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橋の欄干に身体を引き上げ、腰をかける。
人が通りかかる気配はない。誰も私を邪魔しない。
私は大きく息をつき、前に身を乗り出し、頭から身を投げようとした。
そのとき、スカートのポケットで、スマホが震えた。
誰だろう、と思った
だって、香也はもう私に電話なんてくれないだろう。先に突き放したのは、私だ。大きな男と寝て、香也を裏切ったのも私。
でも、香也以外に私に電話をくれる人が思いつかない。私の人生のオールキャストは香也と大きな男だし、大きな男は私の電話番号など当然知らない。
私は不思議に思ってポケットからスマホを取り出した。
電話の相手は、香也だった。
なぜ、と思う。だって、私は散々香也を裏切ってきたのに。
電話に出るかどうか、私はたっぷり二分は迷った。
香也の声を聞いて、未練が出てくるのが嫌だった。また、自殺未遂のそのまた未遂になってしまうのではないかと。だって、いつだって香也の声は私を死の淵から引き戻してきた。今度もまた、そうなったら、と思うと、スマホを凝視しているしかなかった。
それでもスマホは、愚直に震え続けていた。
私は意を決して、スマホを耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、美奈ちゃん? 聞いてよ、彼氏がひどいんだよ、』
香也はいつものように勢いよく喋り始めた。しかし、その勢いはすぐに弱まり、彼は電話の向こうで黙り込んだ。
そして、落ちた短い沈黙の後。
『美奈ちゃん、今、なにしてるの?』
問いかけはいつもと変わらなかった。けれど、声のトーンが明らかにいつもと違った。
だから私は正直に答えたのだと思う。橋の上にいて、今から飛び降りるつもりだと。
すると香也は、電話の向こうで息を詰めた。
『そんな気が、したんだよ。』
ため息みたいな香也の台詞。
私は黙っていた。なにを言うべきなのかがちっとも分からなかったから。
『美奈ちゃん。怖いんだ。』
怖い。
言葉の通り、香也の声は震えていた。
『だから、一緒にいたい。それは、だめなことなのかな。』
消え入りそうな香也の声を、私はじっと息を殺して聞いていた。
やっぱり、この人が好きだ。
気持ちは抑えきれなかった。
「だめじゃない。だめじゃないよ、香也。」
だめだと、言わなくてはいけなかった。そうしないとまた、私は自殺未遂のそのまた未遂を繰り返す人生に落っこちていってしまうはずだった。
それなのに、私の喉は、私の気持ちを裏切った。
「今、自分がどこにいるのかわかんない。コウ、迎えに来てよ。」
泣きじゃくる子供の声が出た。
『行くよ。今すぐ行く。』
電話の向こうから、香也が部屋を飛び出す気配がする。
私は橋の欄干に腰掛け直しながら、香也を待った。もうすぐ、朝日に照らされて香也が駆けてくる。それを、待ち続けた。
人が通りかかる気配はない。誰も私を邪魔しない。
私は大きく息をつき、前に身を乗り出し、頭から身を投げようとした。
そのとき、スカートのポケットで、スマホが震えた。
誰だろう、と思った
だって、香也はもう私に電話なんてくれないだろう。先に突き放したのは、私だ。大きな男と寝て、香也を裏切ったのも私。
でも、香也以外に私に電話をくれる人が思いつかない。私の人生のオールキャストは香也と大きな男だし、大きな男は私の電話番号など当然知らない。
私は不思議に思ってポケットからスマホを取り出した。
電話の相手は、香也だった。
なぜ、と思う。だって、私は散々香也を裏切ってきたのに。
電話に出るかどうか、私はたっぷり二分は迷った。
香也の声を聞いて、未練が出てくるのが嫌だった。また、自殺未遂のそのまた未遂になってしまうのではないかと。だって、いつだって香也の声は私を死の淵から引き戻してきた。今度もまた、そうなったら、と思うと、スマホを凝視しているしかなかった。
それでもスマホは、愚直に震え続けていた。
私は意を決して、スマホを耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、美奈ちゃん? 聞いてよ、彼氏がひどいんだよ、』
香也はいつものように勢いよく喋り始めた。しかし、その勢いはすぐに弱まり、彼は電話の向こうで黙り込んだ。
そして、落ちた短い沈黙の後。
『美奈ちゃん、今、なにしてるの?』
問いかけはいつもと変わらなかった。けれど、声のトーンが明らかにいつもと違った。
だから私は正直に答えたのだと思う。橋の上にいて、今から飛び降りるつもりだと。
すると香也は、電話の向こうで息を詰めた。
『そんな気が、したんだよ。』
ため息みたいな香也の台詞。
私は黙っていた。なにを言うべきなのかがちっとも分からなかったから。
『美奈ちゃん。怖いんだ。』
怖い。
言葉の通り、香也の声は震えていた。
『だから、一緒にいたい。それは、だめなことなのかな。』
消え入りそうな香也の声を、私はじっと息を殺して聞いていた。
やっぱり、この人が好きだ。
気持ちは抑えきれなかった。
「だめじゃない。だめじゃないよ、香也。」
だめだと、言わなくてはいけなかった。そうしないとまた、私は自殺未遂のそのまた未遂を繰り返す人生に落っこちていってしまうはずだった。
それなのに、私の喉は、私の気持ちを裏切った。
「今、自分がどこにいるのかわかんない。コウ、迎えに来てよ。」
泣きじゃくる子供の声が出た。
『行くよ。今すぐ行く。』
電話の向こうから、香也が部屋を飛び出す気配がする。
私は橋の欄干に腰掛け直しながら、香也を待った。もうすぐ、朝日に照らされて香也が駆けてくる。それを、待ち続けた。
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