珈琲

君にあげるキムチなんて無い

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 午前6時。
 今日は少し早くに目が覚めた。

 昨夜の楽しみに別れを告げ、嫌々、穏やかな光を浴びる。


 寂しい足取りでリビングへ向かう。
 フローリングの無機質な匂いが、その寂しさを増幅させた。

 我が家にはテレビが無い。
 だから、耳に入ってくるのはすずめさえずりと、コーヒーミルが豆をく音くらいである。

 しかし、それが至高。
 都会の喧騒と相性が悪い身に適している。



 豆が挽けた。

 もうすぐだ。
 毎回、この時は子供のように胸が高鳴る。

 熱湯を茶褐色の粉末に注ぐ。
 かぐわしい香りが鼻から全身に突き刺さる。
 これだけでも力がみなぎってくる。



 カップに入ったブラックのコーヒー。
 今日も良い出来だ。

 自分を褒めながら、静かに口に流し込む。



 ん?
 なんだか後味が悪い。

 これは、血の味か?

 何故だ。確かめても出血は見当たらない。


 異様な後味に戸惑っていると、追い討ちをかけるように激しい頭痛に襲われた。


  いたい…。いたいよ…。
  たすけて…。



 暫くして、諸々の症状は落ち着いた。
 今日は珍しく思い出し過ぎてしまったようだ。
 先程までの幸福感はすっかり消え去ってしまった。










 「今日、上手くいくかな?」




                  〈おわり〉
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