26 / 60
26「束の間の休息」*途中詩葉視点
しおりを挟む「それにしても、ここが咲哉さまのお家にゃんだなー!アタシが普段いるところとは全然違うにゃ!」
「あれ、そう言えばまだ一度もお前ら眷属獣を、僕の家にあげたこと無かったんだっけ」
「はい。今日が初めてになります。広くて暖かくて、素敵な家ですね」
「中古戸建てだから、けっこう年季入ってるけどな。ミィとスノウたちって普段はどういうところで暮らしてんだ?」
「ミィは大勢の同じ猫獣人と一緒に、廃墟で暮らしていたにゃ」
「私は地下の大きな洞穴を寝床にしていました。ミィと同じように、複数の兎獣人が群れをなして生活しています」
僕が二人と出会ったのが、それぞれの種族の住処でだった。幻のダンジョン最後の関門は、時間が経つごとに様々な場所へ飛ばされるようになってたから、その過程で僕はこの二人やここにはいない残りの眷属となった獣人たちと出会ったのだ。
「いいにゃあ~~~、これが人間の民家ってやつにゃのかにゃー。ここで咲哉さまと暮らせたら、とっても幸せににゃれそうだにゃー」
「同感です。ここで咲哉様と一緒にご飯を食べたり、一緒に寝たりするのを想像しただけでも………はっ、よだれが出てました……」
「……二人が望むなら、このままこの家に住み続けても良いけど。どうす―――」
「「ずっとここで暮らしたいにゃ(です)!!」」
即答だった。まあ眷属獣の一人や二人くらい、どうってことない。元々三人で暮らしていたのだから。
ちなみに「召喚」で呼び出したものを元いた場所に帰す方法だが、スキル使用者である僕が「元いた場所に戻れ」と念じるだけで良い。ただし長い間帰さないでいると、召喚されたものたちは瞬時に元の所へ帰れず、自分の足で戻らなくてはいけなくなる。
「しかし出会ったばかりの頃は、二人とも僕にばりばり敵意を剥き出しに、戦いを仕掛けてきたってのに。今じゃあその時の棘はもうどこにも無いよな」
「う……っ。あ、あの時のアタシは仲間たちと同じ、他種族は皆敵って思考だったからにゃあ………」
「私も……兎獣人は地上にいる生きものは獲物か天敵かの存在としか見ていない種族ですので、地底に突然現れた咲哉様を、群れ全体で排除しようと……。今となっては消し去りたい黒歴史にございます……うぅ」
当時は二人ともそれぞれ仲間と一緒に僕を排除しようとした。だがそこに化け物や天敵が襲い掛かり、彼女たちが危機に陥ったところを僕が割り込んで、敵を倒した。
助けたつもりはなかったのだが、二人とも僕に恩義を感じて、何やかんやあって眷属獣として契約したというわけだ。
「二人とも、残りの眷属獣たちもそうだが、僕に対してよくこんなにも懐けるよな。固有スキルの影響で僕の顔は以前よりましてブサイクに映るようになってるってのに」
「確かに出会った頃の咲哉さまからは、嫌悪感を煽られる醜悪さがあったけれど、こうして眷属になって身近に立って見てみると、ちっともブサイクと思わにゃくにゃったにゃ!……って今のは悪口じゃにゃいですにゃ!断じて」
「まったくミィったら、言葉を選ぶべきです。とはいえ私も最初は嫌悪感がありましたが、咲哉様に助けられ、主従関係を結んでからは、咲哉様から嫌悪や恐怖
など負の感情は一切無くなりました。咲哉様に対しては安らぎや愛おしさしか抱いておりません」
「………ありがとうな。僕を肯定し、僕の味方になってくれるのは、お前たちくらいだよ」
今日は学校での大虐殺の余韻に浸りながら、ゆったり過ごすことにした。
***
私…牧瀬詩葉が通っている私立高校、松蔭《しょういん》女子学院高校の校門前――
「……!あなたは………」
「やあ、詩葉ちゃん!学校お疲れさま」
放課後、友達と話しながら下校しているところに、同じ探索者ギルドの先輩、長下部左仁さんが、話しかけてきた。わざわざ学校にやって来て、校門の前で待ち構えていたところ、私に用があるのは明らかだ。
