金魚の庭

美里

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そのとき、商店街の方からすたすたと歩いて来た細身のスーツ姿の男が、いきなりその金髪の肩を後ろから鷲掴みにしてアスファルトに引きずり倒した。
 私は唖然としてスーツの男と金髪の男とを見比べた。
 スーツの男は痩せて背が高く、神経質そうに整った白い顔をしていた。アスファルトにひっくり返った男は、一瞬怒りに両目を染めたが、スーツの男の容貌を見ると、すぐに態度を変えた。
 「佐山さん。」
 金髪の男は媚びるようにスーツの男の長い脚にすり寄った。スーツの男は気だるい仕草で男のパサついた金髪をかき上げるように撫で、腰をかがめてピアスだらけの耳元に低く囁きかけた。私の耳に単語の一つも届かないように、慎重に配慮された声量だった。
 やがてゆっくりと身を起こした佐山は、私に向かって別人みたいに爽やかな笑みを浮かべた。
 「申しわけありません、彼は私の知り合いです。責任を持って反省させますので、今回の所は勘弁してやって頂けませんかね?」
 私は男の胡散臭い笑顔を睨み上げ、口元だけは笑みを作って頷いた。
 金髪の男は佐山に襟首をつかまれたまま、私の顔を下から盗み見ている。その目にあるのは畏怖や遠慮ではなく、好奇心だった。それも、明らかに性的な色を含んだ。
 それを敏感に察した佐山は、金髪の男の襟首を捻り上げて立ち上がらせ、早く行け、と背中を押した。今度は畏怖に目を染めた金髪の男は、深々と頭を下げてから小走りで逃げ去って行った。
 「申しわけありません。」
 佐山はもう一度私に頭を下げた。中学生の小娘に何度頭を下げたところでかすり傷もつかない程度には、この男のプライドは固く守られているのだろう。
 私は佐山を睨みつけたまま、あなたが父を? と訊いた。あの男を父と呼んだのは、これが最初で最後だ。
 佐山はゆっくりと身を起こし、眼鏡越しの冷たい視線で私を見据えた。
 このガキは何をどこまで知っているのだろうか、と、検分するような視線だった。
 私はぐっと両足に力を入れ、なにもかも知っていますけど、なにか? とでも言いたげな顔を作った。
 「……少し、お話しましょうか。そうですね、あの窓際の席ならどうですか?」
 佐山が漂白された骨のような左手で示したのは、ほんの数メートル先の道路際にあるハンバーガーショップの、壁全体がガラス張りで、足もとから天井まで道行く人に見られたい放題の窓際席だった。
 私は無言で頷き、先に立ってハンバーガーショップに入った。
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