18 / 31
4
しおりを挟む
また眠らないといけなくなる。
交わす言葉がなくて、目を見ることさえ辛くて、私達はそういう形でしか一緒にいられなかった。
紅子だって、私が村を出てずっと身を売っていたことくらい承知だし、私だって、紅子が見て見ぬふりをしていたことくらい知っている。
許せない。
他の男に抱かれたことも、それで飯を食っていたくせに見て見ぬふりをしていたことも。
「……。」
私は黙ったまま、またうどんをすすり始めた。うどんを食べ終わったら、紅子はまた眠ると分かっていた。また眠り、私とは決して顔を合わせないようなタイミングでしか目を覚まさないのだと。
食べ終わるまでが、最後の姉妹の時間。
それとも、また大雨が降れば、紅子は目を覚まして私の胸に縋ってくれるのだろうか。
嫌だった。
雨を待ち続けるであろう自分が。
愛しぬいてください、なんて、訳知り顔でサチさんにのたまった自分が思い起こされる。
私達姉妹は、こんなにももろく崩れかけの恋情を持て余しているのに。
何もいらないと思った。それは、自分の肉体さえも。
ただ、紅子と二人でいられるのなら、どうなったって構わないと村を飛び出してきた。
それなのに、私は、紅子が眠り続けていること、それでいて私以外の人間とは会話を交わしていたこと、その事実だけで打ちのめされているのだ。
蝉に、私達の関係を残らず話していた紅子。
許せるだろうか。
許さねばならないと思う。
許さなければ、もう二人ではいられなくなると。
「……紅子。」
泣きそうな声が出た。
紅子がこちらを向く。
部屋が真っ暗でも、私にはそれが分かるのだ。
「……泣かないでよ、お姉ちゃん。」
先に他人を心のなかに入れたのは、お姉ちゃんなのに。
たしかに紅子は、そう言った。
はじめ私は、心当たりがない、と思った。
身体の中になら、たくさんの男を入れた。数もわからない、有象無象の男たちを、この身体の中に受け入れてきた。
でも、心の中と言うと……。
答えを探したのは、数秒間。
思い浮かんだのは、サチさんのすっきりとした微笑だった。
ああ、と、声が漏れた。
愛しぬいてください。
それだけ告げたあの氷屋行った日が、私の裏切りだったのか。
「誰も心のなかに入れないために、ずっとふたりでいるために、ここまで来たんじゃないの。」
紅子の口調は、淡々としていた。
「だから私は、眠ったわ。蝉にだって、起きているところを見せたりしなかった。でもね、お姉ちゃん、あなたがあの人と……、」
交わす言葉がなくて、目を見ることさえ辛くて、私達はそういう形でしか一緒にいられなかった。
紅子だって、私が村を出てずっと身を売っていたことくらい承知だし、私だって、紅子が見て見ぬふりをしていたことくらい知っている。
許せない。
他の男に抱かれたことも、それで飯を食っていたくせに見て見ぬふりをしていたことも。
「……。」
私は黙ったまま、またうどんをすすり始めた。うどんを食べ終わったら、紅子はまた眠ると分かっていた。また眠り、私とは決して顔を合わせないようなタイミングでしか目を覚まさないのだと。
食べ終わるまでが、最後の姉妹の時間。
それとも、また大雨が降れば、紅子は目を覚まして私の胸に縋ってくれるのだろうか。
嫌だった。
雨を待ち続けるであろう自分が。
愛しぬいてください、なんて、訳知り顔でサチさんにのたまった自分が思い起こされる。
私達姉妹は、こんなにももろく崩れかけの恋情を持て余しているのに。
何もいらないと思った。それは、自分の肉体さえも。
ただ、紅子と二人でいられるのなら、どうなったって構わないと村を飛び出してきた。
それなのに、私は、紅子が眠り続けていること、それでいて私以外の人間とは会話を交わしていたこと、その事実だけで打ちのめされているのだ。
蝉に、私達の関係を残らず話していた紅子。
許せるだろうか。
許さねばならないと思う。
許さなければ、もう二人ではいられなくなると。
「……紅子。」
泣きそうな声が出た。
紅子がこちらを向く。
部屋が真っ暗でも、私にはそれが分かるのだ。
「……泣かないでよ、お姉ちゃん。」
先に他人を心のなかに入れたのは、お姉ちゃんなのに。
たしかに紅子は、そう言った。
はじめ私は、心当たりがない、と思った。
身体の中になら、たくさんの男を入れた。数もわからない、有象無象の男たちを、この身体の中に受け入れてきた。
でも、心の中と言うと……。
答えを探したのは、数秒間。
思い浮かんだのは、サチさんのすっきりとした微笑だった。
ああ、と、声が漏れた。
愛しぬいてください。
それだけ告げたあの氷屋行った日が、私の裏切りだったのか。
「誰も心のなかに入れないために、ずっとふたりでいるために、ここまで来たんじゃないの。」
紅子の口調は、淡々としていた。
「だから私は、眠ったわ。蝉にだって、起きているところを見せたりしなかった。でもね、お姉ちゃん、あなたがあの人と……、」
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる