金魚の庭

美里

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あの男の墓は、結局立てなかった。埋葬許可が取れないという理由もあったし、私が死んだ後に墓守をする人がいないという理由もあった。同じ理由で、私の墓だって多分立てない。
 骨壺はなつみさんの部屋に置いておいてもらえることになり、私はその中から適当にいくつか骨をもらって、チョコレートの入っていた手のひらサイズの空き缶に入れて持って帰った。
 なつみさんは私と佐山の離別を知ると、私は元からキライよあんなお化けみたいなの、と佐山を悪しざまに罵り、その後ほんの少しだけ泣いた。私は泣かなかった。涙が枯れているせいもあったし、夫が現在いるいないよりも、夫であったところの男にきちんと愛されていたし今も愛されているという事実だけを拾い上げていた。
 男の骨を持って帰ってきた私は、少し悩んだあげく、コンビニで白い封筒を買ってきた。その中に小さい骨を選んで一つ入れ、佐山のマンションに送る。差出人の名前も何も書かなかったが、いきなり人骨を送りつけてくる相手なんて、いくら佐山でもそう心当たりはないだろう。
 あの男と二人で住んでいたアパートよりぼろい一人暮らしの部屋に、仏壇など当然ない。置けるスペースもなければ買う金もない。どうしようかと考えた挙句、ホームセンターで小さい折り畳みテーブルと白磁を模した一輪挿しを買ってきた。テーブルの上に一輪挿しとチョコレートの缶を並べ、はじめの頃は花を活けていたのだが一月しない内にやめた。そもそも男は花など好きではなかった。一輪挿しは結局なつみさんにあげた。
 こんな時に、チョコレートの缶の隣に置けるような写真の一枚もない男だった。
 仕方がないので、熱帯魚屋で赤と黒の金魚を一匹ずつ買ってきた。砂利や水草と一緒にプラスチックの小さな水槽に入れて、オレンジ色のお菓子の缶に並べて飾る。
 完成した仏壇もどきを一歩離れて眺めてみて、なんとなく満足した私は金魚鉢を指先でそっとかき混ぜてみる。
 一人きりの静かな部屋で、爪から染みる冷たさと、ひらひらと尾を揺らす二匹の金魚。
 
 
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