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第6章 収束する終焉
第170話 最期の一徹
しおりを挟むそう思ってた矢先、突如として魔女たちが逃げる方向に大きな大木が勢いよく生え、その行く手を阻む。
エマが魔術を使っているのは明白だ。
――エマ……どうしても戦わせようって魂胆か……
「逃げるなんて許されないわ。この程度で逃げまどっていたら、ゲルダ様と戦うなんてできやしない! 魔女の相続の危機なのよ!? 現実を受け止めなさい!!」
逃げ場を失った魔女たちは息を荒くして、死体の方へ振り返った。
視点を定めない目で、半狂乱でほぼ全員が魔術を展開した。闇夜を切り裂く眩い光が立ち上る。
各々の魔術は狙いも何もなく滅茶苦茶だ。しかしその内のいくつかは死体に当たり、死体は燃えてなくなったり、凍り付いて動けなくなったり、四肢が破裂したりして3体が動けなくなった。
それよりも、他の魔女にも魔術が当たってしまっているようで、甚大な被害が既に出てしまっている。
「あらら……エマも強引なやり方するわね」
呑気にアナベルが行っている間に、魔術の一つが僕らの方へ飛んできた。
砂の山が吹き飛び、咄嗟に防御壁を作ったから僕らは砂を被らずに済んだけれど、僕らの姿はエマに見えてしまった。
「っ……全員無事?」
「あぁ、私は問題ない」
「あ……あたしも……」
「当然よ」
幸いにも怪我人は出なかった。
結局僕は、魔女たちを追い返すこともできずにエマや他の魔女たちと対峙することになってしまう。
エマは僕らを確認するなり、声を荒げた。
「そこの者たち! 魔女なの!?」
――……あれ?
どうやらエマは僕がノエルだと解らないようだ。
月も隠れて暗い上、距離もまぁまぁ離れている。僕の赤い髪も闇に呑まれて見えていないのだろう。
「エマ、目が悪かったのね。あんたは隠れてなさい」
アナベルが颯爽と立ち上がり、エマの方へ向かって行く。
エマと面識のあるアナベルが出て行ったら戦いになってしまう…………と、考えたが、今のアナベルは姿が完全に変わっており、エマにとっては誰か解らないだろう。
「助けてほしいの!」
「誰だお前は!? 名前を名乗れ!」
「私が解らないの? アメリアよ……!」
そうアナベルが言うと、狼狽するばかりだった魔女たちの数人が悲鳴を上げるように話始めた。
「アメリア……?」
「嘘よ……アメリアはこの間死んだのに……」
確か、最近死んだ魔女を墓場から持ってきたと言っていた。
そのアメリアという名前はその身体の実際の名前なのだろう。死んだ魔女が生き返ったとあれば悲鳴を上げたくなる気持ちもわかる。
しかし、元の身体の名前を憶えているなどというのは悪趣味に僕は感じた。
「そうよ……私は殺されたの……そこにいる魔女に溺死させられたのよ……怨みで生き返ったの……報いを受けて!」
「アメリア……ごめんなさい! 許して!」
――なんで溺死させられたって解るんだ? 死体の状態から判断したのか?
僕らは聞いていて怪訝に思いながらも、どうやら話は通じているらしかった。
アメリア役を演じているアナベルは残った2人の死体を、アメリアを知っているような魔女2人にけしかけた。
「きゃぁあああああああっ!!! アメリア!! 許してぇえええっ!!!」
「許さないわ!! 死後の世界から仲間を連れてやってきたの!!! 私を殺したあなたたちなんて全員死んでよ!!!」
「やめてぇええええええっ!!!」
その叫びに呼応するように、周りの魔女は再び逃げまどった。
エマが作った大木の間をすり抜けようとする者、なんとかその横に伸びている大木を避けるようにする者、錯乱して大木に上り始めようとする者、大木を魔術で燃やしたり切ったりしようとする者で大混乱に陥った。
「あははははははは!!!」
アナベルは演技とは思えないような楽しそうな声で笑っている。
統率を完全に失った魔女たちは、蜘蛛の子を散らすように方々に逃げていったため、エマにはどうすることもできなかった。
他の魔女の魔術の餌食になってしまった魔女に死体をけしかけ、息の根を止めるとその死体もアナベルは操って数を増やしていった。
そのえげつない光景にエマ自身も真っ青に青ざめて震えている。
そんな中、次々に死体に襲われている者に向かって、他の魔女が背負っていた弓矢を魔術で弓に装填し、何本も撃ち放った。無数の矢の雨がアナベルに襲い掛かる。
当然、よけきれずにアナベルの身体に弓矢が何本か刺さる。
胸の、心臓の部分に矢が刺さっていた。アナベルは鬱陶しそうにその矢を無理やり抜く。
「穴開いちゃったじゃない……?」
そう言っている矢先にドサッ……と、倒れた。
――なんで……?
倒れたのはエマだ。
エマの身体にも、背中から複数の矢が刺さっており、背中側から深く胸まで貫通している矢もあった。
――なんで……? 味方じゃないの……?
いや、違う。
味方じゃない。
エマは魔女たちを集団でゲルダの元へ向かわせようとしていた。到底勝てない戦いに恐怖支配で行かせようとしていた。
それは“味方”とは言わない。
「もう恐怖で押さえつけられるのは嫌なのよ!!」
誰が言ったかもわからない言葉を聞きながら、エマは着々と意識が遠くなっていった。
操っている死体以外は辺りに誰もいなくなった後、アメリアの姿をしているアナベルはエマに近づいた。
「エマ、まだ気づかないの? あたしよ。アナベル」
「…………やっぱり……がはっ……あぁ……ぐ……」
もうエマはろくに話せない様子だった。
「あーあー……肺を2本も矢が貫通してるし、胃も肝臓ももう駄目ね。これじゃ」
「はぁ……はぁ……ぜぇ……ぜぇ……」
僕とガーネットは虫の息のエマに近づいた。間近で見ると砂漠の砂に血が染み込んでいっている。
こんな結果になってしまって残念だ。
自分が手を下したわけではないが、それでもこんなことになって胸が痛まない訳では無い。
「………………」
エマはゲルダとやり方が同じだったけれど、ゲルダほどの力は持っていなかった。
まして他の魔女に“死にに行け”という姿勢はこうなってしまってしかるべきだと言える。
「おい、さっさと殺せ。苦しみ続けているところを眺めている時間もあるわけでもないだろう」
ガーネットがアナベルにそう言う。確かにこのままにしておくのは可哀想だ。
「あんたの吸血鬼はそういってるけど? 殺していいの? ノエル」
「うん……そうするしかないなら」
「そうするしかないわね」
他に、道があるのではないかと考えるけれど、シャーロットがこの場にいるわけでもない。
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内臓の損傷からして、やはり見捨てるしかないか――――
ドンッ……!!
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僕の意識が途切れるさ中、僕の方を見て激しい怨嗟の感情を向き出しているエマの姿を見る。
僕が倒れ、エマと目が合うと彼女は
「ざまぁないわね」と目で訴え、息絶えた。
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