3 / 67
3
しおりを挟む
なんでこんなことになっているのだろう。
シーフードのカップヌードルを啜りながら、シュンは自分に呆れてしまう。
物事には逆らわず流されること。
それが、10年近くなるヒモ生活で身につけた処世術だ。
でも、だからといって、飼い主の弟と並んでカップ麺を啜る冬の午後というのは、なんなんだろうか。
「やっぱ、カップ麺はシーフードですね。」
と、隣で健少年が健康的に笑う。
そうだね、と、シュンも反射的に笑い返す。
ちなみにカップ麺を作ったのは、健少年だ。昼飯俺が作りますね! と張り切って台所に消えていったかと思うと、3分後にカップ麺を持って登場した。
まあ、ありがたいことにはありがたいのだ。だってシュンはいつも、買い置きのカップ麺があることを知っていても、お湯を沸かすのが面倒くさくて絶食している。
「姉ちゃんとは、長いんですか?」
ずるずると麺を啜り上げながら、健少年が無邪気に尋ねる。
「半年くらいかな。」
申し訳程度に浮いたエビをつつきながら、シュンは正直に答えた。
「姉ちゃん、どんな感じですか?」
「どんなって?」
「なんだろう。全体的に。姉ちゃん、ずっと前に家を出ちゃって、そっから最近になるまで連絡もくれなかったから、俺、姉ちゃんのこと、そんな知らないんですよね。」
変な姉弟でしょ、と、健少年は箸を持つ手で髪をかいた。
変な姉弟もなにも、普通の姉弟の姿を知らないシュンには、どっちつかずに首を傾げることしかできない。
「ずっと前って、いつ?」
別に取り分けて知りたいわけでもないが、礼儀くらいの気持ちで聞き返しながら、シュンは改めて、自分が美沙子についてなにも知らないことを自覚する。
美沙子だってシュンについてなにも知らないんだから、お互い様ではあるが、性感帯の一つ一つまでしっかり把握しているくせに、これまでの人生については全く持って把握していないのは、さすがに歪だという気もした。
「えっと……9年前ですね。姉ちゃんが16で、俺が7歳の頃。それで、実家に電話が来たのが半年前だから、俺、ほんとに姉ちゃんのこと全然知らないんです。」
「……それなのに、よく泊まりに来たね。」
「だって、姉弟だから。」
健少年は平然とそう言ってのけ、カップ麺のスープをずびずばと飲み干した。
だって、姉弟だから。
その言葉は、そこに寄せられている当たり前みたいな信頼は、シュンにとっては全く異世界の言語みたいに感じられた。
シーフードのカップヌードルを啜りながら、シュンは自分に呆れてしまう。
物事には逆らわず流されること。
それが、10年近くなるヒモ生活で身につけた処世術だ。
でも、だからといって、飼い主の弟と並んでカップ麺を啜る冬の午後というのは、なんなんだろうか。
「やっぱ、カップ麺はシーフードですね。」
と、隣で健少年が健康的に笑う。
そうだね、と、シュンも反射的に笑い返す。
ちなみにカップ麺を作ったのは、健少年だ。昼飯俺が作りますね! と張り切って台所に消えていったかと思うと、3分後にカップ麺を持って登場した。
まあ、ありがたいことにはありがたいのだ。だってシュンはいつも、買い置きのカップ麺があることを知っていても、お湯を沸かすのが面倒くさくて絶食している。
「姉ちゃんとは、長いんですか?」
ずるずると麺を啜り上げながら、健少年が無邪気に尋ねる。
「半年くらいかな。」
申し訳程度に浮いたエビをつつきながら、シュンは正直に答えた。
「姉ちゃん、どんな感じですか?」
「どんなって?」
「なんだろう。全体的に。姉ちゃん、ずっと前に家を出ちゃって、そっから最近になるまで連絡もくれなかったから、俺、姉ちゃんのこと、そんな知らないんですよね。」
変な姉弟でしょ、と、健少年は箸を持つ手で髪をかいた。
変な姉弟もなにも、普通の姉弟の姿を知らないシュンには、どっちつかずに首を傾げることしかできない。
「ずっと前って、いつ?」
別に取り分けて知りたいわけでもないが、礼儀くらいの気持ちで聞き返しながら、シュンは改めて、自分が美沙子についてなにも知らないことを自覚する。
美沙子だってシュンについてなにも知らないんだから、お互い様ではあるが、性感帯の一つ一つまでしっかり把握しているくせに、これまでの人生については全く持って把握していないのは、さすがに歪だという気もした。
「えっと……9年前ですね。姉ちゃんが16で、俺が7歳の頃。それで、実家に電話が来たのが半年前だから、俺、ほんとに姉ちゃんのこと全然知らないんです。」
「……それなのに、よく泊まりに来たね。」
「だって、姉弟だから。」
健少年は平然とそう言ってのけ、カップ麺のスープをずびずばと飲み干した。
だって、姉弟だから。
その言葉は、そこに寄せられている当たり前みたいな信頼は、シュンにとっては全く異世界の言語みたいに感じられた。
10
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる