コウちゃんと一回くらいセックスしてみたかったな

美里

文字の大きさ
18 / 18

しおりを挟む
 座り込んだまま、夢菜が言った。それは、ほとんど泣きそうな声で、夢菜の顔も、くしゃりと歪んでいた。
 「ねえ、昔、1年くらいだけ仲良かったひとのことって、今でも覚えてる?」
 「1年くらいだけ?」
 「うん。」
 私は、小学生のときや、中学生のときや、高校生のときや、大学生のとき、1年間か2年間くらいだけ、クラスが一緒になったひとのことを思い浮かべようとしたけれど、すぐに断念した。どのひとも、ぼんやりと輪郭は浮かんだ。髪型や、よく着ていた洋服や、なんとなくの身長や顔立ちや。でも、それだけだった。それ以上はっきりとした像は、どうやっても思い出せなかった。
 「ううん。思い出せないかな。」
 正直に答えると、夢菜は更に泣きそうな顔をして、声も震わせた。
 「ってことは、いつかは私たち、コウちゃんのことも忘れちゃうのかな。」
 「え?」
 私はびっくりして、夢菜の顔を見返した。夢菜は、真剣な顔をしていた。わずかばかりの冗談も入り込めないくらい。
 「でも、コウちゃんは、違うじゃない。」
 私はなんだか焦って、わたわたとそんな言い訳みたいな言葉を口にした。すると夢菜は、険しく眉根に皺を寄せた。私の言い訳を、責めるみたいに。
 「なにが違うの? 絶対に、忘れないの?」
 なにが違うのか、私にも分からなくなった。かつては仲良しだった、このアパートに住んでいた女の子たち。彼女たちの顔も、私にはもう、思い出せないのに。
 私が黙り込んでしまうと、夢菜はついに涙をぽろりと零した。いつも失恋しては泣いている夢菜。でも、その涙と今日の涙は違って見えた。具体的に何が違うのかは、説明できないけれど。
 「っていうことは、私はいつか、蘭子のことも、忘れちゃうのかな。」
 震える息の下で、夢菜がそう吐き出した。私は思わず、え、と聞き返してしまった。
 「忘れ、ちゃうのかな。」
 ぽつん、と、夢菜が呟く。
 「忘れないよ。」
 私は、とにかく夢菜を励まさなくては、と、声に力を入れた。
 「夢菜は、忘れない。コウちゃんのことも、私のことも、絶対忘れない。ずっとずっと、忘れない。」
 それで私と夢菜は、お祈りをした。テーブルごしに両手を繋いで、ぎゅっと目を閉じて、コウちゃんのことを思い浮かべながら、声に出してお祈りをした。
 「コウちゃんのことも、夢菜のことも、蘭子のことも、一生死ぬまで忘れませんように。」
 一生も、死ぬまでも、ずっと遠くのことに思えたけれど、コウちゃんはもう、その向こう側に行ってしまったのだ。
 夢菜は泣いていた。私は、泣かなかった。泣かないまま、コウちゃんを思い出して、やっぱり私は夢菜みたいにはなれないみたい、と、口の中で呟いてみた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...