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第四章
カミラの毒 3 離さない
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カイトが医務室に運ばれて行くのをリリアーナはただ見ているしかなかった。フランチェスカが申し出る。
「リリアーナ様、私が様子を見て参ります。だからお部屋にお戻りになって下さい」
リリアーナは僅かに頷くと、二人の姉に付き添われて部屋に戻っていった。フランチェスカは医務室の入り口まで足を運んだが、中がまだ騒がしく治療も終わってなさそうだったので、落ち着くまで遠慮した。
しかしそれはなかなか収まらず、結局声を掛けられたのは夜も更けてからになってしまった。
開きっぱなしのドアを形ばかりノックする。
「じいや・・・」
「フランどうした? カイトか?」
「ええ、カイトの容態はどうですか?」
「うむ・・・大丈夫だとは思うんじゃが、なんせイフリートが`これでもかっ!‘ っていうくらい吐かせたしな。一応容態は安定しているし、時々意識を取り戻して水を飲んだりもできる」
「じゃあ! もう大丈夫ですか!?」
「いや・・・まだ油断はできんな。意識を取り戻しても朦朧として、誰が誰だか分からんみたいだし、この毒は性質が悪くて容態が急変する事もあるんじゃ」
「そうなんですか・・・」
「はぁ・・・それにしても疲れたわい。フラン、悪いがわしの代わりに朝までカイトについていてくれないか?」
「え!? 私でいいんですか!!」
フランチェスカの勢いにじいやは驚いた。
「ああ、熱があるから頭を冷やしてくれ。それから時々起きるから、できればこのわしの特性ドリンクを飲ませて、嫌がったら水でいい。隣の部屋で寝てるから何かあったら起こしてくれ」
「分かりました! それならお願いがあるのですが・・・」
「ふん・・・?」
「じいや、おはよう。カイトの具合はどう?」
スティーブが顔を出した。
「もう大丈夫だとは思うんじゃが、時々意識は戻ってもすぐに失ってしまうんじゃ」
「回復に向かっているんだろう?」
「状態は良くなってきてるし、後は目覚めるだけじゃな」
「栄養を取れなくて大丈夫か?」
「このわしの特性ドリンクがあればオッケーじゃ! これさえ飲んでれば食事を取らなくてもどうにかなるわい!」
「それ飲んで気絶してるんじゃないの? 激マズって有名だぜ」
「口開けろ!お前にも飲ませてくれる!!」
「じじい!こんな時だけ馬鹿力じゃねーか!」
フランがカイトが寝ている奥の部屋から出てきた。
「病人がいるのに騒がしいわよ! あら、スティーブ」
「おはよう、フラン。カイトの顔と様子を見に来たんだ」
スティーブが奥の部屋に入って行ったが、慌てて出てくる。
「なんで、なんでリリアーナ様がいるの!?」
「カイトの看病じゃ」
リリアーナはカイトのベッドに自分の腕を枕にして突っ伏すように寝ていた。
「何で寝てるの? それに姫君が医務室で看病ってまずいんじゃない?」
「国王陛下から許可をもらったそうじゃ。リリアーナ様のたっての希望だし、カイトは国を救ったのも同じだから、OKが出たんじゃろう。寝てしまったのは、昨日寝ずに看病したから疲れたんじゃろう。フランが来たら、安心したように寝てしまわれたわい」
「医務室の他のベッドで寝たほうが良くね?」
「あそこから動きたくないんだそうじゃ」
「でも、カイトに見舞いに来る野郎とか、リリアーナ様に会いたくて来る野郎とかはいないの?」
「男性が見舞いに来たら、リリィ様は隠れておるわ。会いたい野郎は、ほれ」
じいやが指差した。
「あんた達! 仕事はどうしたの!? 何しに来たの!?」
「フランチェスカが、どつきまわして追っ払ってくれるわ」
「なるほど・・・」
結局その日も時々うっすらと意識を取り戻す程度で完全に目覚める事はなかった。夜も更け、月が出てきた。
「リリアーナ様、空いている他の部屋のベッドで寝ていますから、何かあったら起こして下さい」
「分かったわフラン。迷惑掛けてるわね・・・私」
「何をおっしやるんですか! 私なんか寝る場所が変わっただけです。それよりも姫様にベッドで寝て頂きたいのですが・・・」
