒れる前になんとか浮かばせる。メハはそう言いながらリンの頬を比較的綺麗な左手で撫でる。

 〔あんさ…出るしかないのも分かっているんだ。だが、アピスあいつが外もどうかしてそうな気がしてならない。リンをここに残す選択肢ってないのか?〕

 「それが合理的だと思うの?」

 〔…あぁ無理だろな。あいつなら、たとえここで出られない状態であっても確実に排除するだろう〕

 「そうなんだろね。なら一択しかないでしょ?」

メハはゲートのようなものを作り出す。

 〔くっそ……〕

これが現実。自分の無力感に嫌気がさしてくる。リンを通したらあの病室リアルに戻る。そして、新たな局面に迎えることを察していた。リンの身体に触らないように浮かばせて、ゲートの手前に足を運ぶ。

 「…また………」

リンは夢現ゆめうつつで呟いているようだ。そこでメハの方に振り返る。

 〔言伝はいるか?〕

 「そうね…。じゃあお願い」

このまま引きずりだしても意味がない。寧ろ状況が悪化しうる。

 <歯がゆい……>

メハの言伝は愛に満ちていた。直視できなくなる笑顔をメハはこちらに向ける。

 〔ごめん…〕

 「…気n(#……」

メハの声帯は本来の機能を失なったようだ。微笑を携えて、口をぱくぱくと動かしている。

 [よ ろ し く]

見ているだけで辛くなった。だから、オレはメハに背を向ける。

 〔……任せろ〕

せめてもの贖罪。背負うこと意志を表明する。後ろ髪をひかれる思いでゲートをくぐる。それしかできないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...