罪状は【零】

毒の徒華

文字の大きさ
93 / 191
第4章 奈落の果て

第92話 誠意

しおりを挟む



「はははははははは!(面白い……ガーネット……私たち……殺す?)」

 笑っているリゾンを無視して、ガーネットは言葉を続ける。

「お前には目的があるのだろう。くだらない目的がな……こんなところで殺されても良いのか? (魔女……脅威……恐怖……委縮……無様……)」

 その侮辱の言葉に、リゾンや獣の姿をした魔族がガーネットを殺そうととびかかった。
 僕が強引に魔術を使おうとすると、バキッという音がして僕の右手の手枷が割れる。どうやら手枷の魔術封じは僕の魔力を押さえるほどの魔術ではなかったようだ。
 魔族たちのその鋭い爪や魔術がガーネットを餌食にする前に、僕はガーネットを守る為の魔術式を構築する。
 水の壁がガーネットの周りを囲んで衝撃を全て吸収した。

「(卑賎……魔女!)」

 怒りの声が耳に響く。
 それでも、僕は殺したくなかった。
 殺すことに何の意味もない。
 それではゲルダと何も変わらないではないか。

「頼む、僕のことを信じてくれ……僕は敵意があって来たわけじゃないんだ! 魔女に憎しみがあるのは解る! 頼む……」

 僕は水の防御壁を解いた。そして、リゾンの目を真っすぐに見つめる。

「面白い……確かに強大な魔力だ……殺すのはやめて私のペットにしてやろう」

 ――この男はいったい何を言っているんだ? 魔族の存亡の危機だというときに……!

 そう思うと僕は怒りすら湧いてきた。
 これ以上魔女が好き勝手をしたら、異界ごと魔族を消してしまいかねない。
 そうでなくともこれだけの犠牲が出ているのに、どうしてそんな悠長なことを言っているのかと耳を疑った。

「僕のことをペットにしてもかまわない……でも魔族の存亡の危機のときにそんなこと言っている場合じゃないだろう! ガーネットも、ラブラドライトも、他のたくさんの魔族も犠牲になっているのに!」

 リゾンはくるくると自分の髪を指先で弄びながら興味なさそうに答える。

「魔族の存亡の危機? だからなんだというのだ? 私には関係ないことだ。私を脅かせる魔女など存在しない。弱い者が搾取されるのは当然だろう?」

 あっちの世界の感覚で考えていた僕が間違っていたのか。
 ガーネットもまだ僕の感覚が解るとは言い難いが、それでも高い知性があれば理解し合えると思っていたのに――――

「どうすれば協力してくれるんだ……」
「どうすれば? そんなに協力してほしいならお前のを見せてみろ」

 リゾンは僕の身体に鋭い爪を立てた。

 ――誠意って……防御するなってことか……

 爪が徐々に僕の身体に食い込んでくる。痛みに僕は暴れそうになったが、暴れないように僕は我慢をした。

「あぁあああッ……!!」
「ぐっ……」

 ガーネットの身体にも傷がついて血を流していた。僕は悔しさで下唇を噛んだ。いつもガーネットがする仕草。
 いつもこんな気持ちで下唇を噛んでいたのなら、本当につらい想いをさせてしまったと感じる。

「ほら。抵抗するな? 私たちに協力してほしいんだろう?」

 僕は何度も何度もリゾンの加虐的な行為に僕は耐えた。
 耐えた。
 耐えるしかなかった。
 傷はすぐに塞がっていくが、徐々にその回復速度が遅くなってきていることに気が付く。僕の血の効果が薄れてきているんだろう。
 それに、僕も血を流しすぎてぼーっとしてきた。

「美しい羽根だ……毟り取りたくなる」

 リゾンは僕の翼を縛るベルトの隙間から優しく翼を撫でた。

「翼に触るな……変態野郎が……」
「あぁ……そういえば翼人は翼に神経が集中していて敏感なんだったな? こんな風に愛撫されたら発情してしまうか?」

 リゾンは僕の翼を優しく撫でまわした。
 気持ちが悪い。
 そして翼のみならず僕の身体の方も撫でまわしてくる。

「(リゾン……停止……)」
「(主……凌辱……見る……興奮……)」

 細かい意味は解らなかったが、さしずめ「主を凌辱されるのを見て興奮していろ」という意味だろう。
 ガーネットの言葉で更にリゾンは僕の身体を弄んだ。

「(悪趣味……)」
「(黙れ……待て……)」

 他の魔族を牽制し、リゾンは行為を続けた。
 首から胸、腹から脚まで軽く爪を立てながら愛撫する。カリカリと皮膚を撫でられ、おかしな気持ちになってくる。

「やめて……っ……」
「いいぞ……お前。ますます気に入った。いい声で鳴け……私に聞かせろ……」

 リゾンが僕の首筋に牙を立てようとした。ガーネットが「やめろ!」「今すぐ殺せ!」と叫び散し、強固な鎖を引きちぎろうとガチャガチャと引っ張っていたが、鎖はびくともしない。
 それでも僕は抵抗できなかった。
 協力してくれると、心のどこかでそう信じていたからだ。

「ふふ……どうだ? 奴に見られながら玩具にされる気分は?」

 首筋を咬もうとしていたリゾンは、咬むのをやめて舌を這わせた。僕の血がついていない部分だ。しかし、その舌先はどんどん僕の血の方へと進んでいく。

 ――マズイ……このままじゃ……!

 僕が誠意を捨ててリゾンを突飛ばそうとした瞬間、

 バタン!

 急に扉が開いて、低級魔族と思しき者が入ってきた。小鬼のような姿をしている。それに手には脱がされた僕らの服を持っていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...