「ありがとう。でも傍にいたいの」
フランチェスカは微笑んだ。
「分かりました。そうしましたら、失礼させて頂きます」
静寂に包まれた中、月明かりの下で眠るカイトを眺めた。
「カイト、早く目覚めてね」
声を掛けても反応が無い。もし、目覚めなかったら――
頭を振って考えないようにする。カイトは目覚める! きっと自分の所に戻って来る。そう自分に言い聞かせた。
ほんの少しの仮眠しか取っていないせいか急に睡魔が襲ってきた。夜明けまであと少しだ。頑張って起きていなければ――
カイトは暗闇の中に立っていた・・・リリアーナが何かから逃げている。時々後ろを振り返りながら、その顔は恐怖で青ざめている。
「リリアーナ様! こちらです!」
叫んでも聞こえないようで、自分の身体も思うように動かせずリリアーナに近づけない。もどかしい思いで尚も前に進もうとすると――
「私の前でずたずたにして・・・」
聞きたくないその声が響いてきた。
「カミラ!!」
叫んだ途端に目の前にカミラが現れた。手に持つナイフからは真っ赤な血がしたたり落ち、足元にはリリアーナが横たわっている。そしてその碧い瞳は固く閉じられていた――
「やめてくれ――っ!!」
急に身体が動いて起き上がる。肩で息をし、汗もかいている。まだ朦朧とした意識の中で辺りを見回すと傍でリリアーナがベッドに頭を乗せて眠っている。
『カミラから守らなければ』
カイトはリリアーナをベッドに引き上げると、腕の中に抱きしめた。
『離さない――絶対に連れて行かせない! 絶対に・・・」
腕の中のリリアーナが身じろぎをした。その暖かさに安心すると、また眠りに落ちていった。
珍しくスティーブが早起きをした。カイトの事が心配だし、リリアーナがスティーブに少し慣れてきて、それが嬉しかったりもする。
「おはようございます!」
カイトの病室のドアを開けた。閉めて、そしてもう一度開ける。また閉めて、じいやの寝てる部屋のドアを叩いた。
「じいや!じいや!起きてくれ!!」
「どうしたんじゃ・・・こんな朝早く」
「スティーブうるさいわよ!!」
「フラン!! お、お前も見てくれ!!」
「驚くなよ――」
スティーブがドアを開けると、ベッドの上にはカイトに抱きしめられて眠るリリアーナの姿があった。カイトはリリアーナの髪の中に顔をうずめていて、リリアーナも安心しきったように眠っている。
「美男美女だけあって、絵になる光景ね」
「・・・そうじゃな」
「え!? 何でそこ!? 姫君とこの状態はまずいでしょう!?」
「だってほら、カイトは掛け布の中に寝てるけど、リリアーナ様はその上に寝ているでしょう?それに二人共服は着てるし、事に及ぼうとした訳じゃないんじゃない?カイトも病人だし」
「お!お前は何て事を言うんだ!!」
スティーブが赤くなっている。
「きっと何か理由があったのよ。でもこの状態を他の誰かに見られたらまずいわね。スティーブ、今ならリリアーナ様も眠っていて、男のあんたでも大丈夫だから他のベッドに運んでちょうだい」
「おう、分かった」
スティーブがリリアーナを運ぼうとしたが、カイトの手が外れない。
「おま、カイト、離せよ・・・こら! もっときつく抱きしめようとするな!! 起きてんのか!?・・・・・・だめだ、離さない」
「もう、起こしましょう。きっと起きるわよ」
三人で声を掛けたり揺すったりしたが起きる気配がない。結局リリアーナのほうが先に起きた。
「私・・・なぜここで寝てるの・・・?」
恥かしそうに顔を赤らめている。
「いや、カイトが引きずり込んだようで・・・」
「スティーブ、カイトが犯罪者みたいな言い方をしない! リリアーナ様すいません。すぐカイトを起こしますから」
「カイト、もう起きるの!?」
心から嬉しそうなその笑顔と可愛らしさに三人とも、一瞬見惚れた。そしてその声でカイトも起きた。
「リリアーナ様――」
「カイト!!」
リリアーナがカイトの腕の中でそのまま抱きつく。カイトも安心したように抱きしめた。そして愛しそうに両頬を包み込むと、顔を寄せてくちづけようとした。
「待て!! それは後で二人だけの時にやってくれ!!」
リリアーナも含め、四人共赤くなっている。
「スティーブいたのか?」
「最初からいたよ!!」
カイトが目覚めて安心したリリアーナは名残惜しそうだったが、仮眠を取って身体を休める為に、フランチェスカに促されながら部屋に戻って行った。
午後にはイフリートとサイラスが顔を出す。
「どうだ、具合は?」
「お陰様で、イフリート団長の迷いのない豪快な吐かせっぷりがよかったそうです。俺的にはすぐ仕事に戻っても大丈夫だと思うのですが」
イフリートが笑いながら言う。
「そうか、吐かせっぷりがよかったか、仕事のほうはもう少し休んでからにしろ。殆ど二日・・・いや三日か?意識がなかったんだから、万全の体調になってから復帰しろ」
「分かりました。ありがとうございます」
「あとはサイラスから話しがある」
サイラスが後を続けた。
「カミラは火あぶりの刑に決まった。近く執行される予定だ。あのレバー男だが、実は他国の公爵の馬鹿息子でな。法外な保釈金が積まれて、釈放される事になった。国同士の利害関係もあるしな・・・反省も相当しているみたいだし、リリアーナ様に手を出したらどうなるか、いい宣伝にもなるだろう。何かこれについて不満はあるか?」
「いえ、一発殴っておけば良かったという事ぐらいです」
サイラスがクスッと笑った。
「そうか、それなら良かった。他の傭兵達もそれ相応の罰を受ける・・・ああ、それからゴードン達はお咎め無しだ。途中からではあるが、こちらに協力してくれたし、カミラに騙されていたからな。悪徳不動産屋もお陰で逮捕できたし・・・さすがに借金は肩代わりできないが、あの屋敷を売ればどうにかなるだろう」
「それは良かったです」
「それから、お前はナイトの称号を授与される事になった」
「俺がですか?」
「ああ、井戸は城の、言わば国の命だ。それを守り切ったんだから当然と言えば当然だ。後は、お前の望むものを褒美に与えてくれるそうだ」
「・・・身に余る光栄です。褒美についてはもう決めてあります――」
イフリートとサイラスがカイトの部屋から出てきた。
「早速報告に行くか」
「そうだね」
二人は意を決したように顔を上げると、城の執務室へと足を向けた。
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
「リリアーナ様、私が様子を見て参ります。だからお部屋にお戻りになって下さい」
リリアーナは僅かに頷くと、二人の姉に付き添われて部屋に戻っていった。フランチェスカは医務室の入り口まで足を運んだが、中がまだ騒がしく治療も終わってなさそうだったので、落ち着くまで遠慮した。
しかしそれはなかなか収まらず、結局声を掛けられたのは夜も更けてからになってしまった。
開きっぱなしのドアを形ばかりノックする。
「じいや・・・」
「フランどうした? カイトか?」
「ええ、カイトの容態はどうですか?」
「うむ・・・大丈夫だとは思うんじゃが、なんせイフリートが`これでもかっ!‘ っていうくらい吐かせたしな。一応容態は安定しているし、時々意識を取り戻して水を飲んだりもできる」
「じゃあ! もう大丈夫ですか!?」
「いや・・・まだ油断はできんな。意識を取り戻しても朦朧として、誰が誰だか分からんみたいだし、この毒は性質が悪くて容態が急変する事もあるんじゃ」
「そうなんですか・・・」
「はぁ・・・それにしても疲れたわい。フラン、悪いがわしの代わりに朝までカイトについていてくれないか?」
「え!? 私でいいんですか!!」
フランチェスカの勢いにじいやは驚いた。
「ああ、熱があるから頭を冷やしてくれ。それから時々起きるから、できればこのわしの特性ドリンクを飲ませて、嫌がったら水でいい。隣の部屋で寝てるから何かあったら起こしてくれ」
「分かりました! それならお願いがあるのですが・・・」
「ふん・・・?」
「じいや、おはよう。カイトの具合はどう?」
スティーブが顔を出した。
「もう大丈夫だとは思うんじゃが、時々意識は戻ってもすぐに失ってしまうんじゃ」
「回復に向かっているんだろう?」
「状態は良くなってきてるし、後は目覚めるだけじゃな」
「栄養を取れなくて大丈夫か?」
