12 / 23
4
しおりを挟む
潤を抱きながら、直巳の抱かれ方を思い出した。
直巳は声を出さなかった。身体をすっかり真澄に預けておきながら、声を出さず、身体の痙攣を抑えようとする仕草さえ見せた。
冷たい肌と、冷たい吐息。その二つに真澄は狂った。狂って縋ってこねくり回した身体は、それでも最後の最後まで冷たいままだった。
自分と同じ温度になってほしかった。同じところまで落ちてきてほしかった。申し訳なさだけで体を預けるのではなく。
潤の抱かれ方は直巳のそれとはずいぶん違った。掠れた声を途切れ途切れに漏らし、真澄の肌にも唇や手のひらで存分に触れた。身体の痙攣だって抑えるどころか大っぴらにがくがくと震えたし、真澄の名前を何度も呼んで首に縋ってきた。密着した潤の肌は、真澄のそれと同じように熱かった。
潤の抱かれ方。
多分、違うのだろう。
今こうやって抱かれているのは、潤ではなくて一回二万円の男娼。
そう思うと、妙に侘しくなった。
一回数万円の花魁を買いに来る客たちは、みんなこうやって侘しい思いをするのだろうか、とはじめて桜町と私娼窟の客たちの感情なんかに思いをはせたりした。
「潤を抱かせて。」
唇を曖昧に重ねながら言うと、潤は口の端だけで笑い、もう忘れた、とだけ言った。
もう忘れた。
随分悲しい言葉だと思う。
「思い出して。」
「……できない。」
「なんで。」
「時間が立ちすぎたんだろうな。」
抱かれている最中でも、潤の口調は直巳に似ていた。
直巳の抱き方ならこの男は、十分わきまえているのだろう。
いっそ彼を抱くのではなく抱かれてみればよかった、と、一瞬思ってすぐにその考えをかき消した。
どこの誰から仕込まれたか分からないその抱き方が、師のイメージに近ければ近いほど、真澄はどうせ嫉妬に焼かれる。
直巳に抱かれたのは、初音か蛍か六条か浮舟か、はたまたこの町には関係のないどこかの女か。
「会ったことはないのか。あのひとに。」
「ないよ。ただ、女が言うとおりに真似をしてるだけで。」
唇の端だけ曲げて気だるそうに笑う。その表情も、どこから見ても直巳の癖で。
言った方がいいのかな、と思う。
声を出さないで、身体の痙攣を抑えて、真澄の身体に触れたりしないで、そんなふうに抱かれてくれと。
言った方が、お互い楽なのかなと。
それでも真澄はなにも言えないまま、一回二万円の男娼を抱いた。
直巳は声を出さなかった。身体をすっかり真澄に預けておきながら、声を出さず、身体の痙攣を抑えようとする仕草さえ見せた。
冷たい肌と、冷たい吐息。その二つに真澄は狂った。狂って縋ってこねくり回した身体は、それでも最後の最後まで冷たいままだった。
自分と同じ温度になってほしかった。同じところまで落ちてきてほしかった。申し訳なさだけで体を預けるのではなく。
潤の抱かれ方は直巳のそれとはずいぶん違った。掠れた声を途切れ途切れに漏らし、真澄の肌にも唇や手のひらで存分に触れた。身体の痙攣だって抑えるどころか大っぴらにがくがくと震えたし、真澄の名前を何度も呼んで首に縋ってきた。密着した潤の肌は、真澄のそれと同じように熱かった。
潤の抱かれ方。
多分、違うのだろう。
今こうやって抱かれているのは、潤ではなくて一回二万円の男娼。
そう思うと、妙に侘しくなった。
一回数万円の花魁を買いに来る客たちは、みんなこうやって侘しい思いをするのだろうか、とはじめて桜町と私娼窟の客たちの感情なんかに思いをはせたりした。
「潤を抱かせて。」
唇を曖昧に重ねながら言うと、潤は口の端だけで笑い、もう忘れた、とだけ言った。
もう忘れた。
随分悲しい言葉だと思う。
「思い出して。」
「……できない。」
「なんで。」
「時間が立ちすぎたんだろうな。」
抱かれている最中でも、潤の口調は直巳に似ていた。
直巳の抱き方ならこの男は、十分わきまえているのだろう。
いっそ彼を抱くのではなく抱かれてみればよかった、と、一瞬思ってすぐにその考えをかき消した。
どこの誰から仕込まれたか分からないその抱き方が、師のイメージに近ければ近いほど、真澄はどうせ嫉妬に焼かれる。
直巳に抱かれたのは、初音か蛍か六条か浮舟か、はたまたこの町には関係のないどこかの女か。
「会ったことはないのか。あのひとに。」
「ないよ。ただ、女が言うとおりに真似をしてるだけで。」
唇の端だけ曲げて気だるそうに笑う。その表情も、どこから見ても直巳の癖で。
言った方がいいのかな、と思う。
声を出さないで、身体の痙攣を抑えて、真澄の身体に触れたりしないで、そんなふうに抱かれてくれと。
言った方が、お互い楽なのかなと。
それでも真澄はなにも言えないまま、一回二万円の男娼を抱いた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる