罪状は【零】

毒の徒華

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第6章 収束する終焉

第172話 アメリアの死因

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「ゲルダから僕の翼が剥がせないってシャーロットが言ってたけど……」
「それは心臓と複雑に絡みついているからできないって話でしょ? どうせもう始末するしかないんだし、それにあんたの魔力の質と量に反応してその複雑に絡みついたあんたの翼も取れると思うのよね」

 アナベルも僕と同じ推論を持っているようだった。

「……推測の話でしょ?」
「あんたね……いつまでそこで腐ってるつもり? 憶測でもなんでもそれしかないのよ。でも……あんた、あたしにだけ作戦を教えてくれなかったのは酷くない?」
「何の話……?」
「だーかーらー、世界を作る目的は、ゲルダ様を倒せなかった時のために隔離するんじゃなくて、魔女をこの世から隔離するんでしょ? それで、ゲルダ様の心臓を使うって算段なんでしょ?」

 アナベルのその言葉にギクリと僕は身体を震わせる。
 それがばれた今、アナベルは僕に協力しなくなるのではないかということを考えた。

「慌ててるシャーロットが全部話してたわ。あたしに内緒にしてるってことも忘れるくらい慌てていたのね。ねぇ、まだ秘密にしてることあるんじゃない? 魔女を隔離するなら、それはすべての魔女ってことでしょう? あんたがクロエやシャーロット、他のあたしを含む魔女をこっちに残すとは考えられないし」

 そこまで見抜かれているとは思わなかった。
 しかし、アナベルは怒っている風でもなければ、驚いている様子もない。

「そうだよ……全員隔離する」
「やっぱりね。それであんたはどうするわけ?」
「僕は……魔族の住む異界に住もうかなって思ってる。この世界から魔女をなくしたいんだ……」
「ふーん。まぁ、魔女と人間の確執を考えたらそれが一番平和的な解決かもね」

 妙に納得したように彼女は言った。
 その言葉の後に「じゃああたしは降りるわ」の言葉はいつまで経っても告げられなかった。

「……アナベルは、それでいいの?」
「あたしは……どこにいても受け入れてくれる場所なんてないから、どこに居ても同じよ。だから、新しく世界を作るときは、誰にも知られない場所っていうのを作ってほしいのよ。誰ともかかわらず研究だけできたらそれでいいの」

 意外な返事だった。
 慣れ親しんだ自分の故郷……自分が育った世界を簡単に諦められるものなのだろうか。僕は異界に行こうと考えてはいるが、やはりご主人様の件を抜きにしても完全に割り切れるわけでもない。
 美しい緑の木々や、植物、小鳥のさえずりのひとつとっても、失ってしまうと考えると惜しくなってしまう。

「……アナベルを受け入れてくれる魔女もいるよ」

 僕を受け入れてくれた人、魔女、魔族がいたように。
 そう言おうとしたけれど、アナベルは矢継ぎ早に否定する。

「いないわよ。いなくていいの。あたしにはあたしの価値観とか世界観があるの。共有するんじゃなくて、独り占めしたいのよ。あたしはあたしの世界にこもるわ。あたしは強欲の魔女よ?」

 アナベルは舌なめずりした。
 やけに前向きなその姿勢に、僕は勇気をもらった。丸めていた背中を伸ばし、アナベルと向き合う。

「……ってわけだから、あんたもいつまでも腐ってないでゲルダ様から翼を奪い返すことだけ考えなさい」
「……解った。でも、“アメリア”一ついいかな」

 もうどこにもいない者の名前を僕は呼んだ。
 その悪ふざけにアナベルは笑う訳でもなく、真面目な表情をしていた。

「何よ」
「どうして“アメリア”の死因まで解ったのか教えてもらえない?」
「あぁ……この辺に溺れるようなところないのに肺に水が溜まっていたの。この身体にしたときに、喉のところから水が出てきたのよね。この辺りで溺死なんて、殺害された以外にないでしょ?」

 そう言って彼女は地下から出て行った。
 彼女が出て行って、僕は息を大げさに吐き出す。アナベルのやり方は過激だと思っていたけれど、アメリアが殺害された者だと知って少し考え方が変わった。

「死体の恨みを晴らしたと考えれば、やりすぎだっていうこともなかったのかな」
「不気味な魔女だ。弟の死を弄んだことも軽く考えているようで、相変わらず腹が立つ」

 僕は漸く頭がハッキリとしてきた。
 その様子を見て、ガーネットは先ほどのアナベルの作戦について話し始める。

「あの魔女が言っていたのは行き当たりばったりの作戦だ。だが、お前が異界でも同じようなことを言っていた。このまま放っておいても事態は悪化していくだけだ。勝算が少しでもあるならやるしかない」
「ごねる訳じゃないけど……ガーネット、僕がまた正気を失ったらどうなるか解らないよ? 勝つとか負けるとかの問題じゃなくなるかもしれない」
「…………お前が第二の女王となって、世界を滅ぼすかもしれない……か? それとも、私が正気を失うか?」
「……僕は怖いよ……また気が付いたら大切な人が近くで息絶えてるなんて……もう嫌なんだ……」
「大丈夫だ。お前がまた同じように暴走しても、必ず私が正気に戻して見せる」

 そう言ってガーネットが牢の中に入り、僕の手枷や首の鎖を外そうとした。
 しかし僕はその手枷や首枷の感触がやけに懐かしく感じ、外さなくていいと彼に伝える。

「お前に会ったときも、お前はそうやって手枷と首輪をしていたな」
「やっぱりこれが落ち着くんだ。このままでいいよ」
「まだ奴隷の身に自分を貶めたいのか?」
「ううん。今は違う」

 僕は鎖を短く魔術で切った。やはり、こんな物理的な鎖は僕には意味がない。

「これは、自分を戒める為。力を暴走させないようにするための、誓い」

 そう言ってガーネットの顔を見ると、彼は呆れたような顔をしながらも承諾する。

「じゃあ、明日にでもゲルダの元へ行こう。それまで身体を十分休めておいて」
「あぁ……」

 不安はあったが、もう逃げる道など残されてはいない。

 ――ついに決戦のときだ……

 生まれてきたときからの因縁に区切りをつけることができる。
 僕は自分の腕に感じる、武骨な枷の感触を確かめながら覚悟を決めた。


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