ルルちゃん

美里

文字の大きさ
9 / 25

しおりを挟む
 ミシマは、水みたいにジントニックを飲んだ。私はそんなミシマの様子を視界の端っこで眺めながら、ゆっくりと水色のカクテルを口に含んだ。毒を盛られる、とまでは思ってないけれど、ミシマが私をよく思っていないのは確かだったから、警戒は、まだ完全に解いてはいなかった。
 「……ルルとは、いつから。」
 低い声で、ミシマが言った。
 「……いつからって……別に、付き合ってるわけじゃないよ。」
 私が正直に答えると、ミシマは眉間にしわを寄せた。その表情は、硬い石でできた彫刻みたいなミシマの顔に、よく似合った。
 「なんで。」
 「なんでって?」
 「なんで、付き合わない。」
 なんでって……。
 私は言葉に困って肩をすくめた。
 「私、レズじゃないから。」
 なるべく軽く聞こえるようにそう言うと、ミシマは切れ長の目で私をじっと見た。
 「あんたも?」
 「『も』ってなに?」
 ミシマは私の問いには答えずに、ぐっとジントニックを飲み干し、しなやかな動作で立ち上がるとキッチンに入って行った。
 私は少し考えて、多分ルルちゃんには前にも、レズビアンじゃない、セックスしたことがある友人がいたんだろう、と思い到った。
 思い到ったところで、どうしていいのかも分からず、からんからん、と、空になったグラスの氷を回して遊んでいると、ミシマがキッチンから出てきて、今度は黄色いカクテルを渡してくれた。自分用にはまた、氷すら入っていない、ジントニックらしきグラスをぶら下げている。
 「ルルのこと、好きになれないの?」
 ソファに座り直しながら、ミシマが言った。その言い方が、問いかけと言うよりは、お願いに聞こえて、私は驚いてミシマを見た。だって、ミシマはルルちゃんを好きなんじゃないのか。
 私の視線の先で、ミシマは俯いて少し笑った。それは、なんだかひどく、無防備で寂しげな表情に見えた。その顔を見てしまうと、私はミシマに、あんたルルちゃん好きなんじゃないの、なんて、訊けなくなった。だから、どう答えたらいいのか少し考えてから、正直に言葉を紡いだ。
 「ルルちゃんのことっていうか、私はおとこのひとがいいかな。」
 ミシマは俯いたまま、そう、と呟いた。その言葉もひどく儚げで、吹けば飛ぶようなものに感じられた。それでそのとき、私は思ってしまったのだ。私も、こんなふうに思われてみたい、と。それは、ミシマに。
 どこまでも不毛な恋が始まる気がした。ただでさえ私は初心者なのに、攻略法も必殺技も知らないのに、なぜか、いつのまにか、ハードモードの波に飲み込まれかけている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヘンタイ好きシリーズ・女子高校生ミコ

hosimure
恋愛
わたしには友達にも親にも言えない秘密があります…。 それは彼氏のこと。 3年前から付き合っている彼氏は実は、ヘンタイなんです!

処理中です...