幼馴染み

美里

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なつめは二階の自分の部屋で、漫画を読んでいた。いつもなら、俺も勝手知ったる他人の家で、本棚から読みたい漫画を取り出して適当なところに座って読みふけり始める。でも今日は、それができなくて。
 入口のところに突っ立っている俺を、なつめがちらりと漫画から目を上げて見やった。
 「座れよ。母さんに変に思われるだろ。」
 なつめのお母さんは、俺を家に上げると、お茶の準備をすると言って台所に入って行った。いつもの流れだと、あと数分もすれば、ぱたぱたとスリッパの足音を立てながら、この部屋に上がってくる。 
 俺はなつめに言われたとおり、ぎくしゃくと腰を下した。いつもなら、本棚に寄りかかるなつめの隣か、すわり心地重視でベッドに座るのだけれど、今日はそうはできずに入り口から少し入った床に座り込んだ。
 ごめん、と、言おうとした。とにかく、許してほしくて。
 けれど俺が口を開く前に、なつめが漫画本を一冊放って寄越した。俺がこの前途中まで読んでいた本だった。
 「普通にしてろよ。」
 なつめの低い声が、淡々とそう言った。感情なんてないみたいな声をしていた。
 俺はもぞもぞと立ち上がり、なつめの隣に座り直した。なつめは、ふいと顔を上げて俺を見た。薄茶色い目から、表情は読み取れない。
 ぱたぱたぱた、と、階段の下からスリッパの足音が上ってきた。
 俺となつめは、その足音を聞きながら、一瞬だけキスをした。
 俺からしたのか、なつめからしたのか、よく分からない。二人の中間らへんで、キスをした。
 唇を話して数秒後、なつめのお母さんが部屋のドアをノックした。なつめが立ちあがり、部屋のドアを開ける。
 「ゆっくりしていってね。」
 なつめのお母さんが俺の顔を覗き込んで微笑んだ。
 俺は、ありがとうございます、と頭を下げた。
 お母さんお手製のクッキーと紅茶が乗った盆を、なつめが俺の前の床にことんと置いた。やはり、感情の読み取れない目をしていた。
 俺は、動揺していた。さっきのキスに、身体の芯から。
 なつめはクッキーを一つ手に取ると、本棚にもたれて座り、漫画の続きを読みだした。
 俺は数秒間躊躇った後、なつめの腕を引いた。なつめが少し鬱陶しそうに顔を上げる。でもその表情は、特別怒っていると言うよりは、読書を邪魔されたときのいつものなつめの表情で。
 その表情に押されるように、俺はなつめにキスをした。
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