92 / 136
第3章 ~よう
器③
しおりを挟む
☆sideシン
ルコとリンがすごいスピードで帰って来る。
「ただいま」
「…な、なにかあったのか?」
「えっと、その…」
ルコは言い淀む。リンはあっけらかんとして答える。
「いい人に会った。覚悟を決めた」
「……」
オレは何も返せずにいた。ケイトは閉じていた目を開け、ゆっくりと問う。
「リン。これからどうする」
「アピスを鎮圧する」
「……!!!」
これまでとは、一味違ったように感じる声色に少し泣きそうになってしまうのだが、含まれるかつてない頼もしさはまさに……。
「リンの意志かい?」
「もちろん」
「メハの遺志とか、背負ってたりは?」
「それはない。したいからする。しなきゃも、なくはないけど」
「したい理由は?」
「嫌いだから」
「……」
「………」
「これで終わりなんて、嫌だ」
バサッ!!
「……!」
リンはアピスを彷彿とさせる事件が載った新聞を広げる。
「載せた人たちは、アピスからの圧力を受けてる!」
「……!!」
「警察は目や耳、手足になってる。企業も八百長だし、他国もアピスとの戦力差や技術差でまともな話し合いを諦めてる」
一呼吸置いて、続ける。
「元を正す」
「……!」
「ほう。それは、無限に増えてるかもしれない、国レベルでの敵対かもしれない、手数不明、実力不明瞭、負けたら終わり。それを分かって、かな?」
「うん。負ける気はない」
ケイトの捲し立てるように言われても、動じない。
「勝算はあるの?」
「異能を最大限活用すれば勝てる」
「それでも、死ぬ可能性はあるのは分かってるよね?」
「可能性は、ね」
「メハは生きててほしいんじゃないのかぇ?」
「!」
<そこに触れるのか!>
「死にに行くつもりはない」
ケイトの口角が上がる。
「放っておいても、命を狙われる可能性は高いし、ロクなことにならない」
「うん。じゃあ、後はどうする?」
「…」
「アピスを排除したとして、それでお終いってわけじゃないでしょ?」
「…それは」
〔……!!〕
リンはさほど驚いていなさそうだが、オレは面食らってしまう。そう、もうこれまでとは比にならない規模なのは一目瞭然である。個人と国の王。
革命は痛みを伴う。
一番、革命のまずいところは国の崩壊。内政を充分に理解し、『現状以上』を実行できる技術とメンツを整えることが革命の到達目標だが、完全に上手くいった革命に前例はない。現状の打破しか考えておらず、その先がおざなりになることは色んなことにおいてよくあることだ。だが、国民全体にその反動が及ぶのは、あまりにも酷。
「…適性のある人を、集めるのくらいは頑張る」
それくらいのことは想定していたか、咄嗟に応えたのかはオレには分からない。なんにせよ。これは、大きな一歩であることは間違いないし、革命レベルで声を上げなければ、アピスを止められるものはいなくなる。リンは改めて、皆に問いかける。
「わたしは、アピスを正しに行く。ついてき…いや、覚悟した人だけ、来て。会議する」
ケイトは優しい眼差しを向けている。もう口出しはしないようだ。リンは、いつもリンの周りに集まってくれた霊の反応に気が付き、訂正する。
「…参加は絶対じゃないし、応援の存在は大きいからさ。力になってる」
微笑。僅かに表情が柔らかくなっただけなのだが、すごく、温かい。リンの周りに霊や妖精が来るのも分かる。聖職者が求める気品や威厳はそこにはない。でもそれ以上に必要な人類愛が、隣人愛が、運命愛が輝いているように見えるのだ。これは、王、いや神の器じゃないかとさえ思うレベルである。
<とはいっても……>
そうなれる可能性があるからといって、それを強いるつもりはないわけで。リンはリンの人生を楽しんで欲しいと切に願う。だからこそ、アピスだけは、邪魔だ。アピスを放置しては、リンへの危害は、悪意は、嫌がらせは終わらない。終わらせるための作戦会議だ。オレは彼女らに最大限手を貸すだけだ。いや、シンまで懸けるだけだ。
ルコとリンがすごいスピードで帰って来る。
「ただいま」
「…な、なにかあったのか?」
「えっと、その…」
ルコは言い淀む。リンはあっけらかんとして答える。
「いい人に会った。覚悟を決めた」
「……」
オレは何も返せずにいた。ケイトは閉じていた目を開け、ゆっくりと問う。
「リン。これからどうする」
「アピスを鎮圧する」
「……!!!」
これまでとは、一味違ったように感じる声色に少し泣きそうになってしまうのだが、含まれるかつてない頼もしさはまさに……。
「リンの意志かい?」
「もちろん」
「メハの遺志とか、背負ってたりは?」
「それはない。したいからする。しなきゃも、なくはないけど」
「したい理由は?」
「嫌いだから」
「……」
「………」
「これで終わりなんて、嫌だ」
バサッ!!
