姉弟

美里

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 言葉が見つからないまま、シュンは少年の涙をじっと見つめていた。
 右の目から流れ出し、まだ子供じみた丸みのある頬を伝い、少年らしく潔癖に尖った顎から垂れて、真っ白いバスローブの胸元に吸い込まれていく雫。
 シュンがそうやって健少年の内面から目をそらして言えるうちも、彼はじっとシュンの目を見つめていた。それは、シュンにだって分かっていた。ただ、その目を見返すだけの度胸がないだけで。
 俺、と、囁くように、健少年が言った。
 俺、シュンさんのこと、好きなんです。
 シュンは、健少年の胸元から目を離さないまま、辛うじて頷いた。
 分かっている。分不相応なくらいの恋情を向けられていることくらい。
 分かっているから、応えようがないから、困るのだ。彼の目を見られないくらいに。
 「分かってるなら……、」
 今にも泣き崩れそうなくらい切なげな声で、健少年がシュンに縋った。
 分かってるなら、抱いてくれ。
 続く台詞はそれだと分かっていて、シュンは気が付かないふりをした。
 セックスはただの粘膜接触。一度や二度、いや、三度や四度、それこそ無限に繰り返したとしても、そこになんの意味も生まれはしない。
 シュンはこれまでのヒモ人生でそう学んできたし、学ばせてくれた男や女をすべからく愛し尊敬もしていた。
 けれど、健少年はそんなことを学ばなくていい。一生、そんなことは知らなくていい。
セックスに生涯の愛とか重い意味を込めて、いつか確かに愛した女を抱くか、男を抱くか抱かれるかすればいい。
 「……ごめんね。」
 シュンが言えるのは、それだけだった。
 「悪いと思うなら……、」
 抱いてくれ
 続く台詞やはりは分かっていた。
 分かっていて、知らないふりをした。
 「ベッドに入りなさい。もう、寝たほうがいい。」
 そして、吐き出したのはまともな大人みたいな建前。
 俺をレイプしたくせに、と健少年に食い下がれたら一瞬で崩れ去ってしまうような、弱すぎる建前。
 けれど健少年は、なにも言わなかった。
 ただ、両腕を伸ばすと、シュンを抱きしめた。それは、シュンが彼を押しのけることすらできないくらい、予備動作のない素早い動きだった。
 この子は、すごく若いのだ。
 シュンは、そうくっきりと思った。
 少年に抱きしめられたまま、シュンは別れの言葉を探していた。明日、美沙子と入れ替えに出ていくのであろう、この少年にかける言葉を。
 
 
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