解放

かひけつ

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第3章 ~よう

器③

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☆sideシン
ルコとリンがすごいスピードで帰って来る。

 「ただいま」

 「…な、なにかあったのか?」

 「えっと、その…」

ルコは言い淀む。リンはあっけらかんとして答える。

 「いい人に会った。覚悟を決めた」

 「……」

オレは何も返せずにいた。ケイトは閉じていた目を開け、ゆっくりと問う。

 「リン。これからどうする」

 「アピスを鎮圧する」

 「……!!!」

これまでとは、一味違ったように感じる声色に少し泣きそうになってしまうのだが、含まれるかつてない頼もしさはまさに……。

 「リンの意志かい?」

 「もちろん」

 「メハの遺志とか、背負ってたりは?」

 「それはない。したいからする。しなきゃも、なくはないけど」

 「したい理由は?」

 「嫌いだから」

 「……」

 「………」

 「これで終わりなんて、嫌だ」

バサッ!!

 「……!」

リンはアピスを彷彿とさせる事件が載った新聞を広げる。

 「載せた人たちは、アピスからの圧力を受けてる!」

 「……!!」

 「警察は目や耳、手足になってる。企業も八百長だし、他国もアピスとの戦力差や技術差でまともな話し合いを諦めてる」

一呼吸置いて、続ける。

 「元を正す」

 「……!」

 「ほう。それは、無限に増えてるかもしれない、国レベルでの敵対かもしれない、手数不明、実力不明瞭、負けたら終わり。それを分かって、かな?」

 「うん。負ける気はない」

ケイトの捲し立てるように言われても、動じない。

 「勝算はあるの?」

 「異能を最大限活用すれば勝てる」

 「それでも、死ぬ可能性はあるのは分かってるよね?」

 「可能性は、ね」

 「メハは生きててほしいんじゃないのかぇ?」

 「!」

 <そこに触れるのか!>

 「死にに行くつもりはない」

ケイトの口角が上がる。

 「放っておいても、命を狙われる可能性は高いし、ロクなことにならない」

 「うん。じゃあ、後はどうする?」

 「…」

 「アピスを排除したとして、それでお終いってわけじゃないでしょ?」

 「…それは」

 〔……!!〕

リンはさほど驚いていなさそうだが、オレは面食らってしまう。そう、もうこれまでとは比にならない規模なのは一目瞭然である。個人と国のトップ

 革命クーデターは痛みを伴う。

一番、革命のまずいところは国の崩壊。内政を充分に理解し、『現状以上』を実行できる技術とメンツ体制を整えることが革命の到達目標すべきことだが、完全に上手くいった革命に前例はない。現状の打破しか考えておらず、その先がおざなりになることは色んなことにおいてよくあることだ。だが、国民全体にその反動が及ぶのは、あまりにも酷。

 「…適性のある人を、集めるのくらいは頑張る」

それくらいのことは想定していたか、咄嗟に応えたのかはオレには分からない。なんにせよ。これは、大きな一歩であることは間違いないし、革命レベルで声を上げなければ、アピスを止められるものはいなくなる。リンは改めて、皆に問いかける。

 「わたしは、アピスを正しに行く。ついてき…いや、覚悟した人だけ、来て。会議する」

ケイトは優しい眼差しを向けている。もう口出しはしないようだ。リンは、いつもリンの周りに集まってくれた霊の反応に気が付き、訂正する。

 「…参加は絶対じゃないし、応援の存在は大きいからさ。力になってる」

微笑。僅かに表情が柔らかくなっただけなのだが、すごく、温かい。リンの周りに霊や妖精が来るのも分かる。聖職者が求める気品や威厳はそこにはない。でもそれ以上に必要な人類愛が、隣人愛が、運命愛が輝いているように見えるのだ。これは、王、いや神の器じゃないかとさえ思うレベルである。

 <とはいっても……>

そうなれる可能性があるからといって、それを強いるつもりはないわけで。リンはリンの人生を楽しんで欲しいと切に願う。だからこそ、アピスだけは、邪魔だ。アピスを放置しては、リンへの危害は、悪意は、嫌がらせは終わらない。終わらせるための作戦会議だ。オレは彼女らに最大限手を貸すだけだ。いや、まで懸けるだけだ。
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