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死にたい夜に限って
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死にたい夜に限って、電話をかけてくる男がいる。
「美奈ちゃん? なにしてるとこ?」
いま暇? と、太平楽な調子で言ってくる男に、別になにもしてない、暇だよ、と返す。
ドアノブに充電ケーブルをくくりつけ、首を吊ろうとしていた私は、とりあえずその場から立ち上がり、ベッドに腰を下ろす。
「聞いてよ美奈ちゃん、彼氏が酷いんだよ! 俺に隠れてゲイイベント行ってたんだ!」
「……あれじゃないの? 友だち募集中みたいな。」
「そんなわけないでしょ! 思いっきり出会い募集のイベントだったんだから!」
「……ああ、そう。」
「それでね、あいつなんて言い訳したと思う!? 友だちに誘われて仕方なくって言うんだよ! 彼氏持ちの男を出会い募集のゲイイベントに連れてく友達ってなんなの!?」
「……その友達と、コウは知り合いじゃないの?」
「知らない! どうせ架空のお友達でしょ!!」
「……ああ、まあ、そうね……。」
私はベッドサイドにおいていた煙草の箱に手を伸ばし、一本口に加えて引き抜くと、箱の中に押し込んでいた100円ライターで火をつける。
「あ、美奈ちゃん、」
「なに?」
「煙草。吸ったでしょ?」
「……。」
「禁煙、今度は何日保ったの?」
えっと、と、私は指折り日にちを数えるふりをする。本当は、そんなことしなくても分かっていた。
前に煙草を吸ったのは、こんなふうに香也が電話をくれた夜なんだから、一ヶ月と三日前。
「一ヶ月、くらいかな。」
なんとなくぼかして答えると、香也は電話の向こうで大げさなため息を付いた。
「いつも、一ヶ月くらいしか保たないよね。」
「……そうね。」
一ヶ月。
だいたいそれくらいのスパンで私は自殺未遂のそのまた未遂をし、香也はそれを知りもしないで電話をかけてくる。
「……それで、彼氏とはどうなったの?」
決して口にしてはいけないことを口走りそうになって、私は無理やり話を戻してみる。
すると香也は、あっさり話に乗ってくれ、聞いてよ、最低なんだから! と怒りに声を弾ませる。
うんうん、それは酷いねと、私は全自動愚痴聞きマシーンに徹し、煙草をせっせと消費する。
30分くらいすると、香也は気が済んだらしく、じゃあ、煙草はやめなよ、と言い置いて、ぷつんとあっさり電話を切った。
夜の中に置き去りにされた私は、とりあえず煙草を咥えたままドアノブに歩み寄り、固く結んだ結び目に爪を食い込ませながらほどいた。それから枕元にあるコンセントにプラグを差し込み、スマホを繋いで充電し、そのまま鏡の前に立つ。
夜は私にとって仕事の時間だ。首をくくっている場合ではない。
「美奈ちゃん? なにしてるとこ?」
いま暇? と、太平楽な調子で言ってくる男に、別になにもしてない、暇だよ、と返す。
ドアノブに充電ケーブルをくくりつけ、首を吊ろうとしていた私は、とりあえずその場から立ち上がり、ベッドに腰を下ろす。
「聞いてよ美奈ちゃん、彼氏が酷いんだよ! 俺に隠れてゲイイベント行ってたんだ!」
「……あれじゃないの? 友だち募集中みたいな。」
「そんなわけないでしょ! 思いっきり出会い募集のイベントだったんだから!」
「……ああ、そう。」
「それでね、あいつなんて言い訳したと思う!? 友だちに誘われて仕方なくって言うんだよ! 彼氏持ちの男を出会い募集のゲイイベントに連れてく友達ってなんなの!?」
「……その友達と、コウは知り合いじゃないの?」
「知らない! どうせ架空のお友達でしょ!!」
「……ああ、まあ、そうね……。」
私はベッドサイドにおいていた煙草の箱に手を伸ばし、一本口に加えて引き抜くと、箱の中に押し込んでいた100円ライターで火をつける。
「あ、美奈ちゃん、」
「なに?」
「煙草。吸ったでしょ?」
「……。」
「禁煙、今度は何日保ったの?」
えっと、と、私は指折り日にちを数えるふりをする。本当は、そんなことしなくても分かっていた。
前に煙草を吸ったのは、こんなふうに香也が電話をくれた夜なんだから、一ヶ月と三日前。
「一ヶ月、くらいかな。」
なんとなくぼかして答えると、香也は電話の向こうで大げさなため息を付いた。
「いつも、一ヶ月くらいしか保たないよね。」
「……そうね。」
一ヶ月。
だいたいそれくらいのスパンで私は自殺未遂のそのまた未遂をし、香也はそれを知りもしないで電話をかけてくる。
「……それで、彼氏とはどうなったの?」
決して口にしてはいけないことを口走りそうになって、私は無理やり話を戻してみる。
すると香也は、あっさり話に乗ってくれ、聞いてよ、最低なんだから! と怒りに声を弾ませる。
うんうん、それは酷いねと、私は全自動愚痴聞きマシーンに徹し、煙草をせっせと消費する。
30分くらいすると、香也は気が済んだらしく、じゃあ、煙草はやめなよ、と言い置いて、ぷつんとあっさり電話を切った。
夜の中に置き去りにされた私は、とりあえず煙草を咥えたままドアノブに歩み寄り、固く結んだ結び目に爪を食い込ませながらほどいた。それから枕元にあるコンセントにプラグを差し込み、スマホを繋いで充電し、そのまま鏡の前に立つ。
夜は私にとって仕事の時間だ。首をくくっている場合ではない。
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