罪状は【零】

毒の徒華

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第3章 渇き

第31話 憤怒の狂気

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 僕は魔術式を解き、翼を広げた。

 ――やっぱり魔女なんて……

 激しい後悔の念に弾かれるように、僕は怒りを爆発させる。

 ――全員死ねばいいんだ……!

「ガーネット……下がっていて」
「おい……この人数を相手にするのか?」

 関係ない。
 許さない。
 もう魔女だってばれても何でもいい。

 ――全員殺してやる!!

 ご主人様の顔が記憶の中でちらついた。
 一緒に歩いた町並み、一緒に帰った思い出。

 もう終わりだ。

 その諦めが僕に迷いを捨てさせる。

「やる気じゃないの!? ノエルゥウウウウウウウウ!!!!」

 魔術が次々と飛んでくる。水、炎、雷、植物、風や、そのほかのものも全部。
 でも僕には関係ない。
 僕が構築した魔術式は重力の魔術式。
 僕の前に全てがひれ伏した。僕に届かずに何もかもが地面に押さえつけられる。

「あはははははは!! いつまで耐えられるかしら!?」

 ロゼッタは水の魔術を何度も何度も僕に間髪入れずに打ち込んできた。
 狙いはでたらめだった。
 しかし一発一発確実に威力が高く町の建物は軒並み壊れていく。
 後ろにいるガーネットとレインを庇いながら、僕は魔術を行使し続けた。

「レイン……ガーネット、ご主人様を探してきて。お願い」
「こんなときに何を言っている!?」
「こんなときだからこそだよ。あの町の人たちの中にはいないみたいだから。でないと気が散って戦えない……それに2人を守ってあげられる保証がない。ここから離れてご主人様を探してきて。お願い」

 僕は魔女の猛攻を防ぎながら、2人の方を向いてお願いした。

「……お前は本当にあの男のことばかりだな」

 レインとガーネットはそう言って僕の背面に向かって走り出した。

「ロゼッタ……許さない。2回も僕の目の前で殺した……! 僕を怒らせたらどうなるのか、また身体に教えてやる……簡単には殺さないからな……!」

 僕は一度に複数の魔術式を構築した。氷と風の魔術式。

「まずいっ……」

 ロゼッタがそう言ったのが見えた。

 でももう遅い。

「えっ……」

 その中心にいた魔女たちはロゼッタを残してほぼ全員首が飛んだ。
 ロゼッタの隣にいた魔女はそれを植物で防いだ。
 首が撥ね飛ばされた魔女たちの身体から血しぶきが上がる。それと同時に町の人たちの悲鳴が聞こえた。

「きゃぁああああああああっ!!」

 僕はゆっくりとロゼッタの方に近づく。

「ロゼッタ……ノエルを挑発しないで」
「エマは黙っていてよ。やっぱりバケモノね。あんた……あたしの目を奪って顔に醜い呪印を残したのを覚えているかしら?」

 ロゼッタは自分の顔の左側にかかっている髪の毛を手でどかして僕にその目を見せた。
 眼は義眼と思しきものが入っており、そして顔に醜い爛れが残っている。

「……これをされたときからずっとあんたを殺したかった……あんたのせいであたしの人生滅茶苦茶なのよ!!!」

 ロゼッタが僕に向かって水の魔術式を構築して何発も水砲を撃ってくる。
 僕がそれを弾くたびに周りの建物に反射して崩れた。ものすごい魔力と憎しみだった。さすがに罪名を与えられている魔女は格が違う。
 僕は地味な魔女……――――エマの腕を吹き飛ばしたときと同じように雷の魔術式でロゼッタの腕を吹き飛ばした。

 バチッ!!

 という爆音が響き、ロゼッタの腕は黒く焼けた。

「あぁああああああぁぁああああああぁっ!!」
「ロゼッタ!」

 エマがロゼッタに駆け寄ろうとするが、それを僕は大気を操りエマを吹き飛ばして阻止する。30メートルほど飛ばされ、壁に強く背中を打ち付け、そのまま動かなくなった。
 そして僕はロゼッタのところまで行って尋問した。

「上位魔女はお前とそこでのびているのだけ? 他には誰が来ているの?」

 その声は自分でも驚くほど冷たい声をしていた。
 ロゼッタは返事をしなかった。もう虫の息といわんばかりだったが僕は水の魔術式を構築し、ロゼッタに向けて水を強く叩きつけた。

「起きろ!」
「がはぁ……はぁっ……あんたなんかに…………教えるわけないでしょ?」

 ロゼッタは息も絶え絶えなのに、嫌味な笑顔で僕を嘲った。
 彼女の法衣には罪名が刺繍ししゅうされている。

「罪名は……憤怒? ……怒ってるのはこっちだよ」

 何度も僕はロゼッタの顔や体に何度も水の弾を打ち込んだ。
 その度に彼女の身体の骨はミシミシときしんで、折れる寸前まで水の圧力で叩き伏した。
 もう周りの状況なんて解らない。
 町の人が恐れおののいていようが、悲鳴が聞こえようが、何も僕は解らなかった。
 ただ目の前にいるロゼッタに魔術を打ち込むことしか考えられなかった。
 ひとしきり水を打ち付け終わってぐったりしているロゼッタにもう一度質問する。

「答えなよ」
「……嫌よ……」

 僕は自分の感情を抑えられなかった。

「じゃあ死んでいいよ」

 魔術式を構築した。
 その魔術式は今まで構築したもののどれよりもまがまがしく、狂気に満ちていた。

 ――楽には死なせない……苦しみながら死ねばいい――――――

「お前……?」

 僕がロゼッタを殺そうとしたとき、後ろから声が聞こえてきた。
 聞き覚えのある、なつかしさすら感じる声。

 僕は振り返りたくなかった。
 それがご主人様の声だって解っていたから。

 こんな風に魔女を無残に殺せる僕を……――――

 見ないで。


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