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ヘーゲルツ王立学園
武道会13
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騎士たちは今だ微動だにせず何も言わない。
もうひと揺さぶりしてみるか…。
「ここはもう見つかっています。今すぐにでも第二王子殿下側の騎士が攻め込んでくるでしょう。今ならまだ、取り返しはつきます。僕は…護るべき主の元へ一刻でも早く、行くべきだと思います。」
駄目か…。今この場で僕の言葉が届かないとしたら、もう彼らを変えることはできない。
斬り伏せるまでだ。
本当は、この下種貴族がひとりで怯えるところが見たかったのだけど…、あまりにも悪趣味すぎたかな?
でもシオはそれ以上の目に合ってきたんだ。
もうどうなっても関係ない。
「隊長…」
諦めて剣を構え飛び出そうとした時、一番若そうな男が声を出した。
それに答えず隊長なのだろう男が僕に言う。
「貴殿は我らを見逃すのか…?」
「…。今はそんなことよりもやるべきことがありますので。」
「…失礼する。」
彼らは剣を鞘にしまい、僕の横を通り過ぎ、部屋からでていった。
これでもうこいつはひとりだ。
どうしてやろうか、黙って見下ろす。
あんなに威勢のよかった影はなく、怯えながらもくだらない自尊心に縋ってなんとか僕を睨んでいる。
「ち…近づくな!」
「僕は…あなたのことを調べた訳じゃないのであなたが犯した罪がどれだけあり、それがどれだけ深く重いのか知りません。」
「ならいいじゃないか!?」
目の前の男が発する声にどうしょうもなく怒りが湧いて鎌鼬のような風を男に飛ばすと、血が噴き出た。
一瞬遅れて汚い悲鳴が上がる。
「や、やめろ!お、俺だけじゃないだろ!?他にもこんなことをしてる奴らは沢山いる!」
「そんなこと知ってますよ。だけど今僕の中の最悪はあなたですから。」
あまり傷つけては尋問する時困るだろうから出血多量にならない程度に切り刻む。内側までいかないようにしてるが痛みは相当なはずだ。
何故だろうか、こんなに血塗れにしても罪悪感も恐怖心も、何も浮かばない。
あとはプロに任せるか…。
悲鳴をもう聞きたくなかったのもあるが、何よりこの空間にいるのが嫌だった。適当にきつく縛りあげ転がしておく。
まだここに残って人はいるのだろうか、探知をする。疎らにいるが、どれも出口であろう方へ向かっている。
僕も行くか、と足を踏み出した瞬間、右足の太腿に違和感がはしった。
見ると細長い矢が太腿を貫通している。
奴が…!?しっかり縛っておいたのに!
後ろを振り返る。しかしそこにいたのは全く予想外の人だった。
「ナナル、先生…?何をしてらっしゃるんですか…?」
「……。」
目の下に色濃い隈をつくったナナル先生が震えながら弓を構えている。
そのそばには勝ち誇ったような顔の男。
近くにはいないだろうと高を括っていたのが駄目だったんだ。
まずい、足が痺れてきた。
こいつはナナル先生も配下に置いていたのか!?
嫌がっているのに…、やらせるなんて頭が狂っている。
人を人として見ていない、あまりにも非人道的な行いだと思った。
「ナナル先生、弓を下ろしてください。大丈夫ですから。」
「無駄だ!俺が念じるだけで、こいつの人生はパァになるんだよ!おい、やれ!」
「ごめんなさい。アサギリ先生…。でも、やるしか、もうやるしかないんです…!」
その時だった。轟音が鳴り響くと同時に地面が激しく揺れた。
天井からパラパラと何かが落ちてくる。このまま揺れ続けたら直にここは崩れる。
男の顔をみるにどうやら知らないことのようだ。明らかに動揺している。
まさか第二王子殿下の騎士たちが到着したのか?それにしては派手すぎる。
地上でなにがあった?
