守護神

美里

文字の大きさ
16 / 26

16

しおりを挟む
永遠子との二年間を思い出すと、今でもめまいがする。じんわりと目の前の者が歪むみたいな、緩慢なめまい。
 浮かんでくるのは、いつだって永遠子の真っ白い身体だ。白くて、細くて、滑らかで、冷たくて、触れているのかいないのか分からなくなるみたいな、永遠子の身体。それもそうだ。私たちはほとんど会話もしなかった。ただ、身体を重ねていただけ。いくら肌と肌とを重ねたところで、浸透圧みたいに皮膚越しに相手の気持ちなんて伝わってきはしない。だから、私と永遠子は感情も思考も一つも共有しなかったのだ。今となっては、共有したかったのかどうかすらもよく分からない。だって、私は永遠子のうつくしい外見に惹かれていただけなのかもしれない。もしそうだとしたら、私は永遠子の身体以外なにも求めていなかったと言える。うつくしい永遠子の、うつくしい裸身。それだけが欲しくて欲しくて地団太を踏んでいた幼い子。それが私だったという気もする。
 一方で、本当は私は、永遠子と肉体関係なんて持ちたくはなかったのではないかと思うこともある。実際あの頃、私は子供すぎた。永遠子だけではなく、他の誰とでも、セックスをするような準備は心身ともにまだ整っていなかった。それなのに、永遠子は私の肌に触れた。それを、許せないと思うこともある。でもそう思うと当時に、いつも私は思い出すのだ。自分がどんなに永遠子を欲しがったか。セックスがどんなものであるかもよく分かっていなかったくせに、ただ欲しいと思う気持ちだけは一丁前にあった。爪を溶かすぐらいの欲望の熱に、私は永遠子の顔を見るたびに煽られていた。
 永遠子がいなくなっても、私は変わらなかった。ショックを受けて寝込んだりもしなかったし、泣いたり怒ったりもしなかった。なぜなら、永遠子はいつでも遠すぎたからだ。彼女はいつだって、どんなに側にいたって、たとえ身体を繋げていたって、どうしても遠かった。あの白い少女は、常に私の理解の及ばないところにいた。彼女がなにを考えているか、私にはいつだって全く分からなかった。永遠子の白い肌と美しい容貌が、それらをすっかり覆い尽くしていたから。永遠子の身体を追い求めすぎたせいで、私は永遠子の内面を失っていたのかもしれない。二年間ずっと、失い続けていたのかもしれない。
 どうであれ、永遠子は消えた。私になにも言わず、煙みたいに、ふっと消えてしまった。私は自分の恋にけじめをつけることもできず、いや、それが恋だったのかもわからなくなったまま、中学一年生の春に取り残されてしまったと感じることが、今でもある。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...