観音通りにて・駆け落ち、その後

美里

文字の大きさ
7 / 31

しおりを挟む
何人の男と寝たのかなんて、数えていない。ただ、身体が随分疲れ切っていたので、今日はいつもより客が多かったのかもしれないな、と、ぼんやり思った。
 セックスは、好きではなかった。
 体内に他人の体の一部が侵入いてくるのは、正直気持ちが悪い。私はなにをやっているんだろう、という気にもなる。
 風呂場で軽く湯を浴び、私は紅子の部屋に向かう。
 真っ暗な部屋の中、紅子は畳の真ん中に布団を敷いて、すやすやと眠っていた。
 私は廊下から差す光に浮かび上がる紅子の白い顔を、しばらく眺めていた。
 最後に目覚めいている彼女と会ったのはいつだろうか、と、そんなことを思いながら。
 廊下を行く女たちの足音でふと我に返り、紅子の隣に敷きっぱなしにしていた布団に身を横たえる。
 泥のように疲れていたけれど、なぜだか意識は冴えていた。
 今、紅子を起こして、性交を迫ったらどうなるだろうか。そんなことを、ぐるぐると考える。
 紅子と私は、一度しか寝ていない。あの炭焼小屋で、たった一度の性交をした。そして、その次の晩に村を出た。
 誘ったのは、私だ。
 いつでも手の届く位置にいるのに、口づけは何度も繰り返しているのに、それ以上触れられない身体がもどかしくて。
 伸ばした手で、紅子の着た切り雀の古ぼけた着物の衿を開いた。
 紅子は抵抗しなかった。
 動揺した素振りも見せず、鏡合わせみたいに同じ動作で、私の衿を開いてきた。
 めまいがした。どちらがどちらを抱こうとしているのか分からなくなった。紅子に触れるその時までは、紅子を抱きたいと、飢えるみたいに思っていたのに。
 紅子。
 名前を呼べば、紅子も私の名前を呼んだ。
 銀子。
 その声も、全く同じ響き方をした。
 慣れていたはずだ。だって、生まれてきたその瞬間から、自分と同じ声と姿をしたもう一人がすぐ隣にいたんだから。
 なのにその時ばかりは、なぜだかくらくらと、騙し絵でも見せられている気分になった。
 紅子、紅子、紅子、
 自分とおんなじ声と姿をした、もうひとりの女の名前を、すがるように呼んだ。
 銀子、銀子、銀子、
 紅子も同じように私を呼んだ。
 できないかもしれない、と思った。だって、あまりにもめまいがひどすぎて。
 けれど、その心配は杞憂に終わった。
 紅子は私の着物を脱がせると、自分もするりと裸になり、私に身を預けてきた。
 触れた身体は、私と同じだった。何もかもが、同じところにあった。
 それを確かめるみたいに、私と紅子はお互いの身体に手を這わせた。それは、たまらない快感だった。自分の身体を悦ばせるのと同じことだったからだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...