「このわしの特性ドリンクがあればオッケーじゃ! これさえ飲んでれば食事を取らなくてもどうにかなるわい!」
「それ飲んで気絶してるんじゃないの? 激マズって有名だぜ」
「口開けろ!お前にも飲ませてくれる!!」
「じじい!こんな時だけ馬鹿力じゃねーか!」
フランがカイトが寝ている奥の部屋から出てきた。
「病人がいるのに騒がしいわよ! あら、スティーブ」
「おはよう、フラン。カイトの顔と様子を見に来たんだ」
スティーブが奥の部屋に入って行ったが、慌てて出てくる。
「なんで、なんでリリアーナ様がいるの!?」
「カイトの看病じゃ」
リリアーナはカイトのベッドに自分の腕を枕にして突っ伏すように寝ていた。
「何で寝てるの? それに姫君が医務室で看病ってまずいんじゃない?」
「国王陛下から許可をもらったそうじゃ。リリアーナ様のたっての希望だし、カイトは国を救ったのも同じだから、OKが出たんじゃろう。寝てしまったのは、昨日寝ずに看病したから疲れたんじゃろう。フランが来たら、安心したように寝てしまわれたわい」
「医務室の他のベッドで寝たほうが良くね?」
「あそこから動きたくないんだそうじゃ」
「でも、カイトに見舞いに来る野郎とか、リリアーナ様に会いたくて来る野郎とかはいないの?」
「男性が見舞いに来たら、リリィ様は隠れておるわ。会いたい野郎は、ほれ」
じいやが指差した。
「あんた達! 仕事はどうしたの!? 何しに来たの!?」
「フランチェスカが、どつきまわして追っ払ってくれるわ」
「なるほど・・・」
結局その日も時々うっすらと意識を取り戻す程度で完全に目覚める事はなかった。夜も更け、月が出てきた。
「リリアーナ様、空いている他の部屋のベッドで寝ていますから、何かあったら起こして下さい」
「分かったわフラン。迷惑掛けてるわね・・・私」
「何をおっしやるんですか! 私なんか寝る場所が変わっただけです。それよりも姫様にベッドで寝て頂きたいのですが・・・」
「ありがとう。でも傍にいたいの」
フランチェスカは微笑んだ。
「分かりました。そうしましたら、失礼させて頂きます」
静寂に包まれた中、月明かりの下で眠るカイトを眺めた。
「カイト、早く目覚めてね」
声を掛けても反応が無い。もし、目覚めなかったら――
頭を振って考えないようにする。カイトは目覚める! きっと自分の所に戻って来る。そう自分に言い聞かせた。
ほんの少しの仮眠しか取っていないせいか急に睡魔が襲ってきた。夜明けまであと少しだ。頑張って起きていなければ――
カイトは暗闇の中に立っていた・・・リリアーナが何かから逃げている。時々後ろを振り返りながら、その顔は恐怖で青ざめている。
「リリアーナ様! こちらです!」
叫んでも聞こえないようで、自分の身体も思うように動かせずリリアーナに近づけない。もどかしい思いで尚も前に進もうとすると――
「私の前でずたずたにして・・・」
聞きたくないその声が響いてきた。
「カミラ!!」
叫んだ途端に目の前にカミラが現れた。手に持つナイフからは真っ赤な血がしたたり落ち、足元にはリリアーナが横たわっている。そしてその碧い瞳は固く閉じられていた――
「やめてくれ――っ!!」
急に身体が動いて起き上がる。肩で息をし、汗もかいている。まだ朦朧とした意識の中で辺りを見回すと傍でリリアーナがベッドに頭を乗せて眠っている。
『カミラから守らなければ』
カイトはリリアーナをベッドに引き上げると、腕の中に抱きしめた。
『離さない――絶対に連れて行かせない! 絶対に・・・」
腕の中のリリアーナが身じろぎをした。その暖かさに安心すると、また眠りに落ちていった。
珍しくスティーブが早起きをした。カイトの事が心配だし、リリアーナがスティーブに少し慣れてきて、それが嬉しかったりもする。
「おはようございます!」
カイトの病室のドアを開けた。閉めて、そしてもう一度開ける。また閉めて、じいやの寝てる部屋のドアを叩いた。
「じいや!じいや!起きてくれ!!」
「どうしたんじゃ・・・こんな朝早く」
「スティーブうるさいわよ!!」
「フラン!! お、お前も見てくれ!!」
「驚くなよ――」
