妹売り

美里

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「イワン。食事は?」
「今日は割にもらいが良かったんだ。」
「そう。毛布をどうぞ。」
「ありがとう。」
イワンは薄汚れている。何日も風呂に入っていないことが一目でわかるすすけた肌と髪をしている。それでもルイは彼に風呂を勧めはしない。その汚れの膜でイワンが自分の身を守っていることを知っているからだ。
イワンのような年頃の、うつくしい金髪碧眼の少年を犯したがる男は多い。だからイワンは身を汚し、自分は売り物ではないし、抱いて面白い存在でもないと全身で主張しているのだ。ルイが毎日風呂場で全身を磨き上げ、レイジが仕入れてくる何種類もの液体やらクリームやらで肌と髪の手入れをしているのとは正反対に。
毛布を受け取ったイワンは、ルイのベッドのすぐ隣に横になって毛布にくるまる。毛布の下に本当に身体が入っているのか不安になるくらい、細く薄い身体つきをしている。
「イワン。」
「なに?」
ルイがイワンが毛布にくるまった後に口を開くことは珍しい。なにか余程話したいことがあるのだろうと思ったイワンが身を起こそうとするのを、ルイはベッドから身を乗り出し、彼の肩をそっと押さえて止めた。
「もしジャッキーになにかあったら……。あのこが本当につらそうにしていたら、知らせてね。」
ルイがジャッキーと最後に顔を合わせたのは、もう五年以上前になる。このビルで客を取るようになってからは顔を合わせてはいないのだ。それでもルイにとってジャッキーは友人だった。たった一人の大切な友人だった。
それを知っているイワンはルイの手をそっと握り、はっきりと頷く。
ルイが身体を売り始めたばかりの頃、毎日泣いてばかりいた彼女の肩を抱いてくれたのはジャッキーだったし、手荒な客にけがをさせられたときに手当てをしてくれたのもジャッキーだった。
他の娼婦たちは明らかに水際立ってうつくしいルイを嫌い、自分の縄張りから遠ざけようと唾を吐きかけたり石を投げたりした。割れた瓶を投げつけられて額を切ったこともある。そのルイの手を引いて、自分の隣に立たせてくれたのがジャッキーだった。彼女とてまだ十代の半ばだったのだが、兄のロンは彼女がかなり幼い時から路上に立たせていたらしく、すでにストリートでは知られた顔だったのだ。ジャッキーの隣にいれば、つばも石も瓶も飛んでは来なかった。
彼女の幼いころを知る娼婦たちはそろってロンを口汚くののしった。いくら金がなくたって飢え死にしそうだって、あんなに小さい子に毎日毎日客を取らせるなんて、人間のする事じゃない、と。
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