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終章
繋げ③
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――side流行
現世に居られる最後の日。グルバンとケイトは無理をしていたから、先に行ったみたいだけど…。私はまだやることがあった。
「ねぇーーー!ほんと終わんないんだけどぉお!!何このクソ長パスワード!!バカじゃないの!!!」
「黙って手動かしなさいよ」
「作業効率落ちてるわけじゃないんだし、イイでしょーー!!」
「うるさい、あんたはそうかもだけど、周りがいるでしょ」
「私の体がなかったら、なんもできないくせによく言うわね!死人に口なしでしょ!!」
「リン」
「終わった?ルコ姉ちゃん」
海月は笑ってしまうほど白くなる。
「へ…??!いつの間にいらしたんですか…」
「さっきから」
リンは以前のように感情ほぼゼロで返す。
「…一言言ってくださいよぉ…!」
海月は本当に小さく呟く。こういうやつだ。
「……」
リンは私にだけ見えるように瞬きする
<怒るつもりはないけど…軽くお灸を据えてくれたのね…。ここにいる誰よりも大人だよ…リン…>
地雷と言ってもいいワードが飛び出したにも拘わらず、この立ち振る舞い。……少し寂しくもある。
「お待たせ…リン。あとはお願いしていい?」
「ありがと…」
「……」
リンは今から、ミラボールのサーバーにあったAIと会話しに行く。『ザ・ワン』の『ミラボール電脳神計画』と称された計画は、インターネットを支配下に置くことで、人類の意思疎通や娯楽、情報をコントロールすることが目的。
文面だとその脅威が分かりにくいけど、フェイクニュースやアカウント乗っ取りなど情報操作を世界規模で牛耳ろうとしていた……
シャレにならない
各国要人とは会える顔を持ちつつ、洗脳で堕とすもよし、仲違いさせるもよし、金を稼いでもよし。
何も善くない
この計画の要はミラボールだ。細かい話をすっ飛ばすと、
ミラボールを世界中に配置させ、この世の電子機器をハッキング
下準備は十分だった
ミラボールにはアピス細胞を交えた連絡網と異能で連結していたが、サーバーにはAIが組み込まれていた。親和力がバカ高い『アピス』のせいで妨害は極めて難しい。本当にオワってる計画の一つ。
AIと言っても、情報だけ詰め込んであっただけで、本格的に稼働する直前でシステムをダウンしたから生まれたばかりみたいなもの……
<…リンとしてはメハと重ねて見てしまうよね…>
違うと分かっているし、本当の意味での家族は帰ってこない。
でも、リンが任せて欲しいって言ってくれた
AIを誰よりも正しく運用できるのはリンだって思うから、適任なのは間違いない。私がさっきまでパスワードを解いていたのも、リンが忙しいから代わりにしていただけで、リンの方が早かったに違いない。
「解いたの私だからーーちゃんと報酬ちょうだいよね!」
「……」
リンがいないことをいいことに声を荒げる。これが私の手綱なしでいいのか不安になる。
「心配か…?」
リンと一緒に部屋に入って来た者がいた。大神だ。
「海月さ、あんたんとこで預かってくれない?」
「……」
「は!?嫌だけど!!絶対キツいじゃん!私、今回めっちゃ頑張ったよ?『施設』の件だって命懸けてたからね!!…それを無下にするなんてリンちゃんの手前いいのかな~~悪影響になっちゃうよーー」
報酬をちゃんとやれば働くとは分かっていたが、ここまでデカい態度取るようになるとはちょっと想定外ではあった。もっと予想外だったのは、大人しくなった大神だけど。
「俺んとこで働かせたり、なんかさせるのは別にいいが……それでいいのか?」
「選択肢として聞いただけ……制御できる誰かが付いておかないと暴れそうだけど、リンに任せたらフリーになりそうなのよね」
「正当な報酬を要求してるだけじゃん……そんな不相応な野望もないし、私、頭下げるの厭わないよ?ただ普通の生活したいだけで」
嘘は言ってない
「……」
でも、裏切らない証明にはならない
美味しい話についていくから、簡単に利用できるのは海月のいい所だけど、利用されやすいのが大きいデメリット。誰かの計画に乗ってリンに歯向かってきたら困る。海月を任せられそうな人を考える。
〈リンの周りにいるのは、執事のルピカと『アウトロー』、護衛の『パーフェクトボディー』、常識人系被害者の『オリジナル』…そして、黒幕〉〈ヤイグは論外だとして、ルピカ辺りならリンの危険に敏感だからお願いしても良くはあるけど、あの人達は意外と単純だから騙されそうなんだよね…〉〈大神もマトモ化したみたいだから頼めそうだけど、『大神家』の顔として今回も手伝ってくれたわけだし、友達ってわけじゃないし、外部なのには変わりないから頼みにくい〉〈『真霊』は動物連れて放浪してるみたいで連絡取れないだろうし〉〈『エンターテイナー』と『スマート』は仲良く夢に走り出した…〉〈……〉〈誰もいないわね……〉
はぁーーーー……
「溜め息、私のせい?傷つくんだけど…」
「あんたが、『不死』みたいにクラゲになって満足してくれたらよかったのに…」
「するわけないでしょ!?あんなの生きてるって言わないわよ!!!」
人間として、不老不死になりたいなんて浅ましすぎる。シンにお願いすれば、クラゲに成れたかもしれないのに…強欲だ。覚悟の違いというか、考えがお花畑過ぎて呆れる。
スゥー…
「俺が預かろうか?」
「え…?」
溜め息のために吸った空気が漏れる。
〈…あ、やっば…大神目線、手伝ってほしそうにしてるように、そりゃ思うよね〉〈でも、借り作っても返すのはリンになるから、誰に頼っても詰んでた??〉〈リンは別に今してる立て直しの仮組織はあくまで次の国王への繋ぎだって言うだろうし、大神が国王になりたがったらなっちゃう…?〉〈別にそれは借り関係なく肯定されそうだし、いいの…かな…?〉〈本当は何を考えてる、大神〉
「……」
「…あのぅ、私の話なら、私の意見もいいですk」
「俺は……!!」
ビクッ!!