「ナナル先生、逃げましょう!」
言うが否や怯える男の首を剣の柄で叩き意識を失わせる。
“念じるだけで”、そう言っていたからとりあえず意識を落としとけばどうにかなる。
慌てて発動条件を言ってしまってさらにそれに気づいていないなんて、間抜けすぎる。
連れて逃げたくないが、建物の倒壊で死ぬなんてことはさせない。
然るべき方法で散々苦しめられればいい。第二王子殿下ならやってくれるはずだ。
へなりと地面に膝をついたまま動かないナナル先生の手を握り無理矢理立たせる。
しかしすぐにストンと地面にへたり込んでしまう。
無理にでも抱えていきたいが、この男を置いていくわけにもいかない。
「ナナル先生!立ってください」
「……。無理よ…。あんなことをしてしまったのだから…私はここに残るわ。」
「勝手に決めないでください!いいですか、時間がないのではっきり言いますが、ナナル先生、あなたはとてもいい先生です。生徒にやさしいし、慕われてるし、それにシオにナイフを渡したのはあなたですよね?」
「それは…、ただの私の自己満足「それでもいいです。僕たちはナナル先生のその行動に救われました。だいたいそんなこと今考えるべきことではないです。」………。」
また大きな揺れが来た。そろそろ本格的にまずいだろう、いくら風魔法があろうと防ぎきれない。
ナナル先生の手を引き上げると黙って立ってくれた。これでいける。
「うじうじしてごめんなさい。行くわ。」
「先生が先に行ってください。」
「えぇ。というか足…動かせるの⁉」
「はい、何とか。」
本当はかなり限界だ。感覚がないしナナル先生からは見えないだろうが血が大量に流れているのがわかる。
しかし僕なんかに、走りながら必死に謝ってくるのでこんな痛みでさえ笑い事にできてしまいそうだ。
「本当にごめんなさい。地上についたらまず一番に麻酔薬専用の薬を配合するわ。」
「ふふっお願いします!」
揺れは止まないが、そこの角を曲がれば出口なはず。
「キャッ」
突然ナナル先生が短い悲鳴を上げる。
それもそのはず、目の前には地に倒れた騎士たち、燃えてなぎ倒された木々…そして見たこともないくらい大きな黒い巨体。
僕はその黒い竜をみた瞬間、どうしようもなく目が離せなくなった。
もうひと揺さぶりしてみるか…。
「ここはもう見つかっています。今すぐにでも第二王子殿下側の騎士が攻め込んでくるでしょう。今ならまだ、取り返しはつきます。僕は…護るべき主の元へ一刻でも早く、行くべきだと思います。」
駄目か…。今この場で僕の言葉が届かないとしたら、もう彼らを変えることはできない。
斬り伏せるまでだ。
本当は、この下種貴族がひとりで怯えるところが見たかったのだけど…、あまりにも悪趣味すぎたかな?
でもシオはそれ以上の目に合ってきたんだ。
もうどうなっても関係ない。
「隊長…」
諦めて剣を構え飛び出そうとした時、一番若そうな男が声を出した。
それに答えず隊長なのだろう男が僕に言う。
「貴殿は我らを見逃すのか…?」
「…。今はそんなことよりもやるべきことがありますので。」
「…失礼する。」
彼らは剣を鞘にしまい、僕の横を通り過ぎ、部屋からでていった。
これでもうこいつはひとりだ。
どうしてやろうか、黙って見下ろす。
あんなに威勢のよかった影はなく、怯えながらもくだらない自尊心に縋ってなんとか僕を睨んでいる。
「ち…近づくな!」
「僕は…あなたのことを調べた訳じゃないのであなたが犯した罪がどれだけあり、それがどれだけ深く重いのか知りません。」
「ならいいじゃないか!?」
目の前の男が発する声にどうしょうもなく怒りが湧いて鎌鼬のような風を男に飛ばすと、血が噴き出た。
一瞬遅れて汚い悲鳴が上がる。
「や、やめろ!お、俺だけじゃないだろ!?他にもこんなことをしてる奴らは沢山いる!」
「そんなこと知ってますよ。だけど今僕の中の最悪はあなたですから。」
あまり傷つけては尋問する時困るだろうから出血多量にならない程度に切り刻む。内側までいかないようにしてるが痛みは相当なはずだ。
何故だろうか、こんなに血塗れにしても罪悪感も恐怖心も、何も浮かばない。
あとはプロに任せるか…。
悲鳴をもう聞きたくなかったのもあるが、何よりこの空間にいるのが嫌だった。適当にきつく縛りあげ転がしておく。
まだここに残って人はいるのだろうか、探知をする。疎らにいるが、どれも出口であろう方へ向かっている。
僕も行くか、と足を踏み出した瞬間、右足の太腿に違和感がはしった。
見ると細長い矢が太腿を貫通している。
奴が…!?しっかり縛っておいたのに!
