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一章 バレエ・リゥス (ロシアバレエ団)

9. ペトルーシュカはパペット

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「ペトルーシュカ」のことを説明しよう。

「ペトルーシュカ」はパベット、つまり操り人形のことで、ぼくの育ったウクライナ地方には、どの町にもパペット小屋があり、人形劇を見せていた。

 ペトルーシュカとはピエテルの愛称で、彼はピエロのパピットである。この作品の作曲をしたのは「ストラヴィンスキー」で、振付はフォーキン。
 主な人物は魔術師と三人のパペット、大きくて黒いムーア人、かわいいバレリーナ、そしてピエロのペトルーシュカ。
 ペトルーシュカは性格が荒っぽく、行動が奇妙だから、人々から好かれてはいない。

 舞台の幕が開くと、そこは感謝祭が近い町の市場は多くの人々で賑わっている。コザックのダンスなどをして楽しんでいる。
 そこに世界征服を狙っているらしい魔術師が現れて、パピットに横笛で魔法をかけると、三人に命が与えられた。
 三人は人間になれたパペットは喜んで踊る。

 ペトルーシュカはバレリーナに恋していて魔術師の言うことを聞かないから、屋上のような暗い部屋に閉じ込められてしまう。ペトルーシュカはバレリーナのことを思って、悲しくてたまらない。
 そんな時、彼女が訪ねてきてくれたので、うれしくて告白するのだが、彼女はその気はなく、すぐに去っていってしまう。
 
 一方、ムーア人はヤシの木のある南国風の部屋で、ココナッツの実で遊んでいる。そこにバレリーナがやってきて、ふたりは楽しく踊る。
 
 ペトルーシュカがようやく部屋を抜け出してムーア人の部屋に行く。すると、そこにバレリーナがいるではないか。
 ペトルーシュカは怒って、ムーア人に喧嘩をしかける。
 しかし、小さなペトルーシュカは大きなムーア人に、みんなが見ている前で殺される。
 人々は騒ぐが、魔術師はこれはただの人形だから案ずることはないと言ってペトルーシュカをひきずって去って行く。
 しかし、魔術師は見世物小屋の上にペトルーシュカの亡霊を見て恐ろしくなり卒倒し、ペトルーシュカの亡霊も倒れる。
 
 このように、ペトルーシュカは従来のバレエから想像するよりずっと複雑で、悲劇的な内容なのである。

 初演ではムーア人をフォーキン、バレリーナをタマラ、チェケッテイが魔術師を、そして悲しいペトルーシュカをニジンスキーが踊ったのだ。

 パピットは魔術師によって心を与えられるのだが、ニジンスキーはパピットが人間になっても、そのダンスはパピットらしさを残しており、それは見事だったと伝えられている。
 彼はそのために、たとえば食事の時でさえも、首を傾けていたそうだ。操り糸を外したパピットのように。
 その舞台を想像するだけで、どんなにすばらしかったことだろうとぼくの心は踊るのだ。

 夕方にぼくが再びアパートにやって来た時、ニジンスキーは正装をしてソファに座っており、穏やかな顔で迎えてくれた。
 その顔はジョン・シンガー・サージェントが描いたスケッチ画に似ていた。あれは彼が二十一歳のロンドン公演の時、レデイ・リプトンがサージェントのアトリエに連れていって描かせたものだ。
 ニジンスキーを描いた肖像画はたくさんあるが、あれが一番の出来だという評価だし、ぼくもそう思う。

「セルジュ」
 彼はぼくの名前を優しい声で呼んでくれた。
「はい。ニジンスキーさん、これから一緒に劇場に行きますよ」
 劇場、そこはあなたが大好きだった場所ですよ。
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