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第3章 ~よう
確かめ⑦
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――sideメハ
ざーー
私たちの話しているところ以外には雨が降っていて、その雑音のような雨音が妙に鮮明に聞こえた。時間にしては数秒だろう。でも、衝撃だったから長く感じてしまう。
「……」
私が黙ったせいかリンは少しだけ慌てて言葉を紡ぐ。
「しちゃいけないことは…しない。…しなきゃいけないことは…してた」
それは自慢でもなんでもなく、ただの過去、そして、今に続く事実なのだって分かってる。なによりリンをずっと見てきた私が事実だと確信する。この子は自分の仕事だと、すべきことだと認識した物事には卒なくこなしてきた。
「……でも、しなきゃいけなくても…メハを苦しめるなら……しないよ」
………
最早、音などしない。リンと私だけの空間だった。大人のような落ち着きを崩さないように見えるが、リンらしくない子どものようなことを言う。
<あぁ…。誰がこんなにおバカにさせちゃったんかな…>
涙が止まらなくなる。リンを愛してくれる人や霊もいた。親がいなかったからだろうか。リンは薄く笑うこともあるが、心の底から笑っているのか分からなかった。これは自分がAIだからなど関係ないはずだ。でも、この子は間違いなく私を心配してくれているし、これまでだって心から友達に、姉妹に、家族に、とにかく大切な存在だってお互いが思えていた。
「……」
リンも言いたいことがなくなったようで、雨が不規則に奏でる雑音だけが、そこにあった。私はいずれにしても聞かなければならないことを聞いた。
「リンにとって幸せって何?」
「…多くの人が喜べること……?」
「あはは、それはみんなが幸せだってことで、リンがそれで幸せを感じてるようには見えなかったな」
馬鹿にしてるわけでもなんでもなくて、ゲームでも、リアルでも他人の笑顔を求めたり、与えようとはあまりしていなかった。
<誰かを思うよりも、明らかにどこか異質な自分の存在をどこか低く評価しているクセがある。そういうとこだけ見ると意外と子供っぽかったりするのよね>
「……なら、ないかも」
少し、リンの表情が陰る。
「リンも、もっと求めていいんだよ?ほらゲームだって、楽しかったでしょ?頭使うのも上手だし、仕事は嫌かもだけどリンの好きなように才能を伸ばすのも全然良いし、身体も」
私はリンを傷つけないように、必死に可能性の話を続ける。
「求め過ぎは良くない…から」
<そ…っか。この子は目先の欲に囚われない。長い目で物事を見ることができる……。…だとしても!!>
リンの見落としを探し出したように思える、閃き。忘れがちな可能性を、思いついた。
「じゃあさ、拷問や苦痛でしかない末路になったら?それでも幸せにこだわらないの?」
<希望的観測を許さない絶対的な絶望ならきっと!安全を、幸せを望むでしょ?>
「受け入れるの」
分かっていたはずだった。その器が垣間見れた気がした。
<リンがおバカなのは、一番近くにいたのが私だったから…>
さーー
雨音は少し優しく、明るさを帯びてきた。私が腹をくくるべきだと思った。
<行っていいよ>
心の中でそう呟いているだけでリンにはわかるだろうけど、声に出すことにした。
「行っt」
〔メハ!リン!!今すぐ出るぞ〕
「何よ?!急に」
流れる涙を神とは言え、見られたくなく虚勢を吐いて声の方に背を向ける。
〔一刻を争うんだ!メハ頼む。ログアウトだ!!〕
「はぁ?まぁ分かっ」
ドサァ……。
「…あれ?」
「……!!」
リンの体が傾き、倒れた。本人は他人事のように冷静な声色で言葉を並べる。
「まひ…した」
[麻痺]だと気づくのに数瞬を要した。動揺か、リンの姿が三重に映る。一周回った冷静さが、直感が告げる。リンとお別れになると……――
ざーー
私たちの話しているところ以外には雨が降っていて、その雑音のような雨音が妙に鮮明に聞こえた。時間にしては数秒だろう。でも、衝撃だったから長く感じてしまう。
「……」
私が黙ったせいかリンは少しだけ慌てて言葉を紡ぐ。
「しちゃいけないことは…しない。…しなきゃいけないことは…してた」
それは自慢でもなんでもなく、ただの過去、そして、今に続く事実なのだって分かってる。なによりリンをずっと見てきた私が事実だと確信する。この子は自分の仕事だと、すべきことだと認識した物事には卒なくこなしてきた。
「……でも、しなきゃいけなくても…メハを苦しめるなら……しないよ」
………
最早、音などしない。リンと私だけの空間だった。大人のような落ち着きを崩さないように見えるが、リンらしくない子どものようなことを言う。
<あぁ…。誰がこんなにおバカにさせちゃったんかな…>
涙が止まらなくなる。リンを愛してくれる人や霊もいた。親がいなかったからだろうか。リンは薄く笑うこともあるが、心の底から笑っているのか分からなかった。これは自分がAIだからなど関係ないはずだ。でも、この子は間違いなく私を心配してくれているし、これまでだって心から友達に、姉妹に、家族に、とにかく大切な存在だってお互いが思えていた。
「……」
リンも言いたいことがなくなったようで、雨が不規則に奏でる雑音だけが、そこにあった。私はいずれにしても聞かなければならないことを聞いた。
「リンにとって幸せって何?」
「…多くの人が喜べること……?」
「あはは、それはみんなが幸せだってことで、リンがそれで幸せを感じてるようには見えなかったな」
馬鹿にしてるわけでもなんでもなくて、ゲームでも、リアルでも他人の笑顔を求めたり、与えようとはあまりしていなかった。
<誰かを思うよりも、明らかにどこか異質な自分の存在をどこか低く評価しているクセがある。そういうとこだけ見ると意外と子供っぽかったりするのよね>
「……なら、ないかも」
少し、リンの表情が陰る。
「リンも、もっと求めていいんだよ?ほらゲームだって、楽しかったでしょ?頭使うのも上手だし、仕事は嫌かもだけどリンの好きなように才能を伸ばすのも全然良いし、身体も」
私はリンを傷つけないように、必死に可能性の話を続ける。
「求め過ぎは良くない…から」
<そ…っか。この子は目先の欲に囚われない。長い目で物事を見ることができる……。…だとしても!!>
リンの見落としを探し出したように思える、閃き。忘れがちな可能性を、思いついた。
「じゃあさ、拷問や苦痛でしかない末路になったら?それでも幸せにこだわらないの?」
<希望的観測を許さない絶対的な絶望ならきっと!安全を、幸せを望むでしょ?>
「受け入れるの」
分かっていたはずだった。その器が垣間見れた気がした。
<リンがおバカなのは、一番近くにいたのが私だったから…>
さーー
雨音は少し優しく、明るさを帯びてきた。私が腹をくくるべきだと思った。
<行っていいよ>
心の中でそう呟いているだけでリンにはわかるだろうけど、声に出すことにした。
「行っt」
〔メハ!リン!!今すぐ出るぞ〕
「何よ?!急に」
流れる涙を神とは言え、見られたくなく虚勢を吐いて声の方に背を向ける。
〔一刻を争うんだ!メハ頼む。ログアウトだ!!〕
「はぁ?まぁ分かっ」
ドサァ……。
「…あれ?」
「……!!」
リンの体が傾き、倒れた。本人は他人事のように冷静な声色で言葉を並べる。
「まひ…した」
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