洋食屋ロマン亭

みやぢ

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ようこそロマン亭へ<1>

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とある街のオフィス街、その片隅にある小さな洋食屋「ロマン亭」
店を切り盛りする若き料理人翔太郎とそこに集まる人々の小さな物語。

ある日の昼下がり、ランチタイムも終わり一息ついていると一本のメールが届いた。

恋人のまどかさんからだ。

「翔ちゃん明日お休みなのにごめんね、今手掛けてるカタログ撮影の男性モデルさんが急に来れなくなって代役お願いしたいの!」

まどかさんはモデルの仕事をしているのだけど小さな事務所で慢性的に人手不足なので時々こういう事がある。

今回の仕事は企画段階から深く関わっているので本人はかなり大変そうだった。
もちろん断る理由もないので「わかった、詳しいことは帰ってから聞くよ」とだけ返事しておいた。

返信を打ち終わってからふと数日前の会話を思い出した。

(そういえば今手掛けてる仕事ってたしかブライダルカタログって言ってたよな…ということはまどかさんと…ってええっー⁉︎)

まどかさんとは同棲してるけどそういう話はお互い意識していなかっただけにこれは…

いずれは…という気持ちはあるけれど現実を眼の前に突きつけられて冷静でいられるか自信はないなぁ。

受けてしまったものは仕方ない、とにかく責任は果たさないとな。

仕事を終えて家に帰ると先に帰っていたまどかさんから明日の段取りを聞いて床に着いた。

翌朝、準備があるからと先に家を出たまどかさんを見送ってコーヒーを飲みながら昔のことを思い出していた。

まどかさんと知り合ったのは中学生の頃だからずいぶん長い付き合いになる。 

僕の親父とまどかさんのお父さんは学生時代からの親友だった、親父が転勤族だったので小学生の頃はあちこち転勤するたびに学校を変わっていたのだけど、中学に上がる頃に今の街に落ち着いて家を建て、それから家族ぐるみの付き合いが始まり、僕たちもお互いに惹かれあうようになった。

そして同じ高校に進学した春に事件は起きた。

まどかさんの両親が交通事故で亡くなってしまったのだ。

泣きじゃくるまどかさんを前に僕は何もしてあげられなかった。

お葬式の席でまどかさんの扱いで騒然としてる親戚たちの前で親父は毅然として言った「貴方達にまどかちゃんは預けられない!彼女はうちで引き取る!」

こうしてひとつ屋根の下での生活が始まった。

やがて高校を卒業し、僕は調理師の学校へ、まどかさんは高校の先輩の誘いでモデルの仕事を始めた。

問題なく大学へ行けるくらい成績の良かった彼女が進学しなかったのはやはりうちの親に負担を掛けたくないという気持ちからだったのだろう。

そして僕は学校を卒業して今のロマン亭のオーナーにめぐりあいお店で修行することになった。

オーナーとの出会いは本当に偶然だった。

調理師学校の卒業が近づいたある日、駅前の商店街で年配の男の人がショッピングカートの車輪が壊れて困っているのに出くわした。

「困ったなぁ、こんな荷物の多いときに壊れるなんて…」
「おじさん、運ぶの手伝いますよ!」
「いいのかい、すまないね」
中身はたくさんの野菜や食料品のようだ。

「こんなにたくさんの食材、どうされるんですか?」
「私のお店で使うんだよ」
「お店?」
「この近くで洋食屋をしててね、その仕入れに行ってたんだよ…あぁ、そこを右に曲がったところが私のお店だ」

オフィス街にあるこじんまりとしたお店だった。

「ありがとう、助かったよ、重かっただろう…お礼にお茶でも飲んでいきなさい」
「ありがとうございます」

奥さまと2人で切り盛りしている小さな洋食屋、古いけれどていねいに手入れされているのがよくわかる。
奥さまが淹れてくれたコーヒーをいただきながらしばらく話をしていた。

「きみは今何の仕事をしているの?」
「実は調理師学校をもうすぐ卒業するんですがまだ行先が決まらなくて…」
「そうか、もしよかったらうちに来ないかい?」
「えっ?」
「わたしももう歳で脚も悪いし、家内も身体が動かなくなってきてるんで今後どうするか考えていたんだ、息子は店を継ぐ気もなくサラリーマンをやっているよ」

渡りに船とはこのことだがこんなにあっさり決めていいものだろうか?

「学校はJCアカデミー?」
「そうです」
「あそこの理事長はわたしの後輩でね、なんなら話をしておくがね」

この人いったい何者なんだ?
脚が悪いとはいえ歳の割にシャキッとしてるし、やたら顔が広そうだし…

いろいろ戸惑いながらもこの人の所なら良い経験が積めそうだ…そう思った僕はこの洋食屋「ロマン亭」で料理人としての第一歩を踏み出すことになった。




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