カトリア戦記

山水香

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王国の運命

十字軍の召還

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カトリア半島から東にはかつてアナトリコン帝国がその殆どを支配していた大陸が存在した。
そんな大陸のとある都市クベールにて半島の運命を変える会議が行われようとしていた。

参加者は大陸の国家や有力な修道会の指導者、世界的な大富豪など、錚々たる面々がこの会議に集結しようとしている。

会議が行われる教会の廊下を歩く彼も例外ではなかった。
明らかに只者ではない顔付きをした彼は、神聖アナトリコン帝国皇帝オルドー1世である。
大陸の有力者が集まるこの会議の参加者の中でもトップクラスの実力者であり、数々の戦場を経験した戦上手である。

「先程聞いたのですが、ネルファ朝が聖地アナトリコンを占拠したという情報は確かだったようです。」

皇帝の横を歩いている側近のヨーゼフ伯爵から、ポツリと呟くように放たれたその言葉は皇帝の気分を悪くするのには十分だった。

「東方の戦争から戻ってすぐにこれか。いや、東が終わったからなのか・・・。これでは本国に帰れるのは何時になることか…」

オルドーは異教徒を相手に10年に渡るレコンキスタを完了したばかりである。今回も帰国の途中に半ば強制的にここに召還されたのである。彼がうっかり本音を漏らすのも当然であった。
そして、彼はこれから自分に降りかかる不幸を覚悟するしかなかった。


会議の間ではすし詰めとなった参加者が、さながら大陸の縮図のごとく、外交による勢力争いを行っていた。
それはまさにカオスの坩堝であった。


バァン!!


勢いよく扉を開けた音によって忽ち静まり返る部屋、誰も言葉を発せないなか、不遜にも扉に八つ当たりをした張本人の前にやってくる人間がいた。

「らしくないことするなぁ。まあしゃあないか。なんてったってまた本国に帰れそうもないもんな。ご愁傷さまや。」

「黙れデブ。」

「なんだよ。久しぶりの再会ちゅうのに開口一番それか。とはいえ…」「おお、オルドーではないか。久しぶりだな。」

オルドーの後ろから会話を遮ったのはこの会議の招集者であり大陸1の実力者、ネラル教教皇グリゴリー3世であった。

「お久しぶりです教皇猊下。猊下につきましてはご健勝の程お喜び申し上げます。」

「うむ。さて、オルドーも来たことだしそろそろ会議を始めよう。」

彼はそう言いながら人混みをかき分け、会議の間の奥にある壇上に登った。オルドーもそれに続いて壇上の近くに座った。
オルドーが来てから静まり返っていた場が、引き締まる感じがした。
教皇はギラギラした目をしながらゆっくりとそれを確認し、満足した顔で演説を始めた。
「今回の招集に応じた親愛なる諸君。まずは招集に応じたことに感謝する。
 今回集まって貰ったのは他でもない我らが神を侮辱する異教徒についてである。西方の地で神に呪われたおぞましき異教徒のネルファ人が、聖地アナトリコンを強奪し、街を破壊したのを諸君は知っているか。
 彼らは我らが神の守護者が去ったあと、ハイエナのごとく、この大陸に手を伸ばそうとしていた。守護者のいない我々にとって大陸の防衛は絶望的なものであった。しかし、奇跡的にも我々は今日こんにち我らが神の守護者として大陸の平和をもたらしている。これが神の思し召しと言わずしてなんと言おうか!

 親愛なる我らが神の信徒たちよ。神から預かりし私の言葉に耳を傾けよ。

 今日、私は崇高にして慈悲深き神のお言葉を諸君に伝えるためにこの地にやって来たのだ。・・・今こそ我々は立ち上がらねばならぬ。
 神のお心は我らと共にある。立ち上がれ、神の勇者たちよ。」


一瞬の静けさの後、会議の間は割れんばかりの拍手と歓声に溢れた。

「うるさっ。まあええわ、うちにとっては願ったり叶ったりの結果や。何しろ聖地どころか半島の大体を持ってかれたしな。・・・どちらにせよ自分らのボスにあんな事言われて反対できるやつとかおらんやろ。」

そんなことを言いながら先程オルドーと会話していた商人は帰国の途につこうと会場を後にした。


これにて半島情勢はますますの混乱を極めることになった。

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教皇のクソ長演説は読まなくても大丈夫です。
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