最低級の探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵の人と化す

カイガ

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45「視聴者どもを分からせる」

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 :詩葉様、こんにちはー!
 :いやちょっと待て、今謝罪配信って言った??
 :言った。え、詩葉様なんかやらかしたん?
 :霧雨咲哉に対してって、何で??
 :は?何で詩葉様があんな底辺探索者なんかに謝罪することになってんの?

 牧瀬の発表に、牧瀬の支持者《ファン》を含んだリスナーはチャット欄に困惑のコメントを流し込む。さらっと僕のことを底辺だの弱者だのと書いたコメントに、怒りの沸点が達しそうになるが、今は抑えて牧瀬の発表をカメラの死角で黙って聞き続ける。

 「困惑している人がほとんどかと思います。でも皆さんちゃんと聴いて下さい!私は……霧雨先輩に対し、今まで酷い言葉をかけ続けていたんです…!
 先輩がどうして探索者業を引退せず諦めずにいるかの理由も知りもしないで、私は……っ」

 それから牧瀬は僕に対しどんな言葉を投げかけていたのかを、一言一句正確に発表した。セリフ一つごとにあの発現が愚かであったことを悔いて見せた。

 :確かにあの生配信では、きりさめに辛いこと言いまくったよなぁ
 :それな。だいぶ辛辣だった
 :でも別に間違ったこと言ったわけでもなかったわけだしなぁ
 :あの生配信の後も、カメラ回ってないところでかなりキツいこと言ってたんだな
 :やっぱりカメラ回ってないところでの方が、キツい言葉投げかけてんのな。いつもの詩葉ちゃんからは想像つかねーな

 牧瀬の懺悔が終えたところで、彼女が僕に言ったことに対するコメントがドバドバ流れてくる。ほとんどが「詩葉様は悪くないよ!」「別に間違ったこと言ってないですよ」などと信者らしき奴らのフォローで埋め尽くされてたが、牧瀬がそんな辛辣発言をしていたことに幻滅した感じのコメントもちらほら見られた。

 :別に言い過ぎなことないでしょ。全部事実なわけだし。霧雨咲哉が日本の探索者の平均レベルを下げてて、足引っ張ってんだし。詩葉様がそんな謝る必要無いって

 たくさんのコメントが欄に流れ続ける中、僕の目には先ほどからあるリスナー名のコメントが留まりまくっていた。
 虎狼丸ってUNユーザーネームのコイツがさっきから詩葉を全面的にフォローして、逆に僕のことを貶してやがる。どれも鼻につくコメントで、僕の怒りを掻き立てるクソコメントだ、殺したくなってきた…!

 :そうそう。そいつがどう頑張ったってどうにもならない底辺の負け組君ってことを、詩葉ちゃんが言葉をオブラートに包んで、懇切丁寧に説いてやったわけじゃん!弱くて進歩の目途も皆無なくせに、未練たらしく探索者にしがみついてるそいつが悪い

 他にもいるな……キムしゃぶってUNの奴。僕が悪いだ……?諦めずに頑張り続けてきただけの僕が、悪者?何をどうなったらそうなんだよ、このクソは…!

 「違うんです!霧雨先輩には探索者を辞められない事情があったんです!」

 それから牧瀬は僕が話した探索者を続けていた理由を、かいつまんで話した。

 「――先輩は頼れる家族がおらず、何でも全部一人で背負い込まなければならない生活を、何年も続けられてたんです。生活費も学費も自分で全部払わないといかず、アルバイトだけでは苦しいから探索者業も……。
 先輩は今を生きる為だけでも精一杯な暮らしをされていたんです!そんな先輩の苦労も知らず、私はたくさん酷いことを言ってしまったんです。今は凄く、後悔しています!
 だから、これを視聴して下さっている皆さんも、事情も知らず憶測だけで霧雨先輩を悪く言うのは止めて下さい…!」

 そう言って牧瀬はスマホの前で頭を下げて、画面の向こう側にいる連中に「お願い」した。チャット欄を見ると僕の事情を知って半信半疑の反応がほとんどだった。そりゃいきなりこんなことを聞かされて、そうだったんですねとはいかねェだろうな。

 だが、さっきから僕のことを貶してやがる一部のクソリスナーの「これ」は、さすがに見過ごせなかった。

 虎狼丸:知るかよそんなの。そんなに生活苦しいなら学校中退して、就職でもしてろよ
 キムしゃぶ:つうか家が貧乏で親もいなくて探索者の才能も無い奴が、ちゃんとした就職どころか、良い大学への進学すらも無理っしょ。人生とっくに詰んでて草
 DQヌ:つかさっきから霧雨のやつ何で詩葉ちゃんにこんな謝られてんの?ムカつくんだが?最低級の雑魚のくせに、国内二桁位のアイドル探索者様に庇ってもらってんじゃねーよ。腹立つわー、あいつボコボコにしてーわー
 理系DC:霧雨くんさぁ、同情の気を引こうとしてるだけじゃないですか?生活に困窮してるからとか、ベタな事情を出されてもねぇ?

 ドゴッ 怒りに任せて洞窟の壁を殴りつけてしまった。牧瀬がビクっとし、チャット欄も何ごと!?って騒ぎ始めた。

 DQヌ:おい霧雨!どうせ嘘ついて詩葉ちゃんのこと騙して、無理やり謝らせてんだろ!?ゆるせねぇ、この俺が直接ボコりに行ってやるよ!面出しに来いや!

 ………言われなくても。ちょうど今、出てこようとしてたところだっての!このクソガキが……!!

 「お望み通り、面出してやがったぞ!このクソリスナーどもが…!」
 「き、霧雨先輩……!」

 僕の登場に、チャット欄がまたも騒然とした。

 :え……誰?
 :まって、え……これきりさめ??
 :は?違うでしょ?誰このオークみたいなブサイクマッチョ

 今のコメントで分かったのが、画面越しからでも他人からは僕のことがブサイクに見えてるってこと。

 「僕が誰かだと?馬鹿が、さっきからずっと話題になってやがる霧雨咲哉、本人だろがよ!なあ?」
 「は、はい。皆さん、この方は正真正銘、霧雨咲哉さんです」

 :マ!?
 :いやいや、別人過ぎるwww
 :さすがに信じられんわ。声も別人っぽいし

 どいつもこいつも僕が霧雨咲哉と信じようとしてねーな。どうでもいいがな……!

 「僕が本物かそうでないか、好きにほざいてろ。ンなことよりさっきから横で黙ってテメェらのクソコメントを見てりゃあよォ、好き勝手書き込みやがって、クズどもが……!」

 虎狼丸:なんかキレてて草
 DQヌ:は?誰がクズだと?

 「せ、先輩!今はまだ全員が先輩のことを―――」

 慌てた様子で僕のところに駆け寄ってきた牧瀬を、

 ドスッ 「ぁ……ぐ」

 腹パンで黙らせた。またまたチャット欄が騒然とする。

 :ああ!!?詩葉様を殴りやがった!!!
 :は?何やってんのこの男
 :通報!通報!!

 暴力行為に対する非難コメントを一瞥して、腹をおさえてうずくまる牧瀬をぎろりと睨みつける。

 「テメェも、テメェなんかを応援する支持者《ファン》どももたかが知れてやがるぜ。特にこのリスナーなんかは、民度が底辺のカスの集まりじゃねーかよ!」
 「はあ……はあ………」

 詩葉はうずくまったまま何も言わない。代わりにこいつの支持者らしきリスナーどもが突っかかってきた。

 :今、なんつった?
 :詩葉様のファンである僕たちを、馬鹿にしたな!?

 「あ?それがどうした?何度でも言ってやるよ!テメェのリスナーも、このチャットにいないファンもみんな、ゴミみたいな奴だってよォ!!」

 牧瀬に近寄ると彼女の耳元で、張り上げた声でそう言ってやった!すると牧瀬の顔がみるみる悔しそうに歪んだ。サイコーに笑えるぜ!


 :うーわ、結局そういう人間なんじゃん
 :同情しなくてよかったー。やっぱりロクでもない奴だな
 :あの、不愉快なコメントだけを拾って、私たちファンのみんなまでカスとかゴミとか言うの、やめてもらえます?

 「黙れカスども!!僕に不愉快なコメントしてやがんのは、今に始まったことじゃねーだろが!!以前のこいつの生配信でも、それ以前の他の配信者のライブでも、テメェらは僕に散々クソっタレなコメント書いてただろうがよ!?」
 
 理系DC:別にクソっタレなコメントでは無いと思いますが?僕やリスナーの人はみんな、ただ正しいことを言ったつもりで、間違ったこと言ってませんが?霧雨くんが探索者として弱くて無能で、日本中の探索者の面汚しをしてるのは、事実だったでしょうに

 「……何さっきから、高みの見物を決め込んでやがんだ?他人事みてーによォ。
 じゃあ何か?テメェらはこれまで悪意はなく、悪いことを言ったとも思っていないと?今までずっと、自覚無しにディすってたってのか?
 笑えねェ真実だな―――ァ」

 八つ当たり気味に、牧瀬の髪を掴むと、壁に向かって無造作に投げつけた。
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