姉弟

美里

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帰郷

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 シュンと健少年は、早朝から開いていた喫茶店に入り、クロワッサンとスクランブルエッグの朝食を摂った。
 会話はなかった。ただ、黙々と食事をした。話題がなかったということもあるし、単純に二人共腹が減っていたのだ。
 食事を終え、健少年はオレンジジュースを、シュンはアイスコーヒーを飲み干し、二人は同時に立ち上がった。
 今日こそは、あの公園を発見しなくてはならない。
 レジカウンターで支払いをしながらシュンは、ここ数年で自分で金を払ったのは久しぶりだな、と、最低なことを考えていた。どのみちその金も、美沙子から貢がれたものではあるのだけれど。
 「……行きましょうか。」
 健少年が、何かに挑むみたいに言った。
 「……うん。」
 シュンはそこまでの力強さは持てず、たいして感情のこもっていない返事をした。
 そして二人は並んで喫茶店を出、昨日途中まで辿った道のりを、ゆっくりと辿り直した。
 商店街から一本脇道に入り、そこから真っ直ぐ。
 その道路の曲がり具合や、建物の配置なんかは、やはりシュンの記憶にあるものと同じだと思った。
 この先を右に折れると駐車場があり、その奥に昔シュンが暮らしていたアパートがある。
 ふう、と、シュンは深く息を吐いた。足は止めないままだったけれど、歩調は幾分緩んだ。
 隣を歩く健少年が、心配そうにシュンを見上げた。
 「大丈夫ですか?」
 「うん。大丈夫だよ。」
 中身のない、空虚な会話が交わされた。
 シュンは全然大丈夫ではなかったし、健少年にもそれは分かっていただろう。
 息を吐いたまま、空気を上手く吸い込めないで、シュンは自分のことを、陸に打ち上げられた魚だと思った。
 得意なのは、夜の街で男や女の間をすり抜けて泳ぐこと。こんなふうに真昼の住宅地を、少年とともに歩くことには、向いていないし慣れてもいない。
 それでもとにかく、シュンは道を右に折れた。折れた先に、駐車場はなかった。
 やはり違う道だったのか、と、ようやく息を吸えたのは一瞬。ちょっとあたりの風景を見回してみると、そこは確かに元駐車場だということが分かった。完全に記憶のパズルが出来上がった感じだった。
 駐車場はなくなり、アパートも解体され、2つの敷地を一つにして、新しく大きなマンションが建っていたのだ。
 「……ああ……。」
 口を出たのはただの呻き声だった。
 健少年が、心配そうにシュンを見上げた。
 
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