これまで大人しかったために急に語気を強めるから海月が動揺する。私の器なので、他人事のように揺れを知覚する。
「……俺は…ずっと謝りたかった」
「…………」
その一言で、ある程度察しがつく。私がアピスとの戦いで、この2人を起用した理由。もちろん、死んでもいいやつなのと、扱いやすさ、能力で考えての人選。海月は相変わらずだったから簡単だったけど、大神はすっかり丸くなっていた。
「すまなかった……」
あの大神が頭を下げる。
「………」
<ただ、変わっただけで許すつもりはない。許したくない>
反省や後悔をいくら言葉や行動でされても……
今は、今
龍成もアイナと結ばれて幸せそうだったけど、龍成が今を許容していると言ってもアイナが死ななければそうじゃなかっただろうし、それ以前が違えば『今は違った』とは思う。
<それでも、私じゃなかったとしても……>
私と龍成の関係に亀裂を入れたのは、大神とグルバン
<いくら改心してマトモになっても、有能でも…同情できるからって手を貸したとしても……ビジネス関係以上はない>
それが私にとっての許せないだから……、
だから、謝罪は自己満足としか思えない。
〈でも、それをストレートに出せるほど親密になる気も、その真逆にいくつもりもない〉〈私がこれ以上、関わることはない〉
「まぁ…分かった。海月はお願……!!」
そこでリンと眼が合う。AIに対話しにいったハズだが、もう終わったということだろう。持ってきた『機械』に意思が芽生えている。それはいいとしても、決定的なことを思い出す。
リンがいるんだ
私がこの世を去って、終わりじゃない。
「……あんた、責任感じてるんでしょ……?」
「…ああ、なんでもする」
ここまで言うようなヤツじゃなかったけど、本当に変わったんだ……
〈…そっか…〉
「なら…リンと助け合いの関係でいなさい。敬意を持って対等みたいな…」
上手く言葉が紡げない。こういう立場で言葉を送る経験が皆無なせいに決まってる。
「とにかく……リンを理不尽に貶めようとか、あんた起因で泣かせたら承知しないから」
「…肝に銘じるよ」
「…あとは、海月よろしく」
「ああ」
「私の自由は??保証してくれるよね…??」
「…適当に働かせるでいいか?」
「そうね…労働時間ギリギリまで拘束してやりがいを与えつつ、出勤時間どころかプライベートでもより良いサービスにって考えられる仕事がベストね」
「雑務とか作業系はナシ…か。分かった」
「え、そこまでやるなんて言ってないし、嫌だけど??」
「まーそれは後で決めてもらうとして、お待たせ、リン」
「いつの間に…、…リンちゃんみんな虐めてくるの~~リンちゃんなら正当な甘やかしくれるよね…??」
「ルコ姉ちゃんから、ボーナスの時に色付けるだけでいいって強く言われてるから」
「…へ!??」
「他はしちゃダメって」
「……それって…つまり」
「働けってことよ」
「……一気に貰えるんじゃなくて、働いてたらボーナスとして分割で貰えるってこと……??」
「なるほどな…」
「そんな…詐欺みたいなことしないでよぉ!!!!」
「一気にもらったら、怠けるでしょ?あげるタイミング、量、総額に小技。リンに教えてるから」
「…そぅかも…だけど………卑怯じゃんっ!!!」
「リン…悪いけど、大神と連携取ってもらっていい?勝手に約束してごめんね」
「ううん、ありがと………ルコ姉ちゃん」
リンは海月の体に抱き着く。ケイトと似て、分かってくれる包容力はスゴイ。やっぱり上に立つ資質があると思う。
「これからもよろしくね……海月さん」
「…リンちゃんに、ここまでされちゃったら……少しは頑張っちゃおっかな~~~」
海月目線、長期的な面で見たら終身雇用と言われるよりもデカい伝手ができたようなものだし、悪い話ではない。もう切り替えたのだろう。リンが海月から離れて大神の方を見る。
「よろしくお願いします。大神さん」
「堅くしなくていい、よろしくな…」
「この子も…今後お世話になる、挨拶してね」
リンが連れてきたAIの子だ。人型の『機械』でぎこちなく前に出て綺麗なお辞儀をする。
「名前はまだないです。宜しくお願い致します」
「ああ、よろしく」
これでいい。安堵するように小さく応援の言葉が漏れる。
「…頑張ってね」
私がいなくても大丈夫だって確信する。やり残したことはない。ケイトの『器』の件で『被害者』とも言える自分たちは選択肢があった。
<……でも、龍成がいない時点で未練はない>
リンは私の様子に気付く。
「……ルコ姉ちゃん…お別れだね…」
「…そうだね」
「本当に…すまなかった…」
大神は改めて頭を下げる。びっくりするくらい深くまで下げるから、本当に別人かと疑いたくなる。
「…まぁ、リンと海月よろしく」
「脅される心配もなくなってせーせーするわ。…早めに転生してよ。そっちで会いたくないから…」
「はいはい」
ペコリ
AIちゃんでさえ、ちゃんと頭を下げてくれる。
「ありがとね…」
最後は…リンだ
私はリンと初めて会った時、自分に重ねていた。全然違う。何もかもが違うのに、自分の分身のように思えた。
あぁ…そっか……
今更…分かった。私には家族がいなかった。一番つらい時に、心の支えはなかったし、グルバンとかは親身だけどほぼ敵だし。
龍成がいないから、リンしか繋がりがなかった
〈私は私のためにリンを助けたかったんだ〉
このお別れは…その繋がりを断つこと。リンには私が必要ないし、私は逝かなきゃいけないから必然的な別れ。巣立ちに近い明るいお別れ。
前を向こう
私が暗い顔したら、こんなこと考えたら、明るくバイバイできないよね。
<ごめんね、リン。気にしないで。お別れしないとね……>
「……幸せになってね」
「リンの方こそね…」
「………」
「………」
リンは静かに胸に手を当てている。ぱっちり見開いてくれた双眸にいろんな色があるように思えてくる。
…大好きだよ、リン。元気でね……
微笑みと思念を贈りながらも、自身の語彙力のなさに少し悲しくなる。でも、十分に幸せな気分を抱えてこの世を去る。
私は天に昇った。輪廻転生前にも猶予があるらしく、しばらくはこちらで順番待ち。来るのはほぼ初めて。龍成家族を邪魔しない程度に関われたらいいなって思うだけだった。
「流行ちゃん…でいいよね?」
その声を……聞くのは二回目だった。
《全部終わったら、楽しみにしていて下さい…!》
最初アイナ見かけた時は画面越しで声は聞いてないからノーカンってすると、修行直前にほんの少し会話して含みのある笑顔を向けられた記憶が蘇る。その後、直ぐにアピス拠点襲撃だったから気にしてられなかったけど、どういう意味か分からない。
「…いいよ…アイナさん」
「『さん』なんていいよ!好きに呼んでよ」
ごく自然に手を握られていた。
「……………」
容姿が同じで、雰囲気も似てて……生まれた場所が違うだけだって思ってたんだと思う。
「待ってたよ、ルコちゃん!忙しかったって聞いたよ!疲れてない?」
「う、うん、大丈夫」
「今からちょっといい?龍成達もあっちにいてさ、行かない?」
「……」
圧のある聞き方ではなく、どうしたいって尋ねるだけの優しい声音。龍成に似た純粋さがアイナからオーラのように滲み出る。
絶対的に自分が持ちえないもの
「…どうかしたの?」
あぁ……
<…全然違うじゃん……>
「あー、気にしないで。家族で過ごす時間を邪魔したくないから……」
私は拒絶した。その場に立つ資格がないのが一つ。もう一つは、遠目で見るって決めたから。
<あなたたちが幸せだって分かってるだけで幸せだから…>
本心だ。
<こう割り切ったから…進めた。変えるつもりはない……!>
「それじゃルコちゃんが報われないよ」
「………?」
「あ、ルコ着いたんだね、お疲れ……ってアイナ…なにしたんだ…?」
固まっていた私に龍成が気遣う。
「な、なんでもないよ!二人共…またね」
アイナがいるとペースを崩される。ここは逃げるが最善。
「ストーーーップ!!」
「???」
「なっ…!」
私の逃げようとしていた霊体にアイナが飛びつき、ずりずり引きずるように止められる。龍成と、一緒にいた龍児までもが目を見開いている。
「…ルコちゃんもさ……龍成のこと好きなんでしょ?」
「……まぁ、友達だからね…」
アイナは『言いたいことは分かった』と感情を込めて大きく頷き、それ以上の勢いで龍成に顔を向ける。
「龍成は~~!!」
「え、そりゃあ、親友だって思ってるし、好きではあるさ」
「ふふっ…じゃあ、一緒にいていいじゃん」
アイナは私の手を離さない。
「…でも、やっと集まれた家族だよ…私が入っていいとこなんてないからさ」
だから……離れなきゃ
「なんで一緒にいちゃダメなの?」
「そうだよルコ。誰も、ルコが一緒にいて困んないって」
その選択をしたら、中途半端でぐちゃぐちゃな感情になるのなんて、分かり切ってる…
「うんうん、一緒にいようよ!重婚も許されるんだもん」
「あぁ…え?!」
「??!!」
「いや待ってくれアイナ…流石に重婚はまずいって…」
「なんで…?」
「いやぁーー…法とか常識的にも…さ」
「だって…法律は破ってないし、常識なんてこっちにないと思うよ…?」
「ほら、龍児だっているんだぞ。良くないよ…」
「両親が幸せそうなら文句はないよ。親離れはできてるしさ」
「ほらー、龍児だっていいってよ」
「………」
アイナと龍児の言葉がとんでもない空気を生んでいる……。
ズキン..!!
《最高D、▲好き&親友#y》
喜びや期待よりも、苦い思い出が蘇る。これ以上鮮明に思い出すと良くない。
〈どこまでいっても……私は女性として見られることはない〉〈もうその話は済んだよね〉
折角割り切ったのだから
感情を、誰にも悟られてはいけない。
言い出さないと
龍成からまた言われたら、明確な拒絶になる。
<せめて私から言って少しでも浅く…>
「あのs」
「ちょっとごめんね」
アイナが目の前にいて抱き着かれる。直後、【リンク】に近い感覚に見舞われる。
********************
それはあの時だった。私が認識を改めた日。
「愚妹でごめんね?」
<……この後の言葉なんて何百って繰り返してるんだから…もう、やめてよ>
そう願っても龍成の口は動いてしまう。
「何言ってんだよ……。僕の最高で、大好きな親友だよ………」
私はこの瞬間、絶対に恋人に成れないって確信した。
だから、不相応な望みは考えないようにした
<親友……、十分じゃんか…分かってたことじゃん……>
「ルコちゃんは、こう思ったんでしょ?」
アイナの声が響く。どうしてやっているのかは不明だが、リンと似たことができるらしい。
<やめてよ…、意地悪しないで……>
「ルコちゃんは龍成のことが大好きなんでしょ?」
<………>
「その気持ちは大切にしなきゃだよ。とっても儚くて、美しいものなんだよ…」
そうだとしても……
<どれだけ私が想ってても…>
「龍成だってルコちゃんのこと好きだよ。良識があるだけで、状況が違えば…」
傷口を……抉らないで!!
<いいの!!私はアイナじゃないから…だから、だから>
傍じゃなくていい。少し遠くで見守れたら…それで
「流行。龍成も好きって思ってるよ」
そんなこと…………
<……>
「ずっと傷つけられて…なかったように振る舞うので精一杯だったんだよね」
<私は……>
「素直になって…いいんだよ」
ああああああああああああああ……………………!!!!
これまで貯め込んだものが溢れ出る。視界は当然歪むし、息が上手くできない。
「大丈夫…大丈夫だよ……」
行き場を失った感情が、やっとの思いで吐き出される。ずっとずっと泣いていた。なんとか少し冷静になって…恥ずかしさを交えながら、アイナと話し合いをして現実に戻ることとなった。
********************
あっちで感じた想いが一瞬で焼き付き更新される。こみ上げてきそうになる涙を唇を噛んで我慢する。
「………」
<お願い>
アイナとアイコンタクトをする。
「龍成…、あとはあなたが素直になるだけだよ……」
「アイナ……ルコ……」
「どうしても…嫌なの…?」
アイナは私ができない強気の聞き方をしてくれる。アイナに委ねる。そう決めたから。
「…不誠実に向き合うのは嫌なんだよ…。アイナを愛するって決めたんだから…僕は……」
「あっれ~~…あたしとシた時は勢いだったのに、カッコつけるようになっちゃってさ」
「!!…あん時は、お酒とメンタル的にも仕方ないって言わせてくれない……っ!」
「うん知ってるよ。責めるわけないよ。合意の上なんだし……」
龍成は胸を撫で下ろす。その手の話は聞いて来なかったから、こっちまで変なダメージが入る。
「龍成は…それくらいの勢いがないと踏み出せないんだよ…」
「そうかもだけど…」
「ルコちゃんを子供扱いして一線引くのもズルいね。向き合う覚悟も、努力も、してないに等しいよ」
「そんなことな…!!!」
「???」
下を向いていたハズだった。重心がぐらりとズレ…気づいたらアイナの方を見ていた。意地悪そうに笑っている。
まさか
龍成の胸に放り投げられる。密着するタイミングなんてなかったから、初めてのこと。霊体じゃなければもっとよかったけど、欲張りはいけない。
「……ルコ…大丈夫か…?」
「う、うん」
龍成は優しく立たせてくれる。顔を見れば分かってしまう。
「アイナ!危ないだろ!」
「女の子って意識したでしょ?」
「それとこれは別じゃ」
「別じゃないよ…。女の子として見てないって言われて傷つくことくらいわかるでしょ?」
「…それは…ごめん」
「龍成はさ、考えないようにしてたんでしょ?色々大変だったから、意識し始めたらどうしたらいいか分からなくなるからってさ」
「……」
「あと、頼れるお兄ちゃんポジションが居心地が良かったって感じだよね」
「………そうです…」
「これでも、一線引くの?」
「……ダメなものはダメじゃんか…」
<そうだよね…>
「…卑怯者…」
「別に重婚なんてし無くても、一緒にいるだろ?」
<そうだよ…これ以上、龍成に気を使わせるのは…>
「無神経!最低!!そんな人と思わなかった!!」
「!!そこまで言わなくて」
「あたしも、龍児も、ルコちゃんも認めてる幸せな関係じゃん!かったい価値観でそれすらさせてくれないなんて見損なった!!」
「ごめんって……でも、これは譲れないとこじゃないのか…僕がおかしいのか…?」
「重婚を認めてくれないちっちゃい人だったら、離婚だよ、離婚!」
「そ、そんな……!!!」
龍成とアイナが喧嘩をしている。夫婦喧嘩というには少し子供っぽいかもしれないけど、本当にお似合いだと思う。
「…母さんは流行さんのこと聞いてずっと父に当たりがキツイんだ……」
「…そ、そうなんだね」
「共感してるんだと思う」
裏のないアイナの愛は【リンク】で痛い程伝わった。だから、それは正しいと思う。
「…龍児君は…私が第二のお母さんとかなっても大丈夫なの…?」
「…あの二人が今みたいなのも、ボクが生まれたのも…ルコさんがいたからでしょ?生きれた因果関係にあるわけだから、恩人なんだろうなってふわって思ってる。まぁなんかしてくれたりしないと…実感はないけど……」
ごくり……
なんかするのハードルは気になる。
「……今度、ボードゲーム付き合ってよ」
恥ずかしそうに言う龍児が…子供の頃の龍成とダブって可愛く思えてくる。
「いいよ…」
家族になれなくてもすることは間違いない。
「……わかった…認める……」
「勝ったぞーーー」
アイナと龍成の言い争うも終わったらしい。アイナがピースサインを掲げている。ありがたいけど、少々、気まずくもある。
「……龍成…」
「…ルコ……」
「こういう時は男見せなきゃじゃない?結婚は結婚だよ」
「っ……、ごほん…これから一緒にいてくれますか?」
「……」
ここまでお膳立てしてもらっても『好き』を引き出せない。
〈望み過ぎだ〉
考えすぎないようにと切り替える。嬉しさと切なさを綯い交ぜになっても、できるだけ自然な笑顔に徹s
パシンッ!!
「バカ!!プロポーズで愛を囁かない人がいるかっての!!もっかい!!」
「…うぉ……分かった…やるよ……。いつも見守ってくれてありがとう…」
「もっとーー!!」
「一途に想ってくれてありがとう」
「まだあるよぉ!!」
「……ずっと苦しい想いさせてごめん…」
「本当に好きなのーー!!??」
「…そりゃあ、好きさ……、人間として、親友として、女の子として、良い子で居てくれて。そんな君に胸を張れる人でいたかったんだ…」
「さっき抱いた感情はどうなのーー??」
「……大好きで…大切な…女の子を…ここまで弱らせてしまったこと、そして、逃げてたのは僕だってことが分かったんだ……。もう…悲しませたくない…、それは重婚なしでも想ってたけど…これで、みんなが幸せになるってことだから踏ん切りがついた」
「まるで嫌々みたいな言い方じゃないか~~」
「結婚してすること約束しろーー」
アイナのカンペを棒読みで読んでくれる龍児も、曲がりなりにも祝福してくれてるように思えてくる。
「……ボディタッチはアイナと同程度にはする…」
「愛の言葉も必要だぞ~~」
「おやすみのチューはーー」
「!!……わかった…する…するから…!」
「プロポーズの締めをさっきと違う言葉で!!」
「腹から声出してーー」
「………生まれ変わりまでの短い間ですが…向けられた愛をできる限りお返ししたいと思います。家族になって下さいっ…!」
……これほど幸せな気持ちになっていいのか不安になるほど…嬉しい。
「……よろしく…お願ぃします……」
アイナも、龍児も、龍成も…想像の何倍も……温かく受け入れてくれる。リンが別れ際に言った言葉を思い出す。
《幸せになってね》
リンはこうなることが分かってたのかもしれない。私はリンのハッピーエンド要素を一つ知っているから、この幸せの中でほくそ笑む。次はリンの番だから――
現世に居られる最後の日。グルバンとケイトは無理をしていたから、先に行ったみたいだけど…。私はまだやることがあった。
「ねぇーーー!ほんと終わんないんだけどぉお!!何このクソ長パスワード!!バカじゃないの!!!」
「黙って手動かしなさいよ」
「作業効率落ちてるわけじゃないんだし、イイでしょーー!!」
「うるさい、あんたはそうかもだけど、周りがいるでしょ」
「私の体がなかったら、なんもできないくせによく言うわね!死人に口なしでしょ!!」
「リン」
「終わった?ルコ姉ちゃん」
海月は笑ってしまうほど白くなる。
「へ…??!いつの間にいらしたんですか…」
「さっきから」
リンは以前のように感情ほぼゼロで返す。
「…一言言ってくださいよぉ…!」
海月は本当に小さく呟く。こういうやつだ。
「……」
リンは私にだけ見えるように瞬きする
<怒るつもりはないけど…軽くお灸を据えてくれたのね…。ここにいる誰よりも大人だよ…リン…>
地雷と言ってもいいワードが飛び出したにも拘わらず、この立ち振る舞い。……少し寂しくもある。
「お待たせ…リン。あとはお願いしていい?」
「ありがと…」
「……」
リンは今から、ミラボールのサーバーにあったAIと会話しに行く。『ザ・ワン』の『ミラボール電脳神計画』と称された計画は、インターネットを支配下に置くことで、人類の意思疎通や娯楽、情報をコントロールすることが目的。
文面だとその脅威が分かりにくいけど、フェイクニュースやアカウント乗っ取りなど情報操作を世界規模で牛耳ろうとしていた……
シャレにならない
各国要人とは会える顔を持ちつつ、洗脳で堕とすもよし、仲違いさせるもよし、金を稼いでもよし。
何も善くない
この計画の要はミラボールだ。細かい話をすっ飛ばすと、
ミラボールを世界中に配置させ、この世の電子機器をハッキング
下準備は十分だった
ミラボールにはアピス細胞を交えた連絡網と異能で連結していたが、サーバーにはAIが組み込まれていた。親和力がバカ高い『アピス』のせいで妨害は極めて難しい。本当にオワってる計画の一つ。
AIと言っても、情報だけ詰め込んであっただけで、本格的に稼働する直前でシステムをダウンしたから生まれたばかりみたいなもの……
<…リンとしてはメハと重ねて見てしまうよね…>
違うと分かっているし、本当の意味での家族は帰ってこない。
でも、リンが任せて欲しいって言ってくれた
AIを誰よりも正しく運用できるのはリンだって思うから、適任なのは間違いない。私がさっきまでパスワードを解いていたのも、リンが忙しいから代わりにしていただけで、リンの方が早かったに違いない。
「解いたの私だからーーちゃんと報酬ちょうだいよね!」
「……」
リンがいないことをいいことに声を荒げる。これが私の手綱なしでいいのか不安になる。
「心配か…?」
リンと一緒に部屋に入って来た者がいた。大神だ。
「海月さ、あんたんとこで預かってくれない?」
「……」
「は!?嫌だけど!!絶対キツいじゃん!私、今回めっちゃ頑張ったよ?『施設』の件だって命懸けてたからね!!…それを無下にするなんてリンちゃんの手前いいのかな~~悪影響になっちゃうよーー」
報酬をちゃんとやれば働くとは分かっていたが、ここまでデカい態度取るようになるとはちょっと想定外ではあった。もっと予想外だったのは、大人しくなった大神だけど。
「俺んとこで働かせたり、なんかさせるのは別にいいが……それでいいのか?」
「選択肢として聞いただけ……制御できる誰かが付いておかないと暴れそうだけど、リンに任せたらフリーになりそうなのよね」
「正当な報酬を要求してるだけじゃん……そんな不相応な野望もないし、私、頭下げるの厭わないよ?ただ普通の生活したいだけで」
嘘は言ってない
「……」
でも、裏切らない証明にはならない
美味しい話についていくから、簡単に利用できるのは海月のいい所だけど、利用されやすいのが大きいデメリット。誰かの計画に乗ってリンに歯向かってきたら困る。海月を任せられそうな人を考える。
〈リンの周りにいるのは、執事のルピカと『アウトロー』、護衛の『パーフェクトボディー』、常識人系被害者の『オリジナル』…そして、黒幕〉〈ヤイグは論外だとして、ルピカ辺りならリンの危険に敏感だからお願いしても良くはあるけど、あの人達は意外と単純だから騙されそうなんだよね…〉〈大神もマトモ化したみたいだから頼めそうだけど、『大神家』の顔として今回も手伝ってくれたわけだし、友達ってわけじゃないし、外部なのには変わりないから頼みにくい〉〈『真霊』は動物連れて放浪してるみたいで連絡取れないだろうし〉〈『エンターテイナー』と『スマート』は仲良く夢に走り出した…〉〈……〉〈誰もいないわね……〉
はぁーーーー……
「溜め息、私のせい?傷つくんだけど…」
「あんたが、『不死』みたいにクラゲになって満足してくれたらよかったのに…」
「するわけないでしょ!?あんなの生きてるって言わないわよ!!!」
人間として、不老不死になりたいなんて浅ましすぎる。シンにお願いすれば、クラゲに成れたかもしれないのに…強欲だ。覚悟の違いというか、考えがお花畑過ぎて呆れる。
スゥー…
「俺が預かろうか?」
「え…?」
溜め息のために吸った空気が漏れる。
〈…あ、やっば…大神目線、手伝ってほしそうにしてるように、そりゃ思うよね〉〈でも、借り作っても返すのはリンになるから、誰に頼っても詰んでた??〉〈リンは別に今してる立て直しの仮組織はあくまで次の国王への繋ぎだって言うだろうし、大神が国王になりたがったらなっちゃう…?〉〈別にそれは借り関係なく肯定されそうだし、いいの…かな…?〉〈本当は何を考えてる、大神〉
「……」
「…あのぅ、私の話なら、私の意見もいいですk」
「俺は……!!」
ビクッ!!
これまで大人しかったために急に語気を強めるから海月が動揺する。私の器なので、他人事のように揺れを知覚する。
「……俺は…ずっと謝りたかった」
「…………」
その一言で、ある程度察しがつく。私がアピスとの戦いで、この2人を起用した理由。もちろん、死んでもいいやつなのと、扱いやすさ、能力で考えての人選。海月は相変わらずだったから簡単だったけど、大神はすっかり丸くなっていた。
「すまなかった……」
あの大神が頭を下げる。
「………」
<ただ、変わっただけで許すつもりはない。許したくない>
反省や後悔をいくら言葉や行動でされても……
今は、今
龍成もアイナと結ばれて幸せそうだったけど、龍成が今を許容していると言ってもアイナが死ななければそうじゃなかっただろうし、それ以前が違えば『今は違った』とは思う。
<それでも、私じゃなかったとしても……>
私と龍成の関係に亀裂を入れたのは、大神とグルバン
<いくら改心してマトモになっても、有能でも…同情できるからって手を貸したとしても……ビジネス関係以上はない>
それが私にとっての許せないだから……、
だから、謝罪は自己満足としか思えない。
〈でも、それをストレートに出せるほど親密になる気も、その真逆にいくつもりもない〉〈私がこれ以上、関わることはない〉
「まぁ…分かった。海月はお願……!!」
そこでリンと眼が合う。AIに対話しにいったハズだが、もう終わったということだろう。持ってきた『機械』に意思が芽生えている。それはいいとしても、決定的なことを思い出す。
リンがいるんだ
私がこの世を去って、終わりじゃない。
「……あんた、責任感じてるんでしょ……?」
「…ああ、なんでもする」
ここまで言うようなヤツじゃなかったけど、本当に変わったんだ……
〈…そっか…〉
「なら…リンと助け合いの関係でいなさい。敬意を持って対等みたいな…」
上手く言葉が紡げない。こういう立場で言葉を送る経験が皆無なせいに決まってる。
「とにかく……リンを理不尽に貶めようとか、あんた起因で泣かせたら承知しないから」
「…肝に銘じるよ」
「…あとは、海月よろしく」
「ああ」
「私の自由は??保証してくれるよね…??」
「…適当に働かせるでいいか?」
「そうね…労働時間ギリギリまで拘束してやりがいを与えつつ、出勤時間どころかプライベートでもより良いサービスにって考えられる仕事がベストね」
「雑務とか作業系はナシ…か。分かった」
「え、そこまでやるなんて言ってないし、嫌だけど??」
「まーそれは後で決めてもらうとして、お待たせ、リン」
「いつの間に…、…リンちゃんみんな虐めてくるの~~リンちゃんなら正当な甘やかしくれるよね…??」
「ルコ姉ちゃんから、ボーナスの時に色付けるだけでいいって強く言われてるから」
「…へ!??」
「他はしちゃダメって」
「……それって…つまり」
「働けってことよ」
「……一気に貰えるんじゃなくて、働いてたらボーナスとして分割で貰えるってこと……??」
「なるほどな…」
「そんな…詐欺みたいなことしないでよぉ!!!!」
「一気にもらったら、怠けるでしょ?あげるタイミング、量、総額に小技。リンに教えてるから」
「…そぅかも…だけど………卑怯じゃんっ!!!」
「リン…悪いけど、大神と連携取ってもらっていい?勝手に約束してごめんね」
「ううん、ありがと………ルコ姉ちゃん」
リンは海月の体に抱き着く。ケイトと似て、分かってくれる包容力はスゴイ。やっぱり上に立つ資質があると思う。
「これからもよろしくね……海月さん」
「…リンちゃんに、ここまでされちゃったら……少しは頑張っちゃおっかな~~~」
海月目線、長期的な面で見たら終身雇用と言われるよりもデカい伝手ができたようなものだし、悪い話ではない。もう切り替えたのだろう。リンが海月から離れて大神の方を見る。
「よろしくお願いします。大神さん」
「堅くしなくていい、よろしくな…」
「この子も…今後お世話になる、挨拶してね」
リンが連れてきたAIの子だ。人型の『機械』でぎこちなく前に出て綺麗なお辞儀をする。
「名前はまだないです。宜しくお願い致します」
「ああ、よろしく」
これでいい。安堵するように小さく応援の言葉が漏れる。
「…頑張ってね」
私がいなくても大丈夫だって確信する。やり残したことはない。ケイトの『器』の件で『被害者』とも言える自分たちは選択肢があった。
<……でも、龍成がいない時点で未練はない>
リンは私の様子に気付く。
「……ルコ姉ちゃん…お別れだね…」
「…そうだね」
「本当に…すまなかった…」
大神は改めて頭を下げる。びっくりするくらい深くまで下げるから、本当に別人かと疑いたくなる。
「…まぁ、リンと海月よろしく」
「脅される心配もなくなってせーせーするわ。…早めに転生してよ。そっちで会いたくないから…」
「はいはい」
ペコリ
AIちゃんでさえ、ちゃんと頭を下げてくれる。
「ありがとね…」
最後は…リンだ
私はリンと初めて会った時、自分に重ねていた。全然違う。何もかもが違うのに、自分の分身のように思えた。
あぁ…そっか……
今更…分かった。私には家族がいなかった。一番つらい時に、心の支えはなかったし、グルバンとかは親身だけどほぼ敵だし。
龍成がいないから、リンしか繋がりがなかった
〈私は私のためにリンを助けたかったんだ〉
このお別れは…その繋がりを断つこと。リンには私が必要ないし、私は逝かなきゃいけないから必然的な別れ。巣立ちに近い明るいお別れ。
前を向こう
私が暗い顔したら、こんなこと考えたら、明るくバイバイできないよね。
<ごめんね、リン。気にしないで。お別れしないとね……>
「……幸せになってね」