後ろを振り返る。しかしそこにいたのは全く予想外の人だった。
「ナナル、先生…?何をしてらっしゃるんですか…?」
「……。」
目の下に色濃い隈をつくったナナル先生が震えながら弓を構えている。
そのそばには勝ち誇ったような顔の男。
近くにはいないだろうと高を括っていたのが駄目だったんだ。
まずい、足が痺れてきた。
こいつはナナル先生も配下に置いていたのか!?
嫌がっているのに…、やらせるなんて頭が狂っている。
人を人として見ていない、あまりにも非人道的な行いだと思った。
「ナナル先生、弓を下ろしてください。大丈夫ですから。」
「無駄だ!俺が念じるだけで、こいつの人生はパァになるんだよ!おい、やれ!」
「ごめんなさい。アサギリ先生…。でも、やるしか、もうやるしかないんです…!」
その時だった。轟音が鳴り響くと同時に地面が激しく揺れた。
天井からパラパラと何かが落ちてくる。このまま揺れ続けたら直にここは崩れる。
男の顔をみるにどうやら知らないことのようだ。明らかに動揺している。
まさか第二王子殿下の騎士たちが到着したのか?それにしては派手すぎる。
地上でなにがあった?
「ナナル先生、逃げましょう!」
言うが否や怯える男の首を剣の柄で叩き意識を失わせる。
“念じるだけで”、そう言っていたからとりあえず意識を落としとけばどうにかなる。
慌てて発動条件を言ってしまってさらにそれに気づいていないなんて、間抜けすぎる。
連れて逃げたくないが、建物の倒壊で死ぬなんてことはさせない。
然るべき方法で散々苦しめられればいい。第二王子殿下ならやってくれるはずだ。
へなりと地面に膝をついたまま動かないナナル先生の手を握り無理矢理立たせる。
しかしすぐにストンと地面にへたり込んでしまう。
無理にでも抱えていきたいが、この男を置いていくわけにもいかない。
「ナナル先生!立ってください」
「……。無理よ…。あんなことをしてしまったのだから…私はここに残るわ。」
「勝手に決めないでください!いいですか、時間がないのではっきり言いますが、ナナル先生、あなたはとてもいい先生です。生徒にやさしいし、慕われてるし、それにシオにナイフを渡したのはあなたですよね?」
「それは…、ただの私の自己満足「それでもいいです。僕たちはナナル先生のその行動に救われました。だいたいそんなこと今考えるべきことではないです。」………。」
また大きな揺れが来た。そろそろ本格的にまずいだろう、いくら風魔法があろうと防ぎきれない。
ナナル先生の手を引き上げると黙って立ってくれた。これでいける。
「うじうじしてごめんなさい。行くわ。」
「先生が先に行ってください。」
「えぇ。というか足…動かせるの⁉」
「はい、何とか。」
本当はかなり限界だ。感覚がないしナナル先生からは見えないだろうが血が大量に流れているのがわかる。
しかし僕なんかに、走りながら必死に謝ってくるのでこんな痛みでさえ笑い事にできてしまいそうだ。
「本当にごめんなさい。地上についたらまず一番に麻酔薬専用の薬を配合するわ。」
「ふふっお願いします!」
揺れは止まないが、そこの角を曲がれば出口なはず。
「キャッ」
突然ナナル先生が短い悲鳴を上げる。
それもそのはず、目の前には地に倒れた騎士たち、燃えてなぎ倒された木々…そして見たこともないくらい大きな黒い巨体。
僕はその黒い竜をみた瞬間、どうしようもなく目が離せなくなった。
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