最低級の探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵の人と化す

カイガ

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27「束の間の休息」*詩葉視点

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 「私と、長下部さんで、Aランクのダンジョンを…?」
 「悪くない話だと思うんだ。俺も詩葉ちゃんも国内上位ランカーの探索者。俺が150位、詩葉ちゃんに至っては50位と2桁位の凄腕探索者だ」
 「そんな、私は順位は上でも、戦闘力がそれに釣り合う程のことは」
 「いやいや、2桁順位になるだけでも国内では超人扱いされる程なんだから。とにかく、そんな君と俺が組めば、Aランクのダンジョン攻略も現実的になると思わないか?」
 「……………」
 「俺はもちろん、詩葉ちゃんもAランクの探索エリアは、お互いまだ制覇したことが無いよね。正直、不安な気持ちはあると思う。俺もそうさ。
 俺が未だにAランクに踏み出せずにいるのは、パーティの戦力に不足を感じてるからだ。俺の仲間である彼女たちは頑張ってくれてるし実力もそこそこなんだけど、それでもBランクが限界だ。
 そして、詩葉ちゃんに至っては、君は決まったパーティがいないんだよね」
 「………はい。私には、決まったパーティがいません」
 「ソロでAランクの探索エリアに足を踏み入れるのはリスクが過ぎる。だから今までBランクまでのエリア・ダンジョンしか行ってないんじゃないか?」

 その通りである。私が未だにソロで探索活動をしているのは、動画配信の為。私の配信を通して、探索者は苛酷で辛いばかりな仕事ではなく、楽しいところもあるのだと、みんなに伝えたいのだ。
 理由はもう一つあるのだが、それは………今となってはもう叶いそうにない。あの人が引退してしまったのなら、拘りは捨てて、気の許せる誰かとパーティを組むのも良いかもしれない。

 「詩葉ちゃんだからこの際正直に話すけど、俺は近いうちに国内で2桁ランカーにのし上がるつもりなんだ。
 俺には野望があってね。それは、海外にいる兄さんに俺の価値を認めてもらうことなんだ」

彼には兄がいて、その男も探索者をやっている。アメリカで活動しており、この前の発表では世界ランク2桁位と出ていて、超人と呼ばれている。

 「その為にも俺はいつまでも国内のちんけな支部のギルドで燻ぶってるわけにはいかないんだ。こうしてる今でも兄さんはさらなる高みに上ろうとしてるだろうから、俺もとっとと上へ上へ行かなきゃいけない。 
 その為に、詩葉ちゃんに協力してほしいんだ!同じ支部ギルドの誼として、この案件、受けてはくれないかな?」

 そう言って私に頭を小さく下げて、頼み込む長我部さんに、私は答えを渋り続ける。すると彼はさっきまでの真摯な態度から、私を値踏みするかのように話しはじめた。

 「本当のところは、詩葉ちゃんにも燻ぶってるところはあるんじゃないの?いつまでもBランク止まりの活動ばかりじゃ実力は伸びないし。何より、アイドル配信者としての人気も落ちぶれることにだって繋がり得るんじゃないかな?」
 「それ、は………」

 長下部さんに指摘された通りだ。最近の私の動画配信は週間・月間ともに視聴回数が落ちてく一方にある。ブレイク時期が終わったということもあって、古参や本気で応援してくれているファン以外のリスナーはどんどん次のところに移るようになってる。寂しいけどそれが現実なんだと割り切ってるつもりだ。

 「俺のようなこういう界隈のことはあまり詳しくない素人からでも、アイドル配信探索者の現役女子高生として大人気を博していた詩葉ちゃん、最近は他のアイドル配信者に並ばれちゃってるよね?何て名前の子だったかな?彼女も俺たちとは違う支部のギルド所属の探索者で……」

 恐らく、小恋乃《ここの》さんのことを言ってるのだろう。最近国内ランキング100位に入った、凄腕の探索者だ。彼女の配信も見るけど、確かに私にはない何か素晴らしいものを感じられた。もうとっくに私よりも人気の配信者だと思う。

 「探索者としての腕前はもちろん君が圧倒的一番なんだろうけど。エンタメ性?アイドルとしてのサービス精神?が足りてないから、マンネリ化とかが出来ちゃうんじゃないかな?素人の俺でも、このままいくと詩葉ちゃんの人気が今いる他のアイドルや新しい子たちに追い抜かれてしまうって予想出来ちゃうんだけどなぁ」
 「………」
 「だけど俺が詩葉ちゃんとパーティを組んで、Aランクダンジョン攻略という成果を出して、俺たちのことを知らしめてやれば、世間はまた詩葉ちゃんに夢中になると思うんだよね!
 そして俺も、世界ランキング2桁位の超人探索者の弟として名を売って、上へ行く架け橋を築いてやるのさ!
 どうだい、お互いにメリットしかない案件だと思うのだが!」
 
 私にパーティを組んでもらおうと、口八丁手八丁で私の心を揺さぶり、上手く丸め込もうとしているのがバレバレだ。
 要は私を利用して、自分が有名になりたいだけの話だ。お互いにメリットがあると言ったけど、私は別にそうは思ってない。

 「私はもともと誰かと比較してアイドル配信をしているわけではないですので。もっと有名になりたいが理由に、危険なランクに挑むつもりもありません。確かに長下部さんと組めばAランクも可能でしょうけど、私は基本ソロで動くのが好きなので」
 「な……!?今のまま活動を続けても、探索者もアイドルも廃れていく一方になると思うよ?」
 「ファンが減るのは寂しいことだと思います。でも私は誰よりも多くの人気を集めるのではなく、一人でも多く誰かに私の動画配信を楽しんでくれればな…と思ってるだけですので。
 それに探索者に関しては、時間をかけてでもいつかはソロでAランクに挑んでみます。そこで無事攻略出来た時こそ、今よりもっと人気アイドル配信者になれると思うんですよね」

 話しているうちに、あまり得意ではない男の前で本心をつい話してしまった。顔が少し赤くなるのを感じた。

 「そ、そうか……思ってる以上に色んなことを考えていたんだね。さすがは国内トップクラスのアイドル配信探索者だ」
 「いえ、そんな。あの、そういうわけなので、せっかくの案件ですけど、申し訳ございませんが辞退させていただきます」

 断ることは元々決まっていたことだ。想定よりも時間をかけてしまい、疲れがきてしまった。長下部さんはというと、眉間に皺を寄せて俯いて、肩を震わせてもいる。ここで駄々をこねて、力ずく…なんて短絡的行動に移らきゃいいのだけど……

 「………分かったよ。非情に残念だが、今回は諦めることにするよ。だけど詩葉ちゃん、君に俺のような野心が芽生えたのなら、いつでも俺を訪ねてきてくれ!」
 
 そんな機会、一生訪れるとは思えませんが。

 「はあ……。仕事は断られたけど、心は満足してるんだ。詩葉ちゃんにはいつもこういう付き合いのお誘いを断られてばかりだったから。楽しかったよ」
 「それは……すみません。私も悪くない時間だったので、縁があればまた、よろしくお願いします。では、ごちそうさまでした」

 そう言って私はそそくさとお店から出て、自分の家までまっすぐ帰ったのだった。
 霧雨さんが探索者を辞めたのなら、私は何を目標に、探索者とアイドル配信者を続けるべきなのだろうか――



――長下部視点――

 ――クソっ!詩葉のやつ…!頭の中おめでた過ぎんだろ!彼女には他のアイドルみたいなライバルを蹴落とそうとか凄い奴とのコネをつくって知名度上げようとかって考えはないのかよ。
 ちっ、今回もダメだったが、いずれは詩葉もこっちに抱き込んで、ランキングも俺が上に立って有名になって、俺の女にしてやるぜ…!
 そしてそう遠くない未来…兄さんのコネで、俺も詩葉を連れてアメリカに飛んで、兄さんに付いて最強ランクのダンジョンの攻略に立ち会い、俺も世界ランカーにのし上がってやるのさ!
 俺にとってこんな世の中、ちょろいもんさ。努力なんざほんのちょっとするだけで良い。後は地位やコネでどうにでもなれる!

 「さてぇ、次はどういう手を使って、詩葉を抱き込んでやろうか――」



 ――しかし、長下部左仁が詩葉にアプローチをかける機会は、今後未来永劫、無くなるのだが、それを本人が知る術は、ありもない。
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