「リンの方こそね…」
「………」
「………」
リンは静かに胸に手を当てている。ぱっちり見開いてくれた双眸にいろんな色があるように思えてくる。
…大好きだよ、リン。元気でね……
微笑みと思念を贈りながらも、自身の語彙力のなさに少し悲しくなる。でも、十分に幸せな気分を抱えてこの世を去る。
私は天に昇った。輪廻転生前にも猶予があるらしく、しばらくはこちらで順番待ち。来るのはほぼ初めて。龍成家族を邪魔しない程度に関われたらいいなって思うだけだった。
「流行ちゃん…でいいよね?」
その声を……聞くのは二回目だった。
《全部終わったら、楽しみにしていて下さい…!》
最初アイナ見かけた時は画面越しで声は聞いてないからノーカンってすると、修行直前にほんの少し会話して含みのある笑顔を向けられた記憶が蘇る。その後、直ぐにアピス拠点襲撃だったから気にしてられなかったけど、どういう意味か分からない。
「…いいよ…アイナさん」
「『さん』なんていいよ!好きに呼んでよ」
ごく自然に手を握られていた。
「……………」
容姿が同じで、雰囲気も似てて……生まれた場所が違うだけだって思ってたんだと思う。
「待ってたよ、ルコちゃん!忙しかったって聞いたよ!疲れてない?」
「う、うん、大丈夫」
「今からちょっといい?龍成達もあっちにいてさ、行かない?」
「……」
圧のある聞き方ではなく、どうしたいって尋ねるだけの優しい声音。龍成に似た純粋さがアイナからオーラのように滲み出る。
絶対的に自分が持ちえないもの
「…どうかしたの?」
あぁ……
<…全然違うじゃん……>
「あー、気にしないで。家族で過ごす時間を邪魔したくないから……」
私は拒絶した。その場に立つ資格がないのが一つ。もう一つは、遠目で見るって決めたから。
<あなたたちが幸せだって分かってるだけで幸せだから…>
本心だ。
<こう割り切ったから…進めた。変えるつもりはない……!>
「それじゃルコちゃんが報われないよ」
「………?」
「あ、ルコ着いたんだね、お疲れ……ってアイナ…なにしたんだ…?」
固まっていた私に龍成が気遣う。
「な、なんでもないよ!二人共…またね」
アイナがいるとペースを崩される。ここは逃げるが最善。
「ストーーーップ!!」
「???」
「なっ…!」
私の逃げようとしていた霊体にアイナが飛びつき、ずりずり引きずるように止められる。龍成と、一緒にいた龍児までもが目を見開いている。
「…ルコちゃんもさ……龍成のこと好きなんでしょ?」
「……まぁ、友達だからね…」
アイナは『言いたいことは分かった』と感情を込めて大きく頷き、それ以上の勢いで龍成に顔を向ける。
「龍成は~~!!」
「え、そりゃあ、親友だって思ってるし、好きではあるさ」
「ふふっ…じゃあ、一緒にいていいじゃん」
アイナは私の手を離さない。
「…でも、やっと集まれた家族だよ…私が入っていいとこなんてないからさ」
だから……離れなきゃ
「なんで一緒にいちゃダメなの?」
「そうだよルコ。誰も、ルコが一緒にいて困んないって」
その選択をしたら、中途半端でぐちゃぐちゃな感情になるのなんて、分かり切ってる…
「うんうん、一緒にいようよ!重婚も許されるんだもん」
「あぁ…え?!」
「??!!」
「いや待ってくれアイナ…流石に重婚はまずいって…」
「なんで…?」
「いやぁーー…法とか常識的にも…さ」
「だって…法律は破ってないし、常識なんてこっちにないと思うよ…?」
「ほら、龍児だっているんだぞ。良くないよ…」
「両親が幸せそうなら文句はないよ。親離れはできてるしさ」
「ほらー、龍児だっていいってよ」
「………」
アイナと龍児の言葉がとんでもない空気を生んでいる……。
ズキン..!!
《最高D、▲好き&親友#y》
喜びや期待よりも、苦い思い出が蘇る。これ以上鮮明に思い出すと良くない。
〈どこまでいっても……私は女性として見られることはない〉〈もうその話は済んだよね〉
折角割り切ったのだから
感情を、誰にも悟られてはいけない。
言い出さないと
龍成からまた言われたら、明確な拒絶になる。
<せめて私から言って少しでも浅く…>
「あのs」
「ちょっとごめんね」
アイナが目の前にいて抱き着かれる。直後、【リンク】に近い感覚に見舞われる。
********************
それはあの時だった。私が認識を改めた日。
「愚妹でごめんね?」
<……この後の言葉なんて何百って繰り返してるんだから…もう、やめてよ>
そう願っても龍成の口は動いてしまう。
「何言ってんだよ……。僕の最高で、大好きな親友だよ………」
私はこの瞬間、絶対に恋人に成れないって確信した。
だから、不相応な望みは考えないようにした
<親友……、十分じゃんか…分かってたことじゃん……>
「ルコちゃんは、こう思ったんでしょ?」
アイナの声が響く。どうしてやっているのかは不明だが、リンと似たことができるらしい。
<やめてよ…、意地悪しないで……>
「ルコちゃんは龍成のことが大好きなんでしょ?」
<………>
「その気持ちは大切にしなきゃだよ。とっても儚くて、美しいものなんだよ…」
そうだとしても……
<どれだけ私が想ってても…>
「龍成だってルコちゃんのこと好きだよ。良識があるだけで、状況が違えば…」
傷口を……抉らないで!!
<いいの!!私はアイナじゃないから…だから、だから>
傍じゃなくていい。少し遠くで見守れたら…それで
「流行。龍成も好きって思ってるよ」
そんなこと…………
<……>
「ずっと傷つけられて…なかったように振る舞うので精一杯だったんだよね」
<私は……>
「素直になって…いいんだよ」
ああああああああああああああ……………………!!!!
これまで貯め込んだものが溢れ出る。視界は当然歪むし、息が上手くできない。
「大丈夫…大丈夫だよ……」
行き場を失った感情が、やっとの思いで吐き出される。ずっとずっと泣いていた。なんとか少し冷静になって…恥ずかしさを交えながら、アイナと話し合いをして現実に戻ることとなった。
********************
あっちで感じた想いが一瞬で焼き付き更新される。こみ上げてきそうになる涙を唇を噛んで我慢する。
「………」
<お願い>
アイナとアイコンタクトをする。
「龍成…、あとはあなたが素直になるだけだよ……」
「アイナ……ルコ……」
「どうしても…嫌なの…?」
アイナは私ができない強気の聞き方をしてくれる。アイナに委ねる。そう決めたから。
「…不誠実に向き合うのは嫌なんだよ…。アイナを愛するって決めたんだから…僕は……」
「あっれ~~…あたしとシた時は勢いだったのに、カッコつけるようになっちゃってさ」
「!!…あん時は、お酒とメンタル的にも仕方ないって言わせてくれない……っ!」
「うん知ってるよ。責めるわけないよ。合意の上なんだし……」
龍成は胸を撫で下ろす。その手の話は聞いて来なかったから、こっちまで変なダメージが入る。
「龍成は…それくらいの勢いがないと踏み出せないんだよ…」
「そうかもだけど…」
「ルコちゃんを子供扱いして一線引くのもズルいね。向き合う覚悟も、努力も、してないに等しいよ」
「そんなことな…!!!」
「???」
下を向いていたハズだった。重心がぐらりとズレ…気づいたらアイナの方を見ていた。意地悪そうに笑っている。
まさか
龍成の胸に放り投げられる。密着するタイミングなんてなかったから、初めてのこと。霊体じゃなければもっとよかったけど、欲張りはいけない。
「……ルコ…大丈夫か…?」
「う、うん」
龍成は優しく立たせてくれる。顔を見れば分かってしまう。
「アイナ!危ないだろ!」
「女の子って意識したでしょ?」
「それとこれは別じゃ」
「別じゃないよ…。女の子として見てないって言われて傷つくことくらいわかるでしょ?」
「…それは…ごめん」
「龍成はさ、考えないようにしてたんでしょ?色々大変だったから、意識し始めたらどうしたらいいか分からなくなるからってさ」
「……」
「あと、頼れるお兄ちゃんポジションが居心地が良かったって感じだよね」
「………そうです…」
「これでも、一線引くの?」
「……ダメなものはダメじゃんか…」
<そうだよね…>
「…卑怯者…」
「別に重婚なんてし無くても、一緒にいるだろ?」
<そうだよ…これ以上、龍成に気を使わせるのは…>
「無神経!最低!!そんな人と思わなかった!!」
「!!そこまで言わなくて」
「あたしも、龍児も、ルコちゃんも認めてる幸せな関係じゃん!かったい価値観でそれすらさせてくれないなんて見損なった!!」
「ごめんって……でも、これは譲れないとこじゃないのか…僕がおかしいのか…?」
「重婚を認めてくれないちっちゃい人だったら、離婚だよ、離婚!」
「そ、そんな……!!!」
龍成とアイナが喧嘩をしている。夫婦喧嘩というには少し子供っぽいかもしれないけど、本当にお似合いだと思う。
「…母さんは流行さんのこと聞いてずっと父に当たりがキツイんだ……」
「…そ、そうなんだね」
「共感してるんだと思う」
裏のないアイナの愛は【リンク】で痛い程伝わった。だから、それは正しいと思う。
「…龍児君は…私が第二のお母さんとかなっても大丈夫なの…?」
「…あの二人が今みたいなのも、ボクが生まれたのも…ルコさんがいたからでしょ?生きれた因果関係にあるわけだから、恩人なんだろうなってふわって思ってる。まぁなんかしてくれたりしないと…実感はないけど……」
ごくり……
なんかするのハードルは気になる。
「……今度、ボードゲーム付き合ってよ」
恥ずかしそうに言う龍児が…子供の頃の龍成とダブって可愛く思えてくる。
「いいよ…」
家族になれなくてもすることは間違いない。
「……わかった…認める……」
「勝ったぞーーー」
アイナと龍成の言い争うも終わったらしい。アイナがピースサインを掲げている。ありがたいけど、少々、気まずくもある。
「……龍成…」
「…ルコ……」
「こういう時は男見せなきゃじゃない?結婚は結婚だよ」
「っ……、ごほん…これから一緒にいてくれますか?」
「……」
ここまでお膳立てしてもらっても『好き』を引き出せない。
〈望み過ぎだ〉
考えすぎないようにと切り替える。嬉しさと切なさを綯い交ぜになっても、できるだけ自然な笑顔に徹s
パシンッ!!
「バカ!!プロポーズで愛を囁かない人がいるかっての!!もっかい!!」
「…うぉ……分かった…やるよ……。いつも見守ってくれてありがとう…」
「もっとーー!!」
「一途に想ってくれてありがとう」
「まだあるよぉ!!」
「……ずっと苦しい想いさせてごめん…」
「本当に好きなのーー!!??」
「…そりゃあ、好きさ……、人間として、親友として、女の子として、良い子で居てくれて。そんな君に胸を張れる人でいたかったんだ…」
「さっき抱いた感情はどうなのーー??」
「……大好きで…大切な…女の子を…ここまで弱らせてしまったこと、そして、逃げてたのは僕だってことが分かったんだ……。もう…悲しませたくない…、それは重婚なしでも想ってたけど…これで、みんなが幸せになるってことだから踏ん切りがついた」
「まるで嫌々みたいな言い方じゃないか~~」
「結婚してすること約束しろーー」
アイナのカンペを棒読みで読んでくれる龍児も、曲がりなりにも祝福してくれてるように思えてくる。
「……ボディタッチはアイナと同程度にはする…」
「愛の言葉も必要だぞ~~」
「おやすみのチューはーー」
「!!……わかった…する…するから…!」
「プロポーズの締めをさっきと違う言葉で!!」
「腹から声出してーー」
「………生まれ変わりまでの短い間ですが…向けられた愛をできる限りお返ししたいと思います。家族になって下さいっ…!」
……これほど幸せな気持ちになっていいのか不安になるほど…嬉しい。
「……よろしく…お願ぃします……」
アイナも、龍児も、龍成も…想像の何倍も……温かく受け入れてくれる。リンが別れ際に言った言葉を思い出す。
《幸せになってね》
リンはこうなることが分かってたのかもしれない。私はリンのハッピーエンド要素を一つ知っているから、この幸せの中でほくそ笑む。次はリンの番だから――
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