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座り込んだまま、夢菜が言った。それは、ほとんど泣きそうな声で、夢菜の顔も、くしゃりと歪んでいた。
「ねえ、昔、1年くらいだけ仲良かったひとのことって、今でも覚えてる?」
「1年くらいだけ?」
「うん。」
私は、小学生のときや、中学生のときや、高校生のときや、大学生のとき、1年間か2年間くらいだけ、クラスが一緒になったひとのことを思い浮かべようとしたけれど、すぐに断念した。どのひとも、ぼんやりと輪郭は浮かんだ。髪型や、よく着ていた洋服や、なんとなくの身長や顔立ちや。でも、それだけだった。それ以上はっきりとした像は、どうやっても思い出せなかった。
「ううん。思い出せないかな。」
正直に答えると、夢菜は更に泣きそうな顔をして、声も震わせた。
「ってことは、いつかは私たち、コウちゃんのことも忘れちゃうのかな。」
「え?」
私はびっくりして、夢菜の顔を見返した。夢菜は、真剣な顔をしていた。わずかばかりの冗談も入り込めないくらい。
「でも、コウちゃんは、違うじゃない。」
私はなんだか焦って、わたわたとそんな言い訳みたいな言葉を口にした。すると夢菜は、険しく眉根に皺を寄せた。私の言い訳を、責めるみたいに。
「なにが違うの? 絶対に、忘れないの?」
なにが違うのか、私にも分からなくなった。かつては仲良しだった、このアパートに住んでいた女の子たち。彼女たちの顔も、私にはもう、思い出せないのに。
私が黙り込んでしまうと、夢菜はついに涙をぽろりと零した。いつも失恋しては泣いている夢菜。でも、その涙と今日の涙は違って見えた。具体的に何が違うのかは、説明できないけれど。
「っていうことは、私はいつか、蘭子のことも、忘れちゃうのかな。」
震える息の下で、夢菜がそう吐き出した。私は思わず、え、と聞き返してしまった。
「忘れ、ちゃうのかな。」
ぽつん、と、夢菜が呟く。
「忘れないよ。」
私は、とにかく夢菜を励まさなくては、と、声に力を入れた。
「夢菜は、忘れない。コウちゃんのことも、私のことも、絶対忘れない。ずっとずっと、忘れない。」
それで私と夢菜は、お祈りをした。テーブルごしに両手を繋いで、ぎゅっと目を閉じて、コウちゃんのことを思い浮かべながら、声に出してお祈りをした。
「コウちゃんのことも、夢菜のことも、蘭子のことも、一生死ぬまで忘れませんように。」
一生も、死ぬまでも、ずっと遠くのことに思えたけれど、コウちゃんはもう、その向こう側に行ってしまったのだ。
夢菜は泣いていた。私は、泣かなかった。泣かないまま、コウちゃんを思い出して、やっぱり私は夢菜みたいにはなれないみたい、と、口の中で呟いてみた。
「ねえ、昔、1年くらいだけ仲良かったひとのことって、今でも覚えてる?」
「1年くらいだけ?」
「うん。」
私は、小学生のときや、中学生のときや、高校生のときや、大学生のとき、1年間か2年間くらいだけ、クラスが一緒になったひとのことを思い浮かべようとしたけれど、すぐに断念した。どのひとも、ぼんやりと輪郭は浮かんだ。髪型や、よく着ていた洋服や、なんとなくの身長や顔立ちや。でも、それだけだった。それ以上はっきりとした像は、どうやっても思い出せなかった。
「ううん。思い出せないかな。」
正直に答えると、夢菜は更に泣きそうな顔をして、声も震わせた。
「ってことは、いつかは私たち、コウちゃんのことも忘れちゃうのかな。」
「え?」
私はびっくりして、夢菜の顔を見返した。夢菜は、真剣な顔をしていた。わずかばかりの冗談も入り込めないくらい。
「でも、コウちゃんは、違うじゃない。」
私はなんだか焦って、わたわたとそんな言い訳みたいな言葉を口にした。すると夢菜は、険しく眉根に皺を寄せた。私の言い訳を、責めるみたいに。
「なにが違うの? 絶対に、忘れないの?」
なにが違うのか、私にも分からなくなった。かつては仲良しだった、このアパートに住んでいた女の子たち。彼女たちの顔も、私にはもう、思い出せないのに。
私が黙り込んでしまうと、夢菜はついに涙をぽろりと零した。いつも失恋しては泣いている夢菜。でも、その涙と今日の涙は違って見えた。具体的に何が違うのかは、説明できないけれど。
「っていうことは、私はいつか、蘭子のことも、忘れちゃうのかな。」
震える息の下で、夢菜がそう吐き出した。私は思わず、え、と聞き返してしまった。
「忘れ、ちゃうのかな。」
ぽつん、と、夢菜が呟く。
「忘れないよ。」
私は、とにかく夢菜を励まさなくては、と、声に力を入れた。
「夢菜は、忘れない。コウちゃんのことも、私のことも、絶対忘れない。ずっとずっと、忘れない。」
それで私と夢菜は、お祈りをした。テーブルごしに両手を繋いで、ぎゅっと目を閉じて、コウちゃんのことを思い浮かべながら、声に出してお祈りをした。
「コウちゃんのことも、夢菜のことも、蘭子のことも、一生死ぬまで忘れませんように。」
一生も、死ぬまでも、ずっと遠くのことに思えたけれど、コウちゃんはもう、その向こう側に行ってしまったのだ。
夢菜は泣いていた。私は、泣かなかった。泣かないまま、コウちゃんを思い出して、やっぱり私は夢菜みたいにはなれないみたい、と、口の中で呟いてみた。
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