金魚の庭

美里

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私は骨壺をなつみさんに預けて自宅に戻った。深夜二時。夫は起きて私を待っていた。  
 ドアを開けたところで待機していた夫に塩をかけてもらい、無駄に広い玄関と無駄に長い廊下を抜け、やはり無駄な面積を誇るリビングで向かい合う。
 私がここに来るまでは、佐山はめんどくさいからと言ってこのリビングだけで生活の全てを済ませていたらしい。今でもその名残として、ソファには毛布が一枚置かれている。 
 寝室が別々なのでよくは知らないが、時々佐山が使っているのだろう。四年くらいでは、生活の全てに馴れることはできない。私だってしばしば、同じ空間に佐山がいることを不思議に思うことがある。向かい合って朝晩の食事をしている時や、休日の昼間にだらだらとビールを飲んでいる時や、風呂あがったよなどと言いに行くときなんかに、ふと。
 「……村上さんは、」
 佐山は、私が急に泣き出すのではないかと怖れるように、そっと話を切り出した。その声のトーンや戸惑いがちの表情なんかは、ここに越してきたばかりの頃を余計に想起させる。
 「なつみさんのとこ。お墓、どうするか考えないと。埋葬許可なんて出ないでしょ。戸籍ないんだから。」
 本当に話さなければならないことは、こんなことではなかった。曲がりなりにも、四年間夫婦として暮らしてきたのだ。
 しかし私も佐山も、本題に踏み込むことにどうしても躊躇があった。四年間の生活は、お互いにとってそれくらいには惜しむべきものだったのだなと、妙な実感が胸に湧いた。
 「……私はあるのにね。多分、私の母親にも。」
 何気なく言うと、夫は白い首を落としたまま端的に答えた。
 「一人目の子どもには、取得してみたんじゃないでしょうか。」
 その返答で、私は私の母親とあの男とに血縁関係があることを確信した。あの男にここまで執着する佐山が掴んでいる情報なら、それは確かなものなのだろう。しかし佐山がいつからそれを知っていたのかは、問いただす気にもなれなかった。
 「どうしようか。」
 と疲労感に包まれたままの私が尋ねると、佐山は曖昧に首をかしげた。
 「なにをですか?」
 分かっているくせに、と思った。分かっているくせに。このままここで二人で暮らすのが苦し過ぎるということくらい。だって、あの男がいなくなった今、もう私たちが夫婦をやっていく意味など無いのだ。
 「ねえ、どうしようか。」
 この男だけは妙な誤魔化しなどしないと信じていた相手の下手くそな対応に、やるせなくなって問いを重ねると、佐山は観念したようにかすかな笑みを浮かべた。この男が不意にさらす無防備さにも、いつしか私はそう動揺しなくなっていた。
 「このままでは、だめですかね。」
 「だめではないよ。でも、」
 「でも?」
 「理由がないね。」
 「そうですねぇ。」
 私と佐山は、2人暮らしにしても広すぎる部屋の中でじっと立ち尽くしていた。知り合った6年前と、佐山の外見はほとんど変わっていない。強いて言えば、眼鏡のフレームが変わったくらいのものだ。私の身長は4センチ伸び、顔つきも体系も随分変化したというのに。
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