スティーブがドアを開けると、ベッドの上にはカイトに抱きしめられて眠るリリアーナの姿があった。カイトはリリアーナの髪の中に顔をうずめていて、リリアーナも安心しきったように眠っている。
「美男美女だけあって、絵になる光景ね」
「・・・そうじゃな」
「え!? 何でそこ!? 姫君とこの状態はまずいでしょう!?」
「だってほら、カイトは掛け布の中に寝てるけど、リリアーナ様はその上に寝ているでしょう?それに二人共服は着てるし、事に及ぼうとした訳じゃないんじゃない?カイトも病人だし」
「お!お前は何て事を言うんだ!!」
スティーブが赤くなっている。
「きっと何か理由があったのよ。でもこの状態を他の誰かに見られたらまずいわね。スティーブ、今ならリリアーナ様も眠っていて、男のあんたでも大丈夫だから他のベッドに運んでちょうだい」
「おう、分かった」
スティーブがリリアーナを運ぼうとしたが、カイトの手が外れない。
「おま、カイト、離せよ・・・こら! もっときつく抱きしめようとするな!! 起きてんのか!?・・・・・・だめだ、離さない」
「もう、起こしましょう。きっと起きるわよ」
三人で声を掛けたり揺すったりしたが起きる気配がない。結局リリアーナのほうが先に起きた。
「私・・・なぜここで寝てるの・・・?」
恥かしそうに顔を赤らめている。
「いや、カイトが引きずり込んだようで・・・」
「スティーブ、カイトが犯罪者みたいな言い方をしない! リリアーナ様すいません。すぐカイトを起こしますから」
「カイト、もう起きるの!?」
心から嬉しそうなその笑顔と可愛らしさに三人とも、一瞬見惚れた。そしてその声でカイトも起きた。
「リリアーナ様――」
「カイト!!」
リリアーナがカイトの腕の中でそのまま抱きつく。カイトも安心したように抱きしめた。そして愛しそうに両頬を包み込むと、顔を寄せてくちづけようとした。
「待て!! それは後で二人だけの時にやってくれ!!」
リリアーナも含め、四人共赤くなっている。
「スティーブいたのか?」
「最初からいたよ!!」
カイトが目覚めて安心したリリアーナは名残惜しそうだったが、仮眠を取って身体を休める為に、フランチェスカに促されながら部屋に戻って行った。
午後にはイフリートとサイラスが顔を出す。
「どうだ、具合は?」
「お陰様で、イフリート団長の迷いのない豪快な吐かせっぷりがよかったそうです。俺的にはすぐ仕事に戻っても大丈夫だと思うのですが」
イフリートが笑いながら言う。
「そうか、吐かせっぷりがよかったか、仕事のほうはもう少し休んでからにしろ。殆ど二日・・・いや三日か?意識がなかったんだから、万全の体調になってから復帰しろ」
「分かりました。ありがとうございます」
「あとはサイラスから話しがある」
サイラスが後を続けた。
「カミラは火あぶりの刑に決まった。近く執行される予定だ。あのレバー男だが、実は他国の公爵の馬鹿息子でな。法外な保釈金が積まれて、釈放される事になった。国同士の利害関係もあるしな・・・反省も相当しているみたいだし、リリアーナ様に手を出したらどうなるか、いい宣伝にもなるだろう。何かこれについて不満はあるか?」
「いえ、一発殴っておけば良かったという事ぐらいです」
サイラスがクスッと笑った。
「そうか、それなら良かった。他の傭兵達もそれ相応の罰を受ける・・・ああ、それからゴードン達はお咎め無しだ。途中からではあるが、こちらに協力してくれたし、カミラに騙されていたからな。悪徳不動産屋もお陰で逮捕できたし・・・さすがに借金は肩代わりできないが、あの屋敷を売ればどうにかなるだろう」
「それは良かったです」
「それから、お前はナイトの称号を授与される事になった」
「俺がですか?」
「ああ、井戸は城の、言わば国の命だ。それを守り切ったんだから当然と言えば当然だ。後は、お前の望むものを褒美に与えてくれるそうだ」
「・・・身に余る光栄です。褒美についてはもう決めてあります――」
イフリートとサイラスがカイトの部屋から出てきた。
「早速報告に行くか」
「そうだね」
二人は意を決したように顔を上げると、城の執務室へと足を向けた。
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