罪状は【零】

毒の徒華

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第4章 奈落の果て

第86話 渇望

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【魔女の城 ノエルが去った直後】

 城というのは、崩れている状態が正しい状態なのではないかとすらと考察するほど、城というものは襲撃などで壊れ果てる。
 王族というものは必ず妬むものや忌避するものがいる。大きすぎる権力はそれに対なる反乱分子が潜んでいるものだ。
 ある意味では、ゲルダという城がノエルという反乱分子にただの肉片にまで切り刻まれたのは、そういう因果があるのかもしれない。

「はぁ……はぁ……」

 辺りは滅茶苦茶に壊れていたが、城自体に大規模な修復魔術がかけられていることもあり、徐々に城は戻って行った。
 しかし、分子レベルまで分解されてしまった部分は直らずにそのままになってしまっている。
 ゲルダは、まるで削岩機にでもかけられたのかというほどバラバラになった肉片が、ノエルが去った後にすぐに再生した。
 翼の部分が真っ先に集合し、それから心臓を中心に身体の再生が進んだ。
 肉体の再生が終わると、当然神経系統が構築されてゲルダはそれまで以上の痛みに襲われた。
 心臓に深く翼が侵食してくる例えがたい痛みの感覚、もう片方を得られなかった憤りや苛立ちが正気を蝕む。
 考えることすらできない程、ゲルダは翼に侵されていた。

「あ゛ぁあ゛あぁぁあ゛あ゛ぁあ゛あッ!!!」

 魔術は暴走して高エネルギーのレーザー光線が暴発し、方向も定まらないままゲルダは撃った。

 ――翼がほしい……

 高エネルギーのレーザー光線が撃たれるたびに城は当然大きく崩れた。
 中にいた魔女もその高エネルギーに晒されると、一瞬で蒸発する。

 ――翼がほしい!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」

 ――翼がほしい!!!

 その後、どのくらいそうしていたのかは解らないが、ゲルダは痛みと疲労感と絶望感と孤独感で正気など保っていられなかった。
 わけが解らない状態になっていたが、ふとある感覚だけがゲルダの正気を繋いだ。
 リサだったものはゲルダと同じく物凄い回復力で回復している。その方角から物凄く甘い匂いがゲルダを虜にさせる。

「はぁ……はぁ……ッ……」

 ゲルダはよろよろと立ち上がり、不安定な足取りでリサの方へ近づく。甘い匂いがより一層強くなる。
 それはリサの腹部のあたりから香ってくるような気がした。
 空気の刃を成形し、リサの腹部を切り裂いてその部分を針で広げ止める。
 中からなにかの頭部がゴロリと出てきた。何の頭部か解らないが、ゲルダは他のものに目を奪われた。
 見た目は同じな上、混じってしまっているが、そこにノエルの血液や肉片があるとゲルダは解った。これもノエルの一部が自分についているからだろうか。
 その自分を苛み、侵すものと最後の抵抗をしている中、微かな理性がゲルダ本人に問いかける。

 ――なんで私……こんなことになってしまったのかしら……

 走馬灯のように、ゲルダは昔のことが脳裏を駆け巡る。



 ◆◆◆



【ゲルダ 100年前】

 最高位魔女会サバトは、人間に秘密で何度も開かれていた。
 人間に見つからないように人払いの魔術式を使い、数十人の魔女たちがあつまっている。そのどれもがみすぼらしい恰好をしていたが、一部には人間の上流階級の人間と暮らしている者もいる。
 子供がいる魔女は人間との子供ではない。今の魔女の社会では、男の魔女の子供を身ごもらせ、人間に育てさせる。
 その習性の鳥がいる。
 カッコーという鳥は違う種の鳥の巣にある卵を巣の外へ落とし、自分の卵を産み付けて、別の鳥に育てさせるらしい。
 魔女はそうしなければ血が途絶えてしまう。

「悲願が叶った……」

 もっとも年老いた魔女がそう告げると、一同に魔女たちは歓喜の声をあげた。

「もう人間に辱めを受けるのも終わりだ……反旗を翻す。イヴリーンの呪縛から私たちは解放される」

 老婆がボロボロの布から骨と皮だけの痩せた腕を覗かせる。
 その手には魔女を制約し続けたイヴリーンの心臓があった。神秘的に魔術式がその心臓の周りを輪を描く様に舞っている。
 人間に長らく厳重に保管されていた最重要機密のものだが、うまく取り入った魔女がそれを奪還した。
 老女が魔術式を展開すると、その心臓も、取り巻いていた魔術式も粉々になった。その瞬間に、魔女たちは自分たちが感じていた心臓を締め付けられ続けるような呪縛を逃れた。
 その解放に、歓喜で涙を流すものもいた。

「罪にまみれた人間を一掃し、火刑に処された私たちの同胞の無念を人間に思い知らせてやるのだ」


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