観音通りにて・情夫

美里

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弓子

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弓子は、大体鏡太郎が想定していた通りの落ち方をした。
 店の終わりまで待って、強引に家までついて行く。彼女は抗えずに鏡太郎を家に入れてしまう。
 「男をほいほい家に入れるなよ。」
 「……だけど……。」
 「俺が行くとこないって知ってるんだ?」
 「……知っているわ。」
 確かに地味な女だ。とくに一重まぶたの両目や、そっけなく首の後ろで括っただけの黒髪がそう見せているのだろう。
 見せ方一つで美人になれそうな女なのに、と、鏡太郎は内心で思う。髪を下ろしてきれいに整え、地味な化粧もやめて、日本人形的なうつくしさに寄せて行けば、十分美人で通るのに。
 それを小声で囁くと、弓子はぱっと頬を染めた。多分、美人などとはこれまで言われたことがなかったのだろう。
 「きれいだよ、あんた。少なくとも、きれいにはなれる。」
 「……そんなこと、」
 「あるよ。」
 そこからなし崩しだ。部屋の電気を消しもせず、部屋の隅っこにきちんと片づけられていた布団を適当に敷いて女の身体を押し倒す。
 彼女は抵抗した。しかし鏡太郎が服を脱がせると、観念したかのようにその手に手を貸した。
 「電気を消して。」
 彼女が細い声で言う。
 消す消す、と適当に応えながら、鏡太郎は彼女の白いキャミソールを剥がした。そして、一瞬動きを止めた。
 「だから、電気を消してって言ったじゃない。」
 もっと細い、今にもきれそうな蜘蛛の糸の声で、弓子は泣きそうに囁いた。キャミソールに隠れていた部分、彼女の胸や腹や背中には、びっしりと根性焼きの跡が刻まれていた。
 誰にやられた、とか、いつやられた、とか、そんなことを鏡太郎は訊かなかった。訊いたところでなにもできないのは百も承知だ。だから彼女の上に慎重に覆い被さると根性焼きの痕に唇をつけた。一つ、もう一つ、さらに一つ。
 もう消えない傷なのだとは分かっていた。どの焼き痕ももう十分に古かった。それでも引き寄せられるように、鏡太郎は弓子の肌に唇をつけていた。
 弓子は驚いたように動きを止めていたが、やがておずおずと鏡太郎の首に腕を回した。
 「背中も。」
 鏡太郎が言うと、おとなしく彼女はうつ伏せになる。背中の焼き痕は、魚の鱗みたいに所々重なり合ってはびっしりと肌を覆っている。
 セックスは、しなかった。ただ、弓子の根性焼きの痕を辿るだけで、気が付けば表はすっかり明るくなっていた。
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