解放

かひけつ

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第3章 ~よう

器②

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――sideルコ
私は違和感から警戒心を引き上げるも、所詮は違和感でしかなく、リンを中途半端に抑止しようとする。

 「お嬢ちゃん。ごめんね。邪魔しちゃった」

 「……」

まともで、なんてことない対応。不審な点は一切ないので、また何も言えない…。リンは首を小さくふった。

 「…気にしないで」

 「独りでいると危ないから、もう帰るといい」

優しい口調で、おかしなことは言っていない。故に、裏があるように思えて仕方ない。下手にこれ以上の接触を許したくなかったので、リンにだけ聞こえるように『声』を出す。

 「リン、みんなのとこ戻ろ」

 「待って…」

 「…っ!?」

尾行が気づかれてるのは分かっていたが、想定していない返事が返ってくる。私に向けてじゃない。

 「あっちの大通りまで護衛してよ」

 「…いやぁ、それは仕事ではないな」

高鳴る緊張感の隅で違和感がふと膨らむ。でも、それが何を意味するのか、何に起因しているのか分からずもどかしい。リンがなぜ、こう言ったのかは、私の『予測』の域を超えているようにも思えた。人目がなさそうな物静かな公園でリンと警察官が向かい合う。

 「リン…一応、読んで来ようか?」

 「…いい」

 「……わかっt…………………………??!!」

大人しく引き下がろうとした。そこで、違和感の正体に気付く。警察はアピスの庭であることを忘れていたのだ。あのタイミングで、私の『予測』を超えてくるだけで十分異常。配信機器の故障も、関係がないわけがない。

 「…ふっ」

 「リン!!?」

 「…」

あんな風に薄く笑われて、より一層不気味さを感じてしまう私とは裏腹、リンの表情は心なしか明るい。何もしなくていいと、安心していいと言われているような落ち着きを感じ取る。少なくとも、こう言うといいことは、リンから見て悪意のある接触や敵である可能性が極めて低いからだと判断する。それでも、一言だけ付け足す。

 「いつでも…頼っていいからね」

 「うん」

少し目を細めたリンと見知らぬ警官の間に懐かしい風が吹いたような気がした――



――side警官
少女に導かれ、ベンチに二人で座った。あれから会話はなく、近すぎず、遠すぎない距離で、隣に座っている。たったそれだけだ。大きな変化が一度だけあった。

 頬に一筋の涙が滴る。

だが、声をかけることも、何かしてやることも、何もわかりはしないオレにできることなんざ、傍にいるくらいしかなかった。互いの存在を認知したまま、ただただ時間が過ぎる……。



沈黙を破ったのは、少女からだった。

 「……なんで来たの?」

 「嬢ちゃんのような弱った子を放っておけないんだよ」

 「……分からない ことだらけ……」

涙が失せたが表情に大きな変化はない…。

 <ない……?>

変化があった。覚悟を決めた清々しい雰囲気を漂わせる。ただ…

 <

なぜそんな風に感じたかは分からない。少女の成長が魂ごと次元を上げたのか、それともメハや霊などから何か導きがあったのか……。直感する。

 <これはきっと前進だ…>

美しさすら感じさせる少女が感慨深げに呟く。

 「…でも、もう前に進める」

 「そっか、嬢ちゃんは強いんだね」

勝手な思い込みかもしれないが、一人で悩み、吐きだし、成長する姿にはそこらの人間には見えない逞しさを感じさせられた。

 「そう言うおじさんは優しそう」

 「ははは、ありがとう。うん、じゃあ、おじさんの用は済んだかな」

両手を膝を叩き、立ち上がる。

 「……名前聞きたい…」

 「??……どうしてだい?」

 「なんとなく…また会う気が、会った気がするの」

 「面白いことを言うね。おじさんの名前はニントさ。…逆に、嬢ちゃんの名前も、聞いても良いかな?」

聞かないのも、会話的に不自然になりかねないため言ったが、下手に誰かに聞かれてはマズイことを聞いているため欠片の不安がよぎる。

 「リン…」

 「教えてくれて、ありがとう。良い名前だね」

 「ニントも…」

 「…ありがとう。ちゃんとした大人を頼るんだぞ~」

 「うん…またね」

 「…ぁあ、きっとまた会えるさ」

全てを信用されたわけじゃないし、特別仲良くなれたわけではないのだろうが、確かな信頼を取り戻せた気がした。そして何より、裏の裏まで読んでいる……。帯びそうになる熱を最低限に抑え、表情だけでなく、心拍、筋肉のこわばりまでもコントロールする。感づかれてはいけないから。



少女と別れたあと、上司に報告する。

 「報告はあるか…?」

 「異常ありません!ただ、公園で悪質な撮影をしていた若者には注意をしました」

 「…よろしい。巡回ルートを報告書に記載したら今日は上がっていい」

 「了解です。失礼しました」

報告書を書きながら、片手間で新聞を広げる。新聞には見出しの大部分が国王のことが、良いこと悪いこと書かれた。

 [ミラボール!!世界的大ヒット!!シェア率90%!!?]
 [技術力がさらに加速。安全で、正確で、機能性溢れる社会の実現か?]
 [他国へ売り込み!!アピス商会の独占間近?]
 [独占はしない!寛容な王の施策~競争法の内容~]
 [前王グルバンも金に目が眩んだか?]
 [潮の満ち引きが過去最大の変化!?]
 [グルバンの不老の技術はコレか!!]

嫌なニュースばかりで眉を顰めながらコーヒーを一口含む。

 <あれが王だなんて……>

そんな時に視界に入った異物白衣に、目を奪われる。街に溶け込めないその白衣は、見覚えしかなかった。誰かが、ごちる。

 「…アピス様だ」

 「なんで、こんなに??」

 「おい知らないのか?仮装だよ仮装。お前ら、SNS疎いんだから~~」

 「へー、昨日から今日やるって告知されてたんか。ん?なんのため?」

人の会話が右から左へと流れる。なんのため?その言葉が深く突き刺さる。

 <こんなの……>

 「アレじゃね?国のマスコット化したいんじゃない」

 <悪意でしかない……!!!>

 「はぁ……はぁ………っ!!」

自然と息が上がる。

 「へー、そんなことしなくても、十分偉人レジェンド扱いされてるだろ」

混乱させる…ためだ。違和感を取り払い、明らかなに異質な空気感はほぼほぼ出来上がっている……。もはや、誰の声も聞こえない。

 「……聞いてないぞ」

気づいたときには駆けだしていた。お嬢様のために――
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