ダークエルフは洞窟の果てに幸せを掴む

みやぢ

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プロローグ

エルフの国へようこそ

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異世界とつながる洞窟「ケイブ」が発見されてもう10年余りになる。
世界各国に発見された「ケイブ」、最初の頃そこを通って大きなドラゴンがやってきて大きな被害が出たりしたが、ケイブの向こう側の「王国」が管理するようになってからは平穏な日々が続いていた。
世界各国で「ケイブ」に関する国際条約が締結され、「ケイブ」の利用に関する枠組みができていた。
洞窟の「政治・軍事利用」「拡張など大規模な土木工事」などが禁じられ、民間レベルでの「王国」との交易が盛んになっていた。
希少金属、いわゆる「レアメタル」のたぐいが産出されることがわかったのだ。
条約により大量輸送が不可能なので大手企業には旨味はないがうちの会社のような零細企業では十分な利益が出せている。
そしてこの度、僕の勤める「ハルキトレーディング」は王国に出張所を開設することになり僕、南愼太郎は駐在員として赴任することとなった…

日本にある「ケイブ」は比較的大きく、中に地底湖があり陸路での移動が不可能なため、連絡船が運行されている。
入り口にある出入国事務所で手続きをすませ、出発時刻まで待合所で待機していると連絡船のキャプテンが声をかけてきた。
「よう!いよいよ向こうに赴任だってな、お前さんもハルさんの信頼が厚くなってきたなぁ」
キャプテンはうちの社長の親友で外航船
に長らく乗り込んでいたベテラン船員だそうだ、この連絡船が就航する際に社長に請われてこの仕事を請け負っている。
「お嬢は昨日向こうへ行ったよ」
お嬢とは社長の娘、春木さやかのことだ、彼女は出張所の所長、つまり僕の上司として赴任するのだが、実は彼女は僕の高校の先輩で旧知の仲だ。
大学在学中、ろくに講義に出ずにバイトとバックパック旅三昧だった僕を国際貿易の世界に引き込んだのは彼女と父親の春木社長だった。

僕は社長の鞄持ちをしながら国際貿易のイロハを叩き込まれていった。
若い頃から世界中を駆け回っていた社長は驚くほど顔が広く、海外の財界はおろか国家元首クラスにも人脈を持っていた。
独学ながら語学も堪能で、日本に数名しか話せるものがいないような言語も習得していて、外務省に請われて国賓の通訳をすることもあるのだ。

やがてアナウンスが流れ、連絡船への乗船が始まった。

20名ほどが乗れる船内は少し余裕があるようだ、船室の一角に5名ほどの制服に身を包んだ軍人と思しきダークエルフが座っていた。

その中の一人が声をかけてきた。
「貿易商の方でしょうか?」
「このたび王都に出張所を開設するハルキトレーディングの南と申します」
「失礼いたしました、近衛師団所属エミリア・エイラート中佐であります、王都でお困りのことがありましたらなんなりとおっしゃってくださいね」
エイラート中佐は笑顔でこう言うと敬礼して席へ戻っていった。

ダークエルフと言っても外見上の違いは褐色の肌と銀髪、そして尖った長い耳だけであとは人間と変わりない、エイラート中佐は人間の基準から見てもかなりの美人だ。

やがて船が動き出した、洞窟の奥へ進むにつれ徐々に洞窟内の照明が少なく暗くなっていき船内の灯りだけになった頃、わずかな振動が船体に響いた、異世界との境界を超えた知らせだ。

そして洞窟内に柔らかな灯りが灯るようになってきた、「王国」の電気はまだそれほど普及していないので松明の灯りだ。

そして連絡船は「王国」側の木造の桟橋に着岸した。

「愼太郎~」
所長のさやかさんが迎えにきてくれていた。
「お疲れさま、外に馬車を待たせてるから」
馬車を引く馬が怖がって洞窟内には入れないので少し歩いて洞窟の外へ出た、隣に王国の紋章が付いた軍の馬車が並んでいてエイラート中佐が乗り込むのが見えた、僕に気がついた中佐は笑顔で小さく手を振ってきた。
僕が手を振り返しているのを見てさやかさんが、
「あら、エルフの軍人さんとさっそく仲良くなったみたいね」と笑った。
「船内で少し話しただけですよ、近衛師団の中佐だそうです」
「そう、政府関係者とは仲良くしていて損はないわ」
そう言うとさやかさんはドワーフ族の御者に馬車を出すように言った。

しばらく何もない荒野を走って高い城壁に囲まれた王都に到着した。

石畳の道を走って大きな通り沿いの建物の前で馬車は止まった。

「着いたわ、ここよ」
煉瓦造りの二階建ての建物だった。
真新しい木彫りの看板が掲げてあり、日本語と英語、そして王国の言語で社名が彫り込まれていた。

「一階が事務所と倉庫、ニ階は私と愼太郎の私室と応接室ね」
ここが僕たちの新しい仕事場になる、そう思うと胸が高鳴った。
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