女衒真澄と三人の女郎

美里

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潤を抱きながら、直巳の抱かれ方を思い出した。
 直巳は声を出さなかった。身体をすっかり真澄に預けておきながら、声を出さず、身体の痙攣を抑えようとする仕草さえ見せた。
 冷たい肌と、冷たい吐息。その二つに真澄は狂った。狂って縋ってこねくり回した身体は、それでも最後の最後まで冷たいままだった。
 自分と同じ温度になってほしかった。同じところまで落ちてきてほしかった。申し訳なさだけで体を預けるのではなく。
 潤の抱かれ方は直巳のそれとはずいぶん違った。掠れた声を途切れ途切れに漏らし、真澄の肌にも唇や手のひらで存分に触れた。身体の痙攣だって抑えるどころか大っぴらにがくがくと震えたし、真澄の名前を何度も呼んで首に縋ってきた。密着した潤の肌は、真澄のそれと同じように熱かった。
 潤の抱かれ方。
 多分、違うのだろう。
 今こうやって抱かれているのは、潤ではなくて一回二万円の男娼。
 そう思うと、妙に侘しくなった。
 一回数万円の花魁を買いに来る客たちは、みんなこうやって侘しい思いをするのだろうか、とはじめて桜町と私娼窟の客たちの感情なんかに思いをはせたりした。
 「潤を抱かせて。」
 唇を曖昧に重ねながら言うと、潤は口の端だけで笑い、もう忘れた、とだけ言った。
 もう忘れた。
 随分悲しい言葉だと思う。
 「思い出して。」
 「……できない。」
 「なんで。」
 「時間が立ちすぎたんだろうな。」
 抱かれている最中でも、潤の口調は直巳に似ていた。
 直巳の抱き方ならこの男は、十分わきまえているのだろう。
 いっそ彼を抱くのではなく抱かれてみればよかった、と、一瞬思ってすぐにその考えをかき消した。
 どこの誰から仕込まれたか分からないその抱き方が、師のイメージに近ければ近いほど、真澄はどうせ嫉妬に焼かれる。
 直巳に抱かれたのは、初音か蛍か六条か浮舟か、はたまたこの町には関係のないどこかの女か。
 「会ったことはないのか。あのひとに。」
 「ないよ。ただ、女が言うとおりに真似をしてるだけで。」
 唇の端だけ曲げて気だるそうに笑う。その表情も、どこから見ても直巳の癖で。
 言った方がいいのかな、と思う。
 声を出さないで、身体の痙攣を抑えて、真澄の身体に触れたりしないで、そんなふうに抱かれてくれと。
 言った方が、お互い楽なのかなと。
 それでも真澄はなにも言えないまま、一回二万円の男娼を抱いた。


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