「……!」
リンはアピスを彷彿とさせる事件が載った新聞を広げる。
「載せた人たちは、アピスからの圧力を受けてる!」
「……!!」
「警察は目や耳、手足になってる。企業も八百長だし、他国もアピスとの戦力差や技術差でまともな話し合いを諦めてる」
一呼吸置いて、続ける。
「元を正す」
「……!」
「ほう。それは、無限に増えてるかもしれない、国レベルでの敵対かもしれない、手数不明、実力不明瞭、負けたら終わり。それを分かって、かな?」
「うん。負ける気はない」
ケイトの捲し立てるように言われても、動じない。
「勝算はあるの?」
「異能を最大限活用すれば勝てる」
「それでも、死ぬ可能性はあるのは分かってるよね?」
「可能性は、ね」
「メハは生きててほしいんじゃないのかぇ?」
「!」
<そこに触れるのか!>
「死にに行くつもりはない」
ケイトの口角が上がる。
「放っておいても、命を狙われる可能性は高いし、ロクなことにならない」
「うん。じゃあ、後はどうする?」
「…」
「アピスを排除したとして、それでお終いってわけじゃないでしょ?」
「…それは」
〔……!!〕
リンはさほど驚いていなさそうだが、オレは面食らってしまう。そう、もうこれまでとは比にならない規模なのは一目瞭然である。個人と国の王。
革命は痛みを伴う。
一番、革命のまずいところは国の崩壊。内政を充分に理解し、『現状以上』を実行できる技術とメンツを整えることが革命の到達目標だが、完全に上手くいった革命に前例はない。現状の打破しか考えておらず、その先がおざなりになることは色んなことにおいてよくあることだ。だが、国民全体にその反動が及ぶのは、あまりにも酷。
「…適性のある人を、集めるのくらいは頑張る」
それくらいのことは想定していたか、咄嗟に応えたのかはオレには分からない。なんにせよ。これは、大きな一歩であることは間違いないし、革命レベルで声を上げなければ、アピスを止められるものはいなくなる。リンは改めて、皆に問いかける。
「わたしは、アピスを正しに行く。ついてき…いや、覚悟した人だけ、来て。会議する」
ケイトは優しい眼差しを向けている。もう口出しはしないようだ。リンは、いつもリンの周りに集まってくれた霊の反応に気が付き、訂正する。
「…参加は絶対じゃないし、応援の存在は大きいからさ。力になってる」
微笑。僅かに表情が柔らかくなっただけなのだが、すごく、温かい。リンの周りに霊や妖精が来るのも分かる。聖職者が求める気品や威厳はそこにはない。でもそれ以上に必要な人類愛が、隣人愛が、運命愛が輝いているように見えるのだ。これは、王、いや神の器じゃないかとさえ思うレベルである。
<とはいっても……>
そうなれる可能性があるからといって、それを強いるつもりはないわけで。リンはリンの人生を楽しんで欲しいと切に願う。だからこそ、アピスだけは、邪魔だ。アピスを放置しては、リンへの危害は、悪意は、嫌がらせは終わらない。終わらせるための作戦会議だ。オレは彼女らに最大限手を貸すだけだ。いや、シンまで懸けるだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる