16 / 29
4
しおりを挟む
約束通り一度のセックスが終わると、背を向けてシーツを被るルイの背中に、蛇男は取引の対価を投げかける。
「ジャッキーはロンにやられてた。昔から。客取らされる前かららしい。そんでこの前、この下でレイジが見てる前で犯されてな。そっからはもう、言いなりだ。」
いっそ壊してしまいたかった。ぎりぎりで正常の側に踏みとどまり続けているルイの精神を。壊れてしまえばレイジは売り物にならないこの女を棄てるだろうから、ミンジュは彼女を拾って手元に置いておくことが出来るはずだ。
「……レイジは、それを見ていたの?」
ルイの声は、吹きはじめの秋風みたいにか細く冷たい。
蛇男はわざと露悪的な言葉を選び、あの日このビルの前を通りかかった娼婦たちから聞いた話を彼女に聞かせてやる。
「いつもと同じだ。座って、本読んで。その前でジャッキーがロンに、薬を中に塗られてめちゃくちゃにやられてたって話。」
「……そう。」
やはりか細く冷たい返事。ジャッキーはロンの妹である前に、ロンが使っていた娼婦だ。誰がビルの前を通ろうと、ジャッキーとロンの間に割って入ることなどしはしない。それが娼婦とポン引きだ。兄と妹である前に。
ルイにだってそれくらいはちゃんと分かっている。
「俺と来いよ。」
蛇男はルイの背中に手をかけてそう誘ったが、彼女はその言葉自体を黙殺し、出て行って、とだけ言って目を閉じた。もう二度と目を開きたくなどなかった。
いつもならそれで部屋を出て行くはずの蛇男は、今晩だけはしつこかった。
「俺と来い。誰も知らないところに行って二人で暮らそう。」
誰も知らないところで、二人で。
蛇男と行けば、多分ルイは幸せだろう。もう身を売らずともいい。蛇男が自分の肉体を売ってでもルイを食わせてくれるのだろう。彼女はもう、今の願い通り目を閉じたままじっと転がっていればいいのだ。
行けばいい。それが多分、娼婦に生まれついたルイが幸せになる唯一の道だ。それでも彼女の首は縦には振れなかった。どうしても。
「ルイ。」
きらい、と、今度こそルイは呟く。
「レイジのことなんて、嫌いなの。今も、昔もよ。ずっとずっと、嫌いなの。」
なぜだかその罵倒は、ルイ自身の耳にさえ痛々しい愛の告白にしか聞こえなかった。今も昔もずっとずっと嫌いなのは確かなのに。
蛇男はルイの髪を手櫛で梳いた。何度も何度も、彼女の頭の形を確認するみたいに丁寧に。そして、その手の動きに眠気を誘われたルイが深く眠りこむと、静かにビルを出て行った。定位置で文庫本を開いていたレイジは、蛇男に視線を向けさえしなかった。
「ジャッキーはロンにやられてた。昔から。客取らされる前かららしい。そんでこの前、この下でレイジが見てる前で犯されてな。そっからはもう、言いなりだ。」
いっそ壊してしまいたかった。ぎりぎりで正常の側に踏みとどまり続けているルイの精神を。壊れてしまえばレイジは売り物にならないこの女を棄てるだろうから、ミンジュは彼女を拾って手元に置いておくことが出来るはずだ。
「……レイジは、それを見ていたの?」
ルイの声は、吹きはじめの秋風みたいにか細く冷たい。
蛇男はわざと露悪的な言葉を選び、あの日このビルの前を通りかかった娼婦たちから聞いた話を彼女に聞かせてやる。
「いつもと同じだ。座って、本読んで。その前でジャッキーがロンに、薬を中に塗られてめちゃくちゃにやられてたって話。」
「……そう。」
やはりか細く冷たい返事。ジャッキーはロンの妹である前に、ロンが使っていた娼婦だ。誰がビルの前を通ろうと、ジャッキーとロンの間に割って入ることなどしはしない。それが娼婦とポン引きだ。兄と妹である前に。
ルイにだってそれくらいはちゃんと分かっている。
「俺と来いよ。」
蛇男はルイの背中に手をかけてそう誘ったが、彼女はその言葉自体を黙殺し、出て行って、とだけ言って目を閉じた。もう二度と目を開きたくなどなかった。
いつもならそれで部屋を出て行くはずの蛇男は、今晩だけはしつこかった。
「俺と来い。誰も知らないところに行って二人で暮らそう。」
誰も知らないところで、二人で。
蛇男と行けば、多分ルイは幸せだろう。もう身を売らずともいい。蛇男が自分の肉体を売ってでもルイを食わせてくれるのだろう。彼女はもう、今の願い通り目を閉じたままじっと転がっていればいいのだ。
行けばいい。それが多分、娼婦に生まれついたルイが幸せになる唯一の道だ。それでも彼女の首は縦には振れなかった。どうしても。
「ルイ。」
きらい、と、今度こそルイは呟く。
「レイジのことなんて、嫌いなの。今も、昔もよ。ずっとずっと、嫌いなの。」
なぜだかその罵倒は、ルイ自身の耳にさえ痛々しい愛の告白にしか聞こえなかった。今も昔もずっとずっと嫌いなのは確かなのに。
蛇男はルイの髪を手櫛で梳いた。何度も何度も、彼女の頭の形を確認するみたいに丁寧に。そして、その手の動きに眠気を誘われたルイが深く眠りこむと、静かにビルを出て行った。定位置で文庫本を開いていたレイジは、蛇男に視線を向けさえしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる