最低級の探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵の人と化す

カイガ

文字の大きさ
42 / 60

42「牧瀬詩葉に教えてやる」

しおりを挟む

――咲哉視点――

 「ば~~~~~っか!そんな都合良く、誰かが助けに駆けつけてくるなんて展開になるわけが―――」

 宮木小恋乃を絶望に叩き落とそうと言葉でさらに追い込んでやろうとしたその時、

 「そうでもないですよ。霧雨、先輩…………」

 後ろから上がってきた少女の声に、僕の声が遮られてしまった。

 ……僕のことを「霧雨先輩」って呼ぶ奴なんざ、一人しか心当たりがいねェよな。

 「こんな人気の無いところで女の子に詰め寄って、怒鳴り声や罵声を浴びせるなんて、いったい何をやってらっしゃるんですか?」

 宮木から視線を外し、後ろを振り返る。予想通り、僕の背後をとってやがったのは、同じ北関に所属する国内二桁位の上位ランカー、牧瀬詩葉《まきせうたは》だった。既に魔術杖を抜いて、先端を僕の方に向けてやがる。

 「牧瀬詩葉……。テメェこそ僕に杖を向けるたァ、どういうつもりだ?」
 「ついさっきここに着いたばかりなので、小恋乃さんに詰め寄ってるのが大きな魔物かと思ったんです。ですが杖を向けながらここまで近づいてみれば、霧雨先輩だったのでびっくりしました。
 先輩、その姿はいったい………」
 「色々あって馬鹿強くなった結果だ。そんなことより、テメェはここからどうする気だ?」
 
 僕の質問に対し牧瀬は無言のまま魔術杖を振るった。すると、バラバラに倒れていた宮木のパーティメンバーが彼女のもとに集まった。死んでいる鳥野を除いて。

 「これは……詩葉さんの“念動力《テレキネシス》” 人を動かすこと自体かなりのレベルになりますのに、それも三人同時も……」

 感嘆を漏らす宮木に、牧瀬は眉を八の字にさせた悲痛な面で問いかける。

 「小恋乃さん、鳥野さんはその………やっぱり」
 「……ええ。お察しの通りですわ。彼はもう死んでしまいましたの。そこの男に殺されましたわ………」

 すると牧瀬が何とも言えない表情で僕を見てきた。

 「あ?何だよ?何その目、顔は?何が言いてェわけ―――」
 「霧雨先輩。話をしませんか?」

 また僕のセリフを遮ったうえ、話をしようとか言ってきやがった。

 「そして小恋乃さん、私が霧雨先輩を足止めしておきますので、その間に皆さんを連れて逃げて下さい。小恋乃さんの固有スキルなら、みんなを連れてここから離脱することも出来ますよね?」
 「それは、そうですけど……詩葉さんはどうするつもりですの!?あの男はあまりにも危険過ぎますわ!あなたが以前から知ってらっしゃる“最低級”なんかじゃなく、むしろ国内のトップ……いえ世界上位ランカー相当の怪物と思った方が………」

 その時僕が立っているところにだけ、大きな火の包囲網が出てきやがった。体に火は当たってない、あくまで僕を火で囲い込むのが目的の魔術のようだ。

 「霧雨先輩、高位パーティ『ミヤマキ』を壊滅させるくらい強くなられたそうですが、私の魔術で出来た火に触れれば、ただではすみませんよ?
 小恋乃さん!今のうちにスキルで離脱してください!まずは皆さんの無事を確保することが先です!」

 牧瀬は僕を火の包囲網で牽制しつつ、宮木にここからの離脱を強く促す。その宮木はというと、体中からさっきと同じ光を放ち、まだ息がある三人の体を抱え込んでいた。

 「詩葉さん!わたくし達が離脱したらあなたもすぐさまその男から逃げて下さいまし!!もし逃走に失敗したとしても、わたくしが必ず助けを連れてきますわ!!
 だから、絶対に死なないで下さいまし……!!」
 「……分かりました!もしもの時は、どうかお願いしますね」