「も、もしかして国内上位ランカーの探索者、長下部左仁さん!?」
「きゃー、本物!」
「近くで見るとちょーイケメン!」
一緒にいる友達は長下部さんを前に皆テンション上がっちゃっている。彼は色めき立ってる友達に笑顔で手を振りつつ、私に話しかける。
「今日は、探索者のお仕事はオフなのかな?」
「……はい。そうですけど」
「それは良かった!俺も今日はオフなんだよ。それでさ、今からどこかでお茶でもしないか?もちろん全部俺が奢るからさ」
やっぱり、またこういったお誘いだ。この人は事あるごとに私にお誘いをしてくる。探索者業界では彼女をとっかえひっかえしていて、軟派で不誠実であると悪評が絶たない。
そして何と言っても、私のいちばんの先輩である霧雨先輩を虫けらのように扱ってもいる。そんなだから私にとってこの人は信頼に値しない人だと見なしている。
「………そういうことでしたら、長下部さんのパーティの方々を誘ってはどうですか?それか、何人目になるか分からない彼女さんでも呼ばれるか」
「ちょ…!?人前でそういう人聞き悪いことは言うべきじゃないと思うな~?」
どの口が言うのか。自分は人前で霧雨さんを散々罵倒していたくせに。
「パーティメンバーも本業の仕事中で誘えないし。何より今日は、俺と君共同でのお仕事の話をしに来たんだよ」
「共同の、お仕事……?」
「そうさ。悪くない案件を持ってきたから、是非検討してもらいたくてね。あと、この件の話は二人だけでしたいんだ。といっても変な場所でするってわけじゃないよ。俺が贔屓しているマイナーの喫茶店があるから、そこで話したいんだけど、どうかな……?」
そう言って長下部さんは私の傍に立つ友達にさりげない目配せをした。
「探索者のお仕事って感じみたいだね」
「そういうことなら、私たち邪魔だよね」
「詩葉ちゃん、もし凄いお仕事が決まったら、私たちにお祝いさせてね!」
やられた………率直にそう思った。この人、私が一人でいるのではなく、こうして友達がいるところを狙って話しかけてきたんだ。
みんながいる前で探索者や動画配信の案件を持ちだして、上手く断れない状況にさせたのだ。
「………分かりました。話だけでも聞かせていただきます」
止む無く長下部さんの誘いに乗るのだった。
15分後、長下部さんの車(車体が金でコーティングされてて、痛い気持ちにさせられた)で連れられたのが、街の隅に建っている年季が入った喫茶店だった。とりあえずは変なところへ連れ込む気配は感じられないので、素直にお店に入ることに。
中にいるお客さんは大学生から高齢の人ばかりで、私と同じ年頃の人はあまり見かけなかった。マイナーというだけあって、若い人には知られていないお店らしい。
「ここは甘い物も洋食料理も頼めるところでね。好きなものを頼んでくれていいよ」
「じゃあ、初めてですし、長下部さんお気に入りのものをお願いします」
無難に(相手が相手だから無難かどうかは怪しいが)そうリクエストをした。注文が届くまでの間、長下部さんからは学校でのことばかり聞かれた。さっき一緒にいた友達のこと、好きな科目、来年は大学に進学するのかなど。
テキトーに答えてるうちに注文したもの…良い香りのコーヒーと分厚めにスライスされたパウンドケーキが、テーブルに乗せられた。
長下部さんがお気に入りにしているだけあって、どれも美味だった。
「さて、じゃあそろそろお仕事……いや、詩葉ちゃんにとっては案件と言った方が良いかな。その話をしようか」
紅茶を一口飲んだ長下部さんはそう切り出して、こんな提案をした。
「俺に、詩葉ちゃんの動画配信に出して欲しいんだ!俺と詩葉ちゃんがパーティを組んで、Aランクのダンジョンを攻略するところを生配信で届けたいんだよ」
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる