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29「浦辺に復讐する」2
しおりを挟む「~~~っがはっ、げほ…っど、どうなってやがる…!?」
テーブルに強く叩きつけられた程度ではくたばらない浦辺。その顔は壊れたテーブルの木っ端であちこち切れて、血が出ていた。
「きっ、霧雨ぇぇぇ!てめぇ、誰に手を上げたか分かってんだろぉな!?」
「当たり前だろ。お前がどんな奴かくらい、簡単に答えられるぜ。
ここの所長という肩書きを笠に、いつも偉そうに威張り散らしてるヤニ臭いデブのおっさん。若い頃はAランクのダンジョンを制覇してみせたとか、事あるごとに過去の武勇伝をうるさく語ってくるクソウザい老害」
離れた席から誰かの笑いが漏れる。浦辺の額に筋がびきびきと浮かんでくる。
「何より、弱い奴に対してとことん傲慢で、罵声と暴力を振りかざす典型的なパワハラ野郎のド屑で、僕が今この瞬間すぐに死んで欲しいと思ってる人間。
それがお前だよ、浦辺洋平」
「この、、、クソガキがぁぁぁぁぁ!!」
顔を盛大に引きつらせた浦辺が鞭で今度こそ僕をぶっ叩きにかかる。僕は身を引く…のではなく、あえて距離を詰めて、鞭のボディを手づかみにしてみせた。鞭の先端《テール》部は空を切って、へなっと下を向いた。
「ば、馬鹿な!?霧島ごときが何故そんな動き――をごおあ゛っ」
浦辺が狼狽えてる隙に、鞭を掴んだままの手をぐいと手前に引き寄せる。狙い通り全身こちらに引き寄せられてきた浦辺《マヌケ》に、鋭い膝蹴りをくらわせてやった。
胸をおさえてその場でうずくまる浦辺を、僕はゴミを見る目で見下ろしてやる。
「あのよォ、さっきから僕の態度や口の利き方にブチ切れてるようだが、それ以上に僕の方がお前にブチ切れてんの、分かんねーかな?
今までお前が僕にどれだけの仕打ちをしてきたか、分かってねーとは言わせねぇぞ!?」
ゴン! がら空きの肩甲骨あたりに肘を打ち下ろしてやった。激痛にのたうち回ってるところ、泣き面に蜂と言わんばかりのつま先蹴りもくらわす。
「最弱で貧弱だった頃の僕を、いつもゴミムシみたいに扱ってたよな?罵声と暴力を浴びせるは当たり前」
ドガッ 「ぐあ…っ」
「職員がやる仕事を押し付けてきて、その労働対価も支払わず。
さらには理不尽な理由をつけて、適正額を下回る報酬金しか支払わない!それを指摘したら逆上して、暴力を振るった!労働基準法をぶっちぎりに違反しまくってる!
最低最悪のクソ野郎がっ!!」
ゴスッ 「がぁあ…!」
「パワハラを受けていた時、てめぇには散々僕を貶し、侮辱と否定の言葉をかけられてたっけな!万年底辺のドベとか、無能で最低級のドブガキとか。あと、弱くて無能でいなくてもいいゴミだったか?ええ!?いつも耳元でそう罵倒してくれてたよな!?」
ガスッ 「ぐぉぐ…!な、何のこと、だか………」
「テメェが覚えてる覚えてないはこの際どうでもいいんだよ!言った方は忘れてもなぁ、言われた方はその言葉全部、ヘドロのように脳裏にこびりついてんだよ!テメェが俺を侮辱して否定した事は、この俺の記憶が語ってんだよ!」
床に転がしてからも、頭や背中を執拗に蹴りつける。当然それくらいでは溜飲が下がらないので、今度は浦辺の鞭を奪い取って、それでこいつの背中をベチィンとぶっ叩いてやった!
「ぎゃああああああああああっ」
鞭を振るう度に浦辺は激痛に悶え、汚い絶叫を上げる。痛みに歪んだマヌケ面が最高に面白くて、もっと甚振ってやろうとさらに鞭を振るう!
ビチ!ベチ!バチィン! 「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
何回目かの鞭打を振るったところで、浦辺は白目を剥いて失神した。
「おいおい、これくらいで失神するのかよ!元とは言え国内ランキング300位だった奴が、この程度で気ぃ失ってんじゃねーよ!」
浦辺の背中を踏みつけながらゲラゲラ嘲笑ってやる。今のやり取りを終始見ていた探索者どもは皆困惑している様子だ。受付の女は顔を真っ青にして、探索者たちの陰に隠れ、僕から避難している。
「お、おい……あいつ本当に霧雨なのか?」
「引退した身とはいえ、浦辺所長が手も足も出ず、一方的に…っ」
「あいつにあんな力なかったはずだろ。どうなってんだよ…」
「つうかこれ、完全に流血沙汰の暴力事件だよな。先に手を出したのって………」
「霧雨の方だろ。所長も鞭で叩こうとしてたけど、それよりも早く霧雨の奴が暴力振るってたぜ」
「と、とりあえず、事件ってことで通報しとくか?探索者がギルドの職員に暴行と傷害をって」
僕の力に困惑しつつも、連中はこの件で外部に通報しようとしてやがる。ったく公安に今嗅ぎつけられんのは面倒だっつの。
つーわけで―――
「眷属獣スノウを、主人たる僕のもとに呼び出す!」
スキル「召喚」でスノウをギルド館内に召喚した。
「――咲哉様、如何様に?」
「昨日の学校でやってくれたように、この建物内の完全封鎖と情報の完全遮断を頼むわ」
「ご命令のままに――」
一言返事してすぐにスノウは超能力を展開する―――が、その時、扉がバンと開け放たれてしまった。
「何やら騒がしいな。何かトラブルでも?」
女の探索者をぞろぞろ連れた、センター分けセットの金髪眼鏡の男。その憎々しい面と声、間違えるはずがない。
「ここで来やがったか、長下部左仁…っ」
「………あれ?お前霧雨か?何、生きてたんだ?浦辺所長からはお前がとうとう初心者向けのエリアで死んじまったって聞いてたんだけど」
相変わらず僕を蔑み見下した顔を向けてくる長下部に、腸が煮えくり返りそうな気持ちが再燃してくる。
「――って、え?その浦辺所長がどうしてこんな所で倒れてんの?何だ、何があったんだ?」
失神している浦辺に困惑する長下部たちに周りの探索者が事情を説明した。
「――マジ?これを霧雨の奴がやったのか?とっくの昔に引退したと言っても、元国内ランキング300位内の探索者だったはずだろ?何がどうなったら、こんな万年最低級のドブ臭い霧雨なんかに不覚をとられるってんだよ!」
――ピキッ
「お前らも知ってんだろ、こいつがどれだけ貧弱で情けないゴミムシなのかを!おまけに回復ポーションが買えず、エリアの薬草を一日かけて採取してるような超貧乏人だってことも!」
――ピキビキ…ッ
「探索者よりも街のドブさらいをやってる方がお似合いな、こんなド底辺のカス探索者に何のされちまってんだよ浦辺所長ー!?こんな時間から酒に溺れてたのか!それはそれで問題なんですけど!職務怠慢だぁ、あはははは!」
僕を指差して馬鹿にし続ける長下部。こいつらパーティ揃って、僕を嗤って馬鹿にしてやがる。
ここに来る前から、こうなることは予想してたけど、ムカつくくらいその通りになりやがったな……。
それより、いい加減もう我慢の限界だ…っ
「つうか、霧雨お前ちょっとデカくなってね?ここ一週間以上ギルドに顔見せてなかったらしいが、どこかで筋トレでもしてたのか?
馬鹿が、お前如き最低級の雑魚がそんなことしたって――「黙れゴミムシが」――あ?」
それまでご機嫌だった長下部の顔が、一気に機嫌を損ねたものとなる。
「お前、誰に向かって黙れつった?誰に向かってゴミムシつったよ?え?」
「テメェに言ってんだよ、女侍らして百獣の王気取りの痛い奴が、いつまでこの僕を馬鹿にすりゃ気が済むんだ?」
今度は長下部の顔がピキピキと引きつり、剣呑な空気を醸し出す。探索者たちが「あいつ終わったな……」と囁いていた。
「え?霧雨くーん、何、どうしちゃったのかな?まず俺、お前の先輩で、年も三つくらい上なわけ。なのに何さっきからタメ口で喋ってんだよ」
「知るか。お前みたいな欠片も尊敬出来ないクズ野郎に、敬語なんか使うかよ」
「は………お前マジでいい加減にしろよ?最低級の底辺弱者のお前が、国内上位ランカーの俺に喧嘩売るとか、頭沸いてんじゃねーの?一週間程度体を鍛えたくらいで、自分が強くなったと錯覚してんのか?」
「さっきから口だけだな?いつもならすぐに暴力振るってくるくせに。何だよ、ビビッてんのか?上位ランカーのくせに」
その時、僕目がけて何かがビュンととんできた。体を傾けて咄嗟に躱した。長下部が怒りに任せて、壊れたテーブルの残骸を投げたのだ。
「……いいぜ。そんなに甚振られるのがご所望なら、その通りにしてやるよ!
ただし、“決闘”の中でだ!」
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