 宮木の切実な呼びかけに、牧瀬はにっこり笑顔でそう応えた。そして宮木は固有と思われる何かのスキルで、仲間の三人と一緒にここからいなくなった。同時に僕を囲ってやがった火も消えて無くなった。

 「ちっ、せっかくもっと追い詰めて屈辱と絶望を味わわせてから、無惨に殺してやろうと思ってたのに。何邪魔してくれてやがんだよテメェ、あァ?」

 宮木を逃したことを悔しがりつつも、ぶっちゃけた話、やろうと思えばあんな火の包囲網ぶち破ることは出来た。あえて大人しくしていたのは、宮木を追うよりもたった今駆けつけてきたこの女の相手をする方が面白そうだと思ったからだ。

 「ま、いいか。テメェとの件を片付けた後で、あの女を追っかけてぶち殺しゃあいーんだからなァ」
 「さっきから殺す殺すって………。その姿や喋り方も、以前とは全くの別人じゃないですか!霧雨先輩……いったいどうしてしまったんですか?」
 「は……?どうしてしまったのか、だと?」

 さっきまで宮木たちに対する怒りや殺意でいっぱいだった僕の頭の中は、今度は目の前のクソアイドル配信探索者に対する怒りに侵食された。

 「見ての通りだが!?テメェら僕を散々馬鹿にしやがった人間に対する怒りと憎しみと嫉妬で、こぉぉぉんな姿になって、めっちゃくちゃ強くもなりましたがァ!?
 なんなら今からサシでやり合ってみるか?ランキング二桁位が相手だろうが、負ける気が全然しねーんだわ!」
 「霧雨先輩、まずは話をしませんか?まず、先輩がやったのですか?小恋乃さんのお仲間の、鳥野さんを……あんなのにしたのは」

 牧瀬はまた悲痛な顔で、鳥野とかいう宮木の腰巾着ゴミカス野郎を指して尋ねてくる。

 「何べん同じことを尋ねてやがんだ!宮木が言ってたろ!僕がそいつの頭を銃でふっ飛ばしてやったんだよ!!」
 「……っ どうして………そんな、ことを?」
 「決まってんだろ!僕を見下しながら聞くに堪えない侮辱の言葉を浴びせて、馬鹿にしやがったからだ!幻のダンジョンを制覇してバケモンみたいに強くなったのに、あいつらは以前と同じように僕の尊厳を踏みにじってきやがったんだ!!だから、ぐっちゃぐちゃにして分からせてからぶっ殺してやったのさ」
 「幻のダンジョン?馬鹿にされたから……?何を………言ってらっしゃるんですか…!?」
 「このエリアのどこかにあったUnknownランクのダンジョンから生還した時から、
僕には決めてることがあるんだよ。
 今まで僕を見下して馬鹿にして、理不尽な虐めと仕打ちをしやがった奴らへの復讐。それとこれから僕をまだ底辺弱者と見くびって馬鹿にしてくる奴らにも屈辱と恐怖と絶望の淵に叩き落として惨い目に遭わせてやるってな!」

 牧瀬は理解不能といった感じの顔をしてやがる。そんなこいつはまだ自覚してねェようだな……なら言ってやるかァ!

 「テメェも復讐の対象になってっからな?牧瀬詩葉!」
 「え………?」
 「テメェも僕が探索者であることを否定したよな?リスナーと一緒に探索者を引退しろと指図して生配信で僕を底辺弱者扱いしやがった。その次の日なんかは、才能無しの底辺だ惨めだ醜態晒してるだ、散々ボロクソ言ってくれたよなァ!」
 「それ、は―――」
 「そういうわけで、テメェにも僕が今まで受けてきた屈辱、怒り、痛み、絶望を存分に味わってもらうぜえ!?
 そして教えてやる……思い知らせてやるよ!僕が世界最強と名乗るに値する存在であることをなあ!!」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...