洋食屋ロマン亭

みやぢ

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まどかさんのおしごと

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とある休日の昼下がり、まどかさんもオフの日なので二人でリビングでのんびりしていた。

食後のお茶を淹れてキッチンから戻るとまどかさんがなにかアルバムを広げて眺めていた。
「何見てるの?」
「わたしがお仕事始めた頃の写真、こないだ事務所の片付けしてたら出てきたの、懐かしいなぁと思ってね」
「へぇー、ちょっと見せてよ」

彼女がモデルとしての仕事を始めたばかりの頃、大きなモーターショーが開催された。
その時にイベントコンパニオンとして参加した時の写真だった。

「まだ髪色変えてないときのだね、初々しいね」
「あらためて言われるとなんか照れるわね…」

もともとまどかさんの髪は黒かったのだが、事務所の先輩(今の社長だが)に
「もう少し明るい髪色にしたら似合うと思うよ」
と言われて少し明るめのカラーにしたのが本人も気に入ってそれ以来この髪色にしている。
高校生の頃を知っている僕にしてみれば大幅にイメージが変わって大人びたまどかさんに戸惑いを隠せなかった。

「ヘアサロンから帰ってきた時の翔ちゃんの顔、今でも忘れないわ」
「そりゃびっくりするよ、まったく別人と言っていいくらい変わってたもの」

ほんとうにあの時は驚いたのをよく覚えている。

「どっちのわたしが好き?」
唐突にまどかさんが訊いてきた。
「また難しい質問だなぁ…どっちもまどかさんには変わりないからどっちも好きだよ」
「ずるいなぁ」
「オトナの回答ってヤツだよ」

二人して笑いあった。


アルバムを捲っていると水着姿の写真が出てきた。

「これは恥ずかしいから見ちゃダメ!」

まどかさんは真っ赤になってアルバムを閉じてしまった。

「翔ちゃんになら、と思ったけどやっぱり恥ずかしい…」

まぁ、モデルの仕事してるとこういう仕事もあるだろうからそのうち出てくると思ったけど、このリアクションはあまりにも可愛すぎる…

「まどかさんの気持ちの準備ができた時に見せてくれたらいいよ」
「うん、ごめんやっぱりまだダメみたい…」

ここは話を切り替えよう。

「そういえば最近イベントコンパニオンの仕事減っちゃってるらしいね」
「そうなのよ、ジェンダーフリーがどうのっていろいろ煩くなってきてるのよ」
「そうなんだ」
「観光地なんかでミス◯◯ってあったのも◯◯アンバサダーって言って男の人もなれるようになったんだって」
「いろいろやりにくい世の中になってきたんだねぇ…」

最近まどかさんも事務所仕事のほうが増えていろいろ大変らしい。

「アキさん…社長もモデル仕事引退しようかな、なんて言ってるのよ」

あきこさんはまどかさんの事務所の現在の社長でモデル業も続けているが、僕にとってはゆき姉の友達としてのイメージが強い。
この街で催されるイベント事はほとんどがあきこさんの会社が携わっているのでTシャツにデニムパンツ姿で裏方仕事をしている姿しか思い浮かばない。

それでも家業を引き継ぐまでは国際的なファッションショーの経験もあるモデルだった。

モデルとしてこれからというときに前社長であるお父さんが病気で倒れ、後遺症で仕事もままならないことからあきこさんが引き継いだそうだ。

元いたモデル事務所とのパイプを生かして家業を多角的に拡大していったのはあきこさんの才覚だといえる。

まどかさんもそのツテで大きな仕事に呼ばれることもたびたびあった。

いつかはこの街から出て行くかも知れない、そう思っていたこともあったが、まどかさんにしてみれば唯一の身内とも言える僕とは離れたくなかったようだ。

「ねぇ翔ちゃん、もしわたしが仕事辞めるって言ったらどうする?」
「どうって?」
「モデルの仕事もこのままだと先細りだし、イベントの仕事が嫌ってわけでもないんだけど…」
「なんだかまどかさんらしくないなぁ」
「えっ?」
「いいじゃない、まどかさんの好きなようにすれば、それに僕は口出ししない、お店もなんとか安定してやっていけてるし、まどかさんひとりくらいは食べさせていけるよ」
「翔ちゃん…」
「でも外ではカッコいいお姉さんでいて欲しくはあるけどね」
「ごめんね、ちょっといろいろあったから弱気になってたの」
「まどかさんの帰る場所はここだよ」

少し考えてまどかさんが言った
「ねぇ翔ちゃん、キスして…」

僕はまどかさんの髪をかき上げていつもより少し長くキスをした。

「…ん、ありがと、これで明日からまた頑張れる」

いつものまどかさんの笑顔に戻った。


多くは望まない、いつまでもその笑顔でいてくれるだけでいいんだ。


まどかさんのおしごと <了>







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