9 / 20
まどかさんのおしごと
しおりを挟む
とある休日の昼下がり、まどかさんもオフの日なので二人でリビングでのんびりしていた。
食後のお茶を淹れてキッチンから戻るとまどかさんがなにかアルバムを広げて眺めていた。
「何見てるの?」
「わたしがお仕事始めた頃の写真、こないだ事務所の片付けしてたら出てきたの、懐かしいなぁと思ってね」
「へぇー、ちょっと見せてよ」
彼女がモデルとしての仕事を始めたばかりの頃、大きなモーターショーが開催された。
その時にイベントコンパニオンとして参加した時の写真だった。
「まだ髪色変えてないときのだね、初々しいね」
「あらためて言われるとなんか照れるわね…」
もともとまどかさんの髪は黒かったのだが、事務所の先輩(今の社長だが)に
「もう少し明るい髪色にしたら似合うと思うよ」
と言われて少し明るめのカラーにしたのが本人も気に入ってそれ以来この髪色にしている。
高校生の頃を知っている僕にしてみれば大幅にイメージが変わって大人びたまどかさんに戸惑いを隠せなかった。
「ヘアサロンから帰ってきた時の翔ちゃんの顔、今でも忘れないわ」
「そりゃびっくりするよ、まったく別人と言っていいくらい変わってたもの」
ほんとうにあの時は驚いたのをよく覚えている。
「どっちのわたしが好き?」
唐突にまどかさんが訊いてきた。
「また難しい質問だなぁ…どっちもまどかさんには変わりないからどっちも好きだよ」
「ずるいなぁ」
「オトナの回答ってヤツだよ」
二人して笑いあった。
アルバムを捲っていると水着姿の写真が出てきた。
「これは恥ずかしいから見ちゃダメ!」
まどかさんは真っ赤になってアルバムを閉じてしまった。
「翔ちゃんになら、と思ったけどやっぱり恥ずかしい…」
まぁ、モデルの仕事してるとこういう仕事もあるだろうからそのうち出てくると思ったけど、このリアクションはあまりにも可愛すぎる…
「まどかさんの気持ちの準備ができた時に見せてくれたらいいよ」
「うん、ごめんやっぱりまだダメみたい…」
ここは話を切り替えよう。
「そういえば最近イベントコンパニオンの仕事減っちゃってるらしいね」
「そうなのよ、ジェンダーフリーがどうのっていろいろ煩くなってきてるのよ」
「そうなんだ」
「観光地なんかでミス◯◯ってあったのも◯◯アンバサダーって言って男の人もなれるようになったんだって」
「いろいろやりにくい世の中になってきたんだねぇ…」
最近まどかさんも事務所仕事のほうが増えていろいろ大変らしい。
「アキさん…社長もモデル仕事引退しようかな、なんて言ってるのよ」
あきこさんはまどかさんの事務所の現在の社長でモデル業も続けているが、僕にとってはゆき姉の友達としてのイメージが強い。
この街で催されるイベント事はほとんどがあきこさんの会社が携わっているのでTシャツにデニムパンツ姿で裏方仕事をしている姿しか思い浮かばない。
それでも家業を引き継ぐまでは国際的なファッションショーの経験もあるモデルだった。
モデルとしてこれからというときに前社長であるお父さんが病気で倒れ、後遺症で仕事もままならないことからあきこさんが引き継いだそうだ。
元いたモデル事務所とのパイプを生かして家業を多角的に拡大していったのはあきこさんの才覚だといえる。
まどかさんもそのツテで大きな仕事に呼ばれることもたびたびあった。
いつかはこの街から出て行くかも知れない、そう思っていたこともあったが、まどかさんにしてみれば唯一の身内とも言える僕とは離れたくなかったようだ。
「ねぇ翔ちゃん、もしわたしが仕事辞めるって言ったらどうする?」
「どうって?」
「モデルの仕事もこのままだと先細りだし、イベントの仕事が嫌ってわけでもないんだけど…」
「なんだかまどかさんらしくないなぁ」
「えっ?」
「いいじゃない、まどかさんの好きなようにすれば、それに僕は口出ししない、お店もなんとか安定してやっていけてるし、まどかさんひとりくらいは食べさせていけるよ」
「翔ちゃん…」
「でも外ではカッコいいお姉さんでいて欲しくはあるけどね」
「ごめんね、ちょっといろいろあったから弱気になってたの」
「まどかさんの帰る場所はここだよ」
少し考えてまどかさんが言った
「ねぇ翔ちゃん、キスして…」
僕はまどかさんの髪をかき上げていつもより少し長くキスをした。
「…ん、ありがと、これで明日からまた頑張れる」
いつものまどかさんの笑顔に戻った。
多くは望まない、いつまでもその笑顔でいてくれるだけでいいんだ。
まどかさんのおしごと <了>
食後のお茶を淹れてキッチンから戻るとまどかさんがなにかアルバムを広げて眺めていた。
「何見てるの?」
「わたしがお仕事始めた頃の写真、こないだ事務所の片付けしてたら出てきたの、懐かしいなぁと思ってね」
「へぇー、ちょっと見せてよ」
彼女がモデルとしての仕事を始めたばかりの頃、大きなモーターショーが開催された。
その時にイベントコンパニオンとして参加した時の写真だった。
「まだ髪色変えてないときのだね、初々しいね」
「あらためて言われるとなんか照れるわね…」
もともとまどかさんの髪は黒かったのだが、事務所の先輩(今の社長だが)に
「もう少し明るい髪色にしたら似合うと思うよ」
と言われて少し明るめのカラーにしたのが本人も気に入ってそれ以来この髪色にしている。
高校生の頃を知っている僕にしてみれば大幅にイメージが変わって大人びたまどかさんに戸惑いを隠せなかった。
「ヘアサロンから帰ってきた時の翔ちゃんの顔、今でも忘れないわ」
「そりゃびっくりするよ、まったく別人と言っていいくらい変わってたもの」
ほんとうにあの時は驚いたのをよく覚えている。
「どっちのわたしが好き?」
唐突にまどかさんが訊いてきた。
「また難しい質問だなぁ…どっちもまどかさんには変わりないからどっちも好きだよ」
「ずるいなぁ」
「オトナの回答ってヤツだよ」
二人して笑いあった。
アルバムを捲っていると水着姿の写真が出てきた。
「これは恥ずかしいから見ちゃダメ!」
まどかさんは真っ赤になってアルバムを閉じてしまった。
「翔ちゃんになら、と思ったけどやっぱり恥ずかしい…」
まぁ、モデルの仕事してるとこういう仕事もあるだろうからそのうち出てくると思ったけど、このリアクションはあまりにも可愛すぎる…
「まどかさんの気持ちの準備ができた時に見せてくれたらいいよ」
「うん、ごめんやっぱりまだダメみたい…」
ここは話を切り替えよう。
「そういえば最近イベントコンパニオンの仕事減っちゃってるらしいね」
「そうなのよ、ジェンダーフリーがどうのっていろいろ煩くなってきてるのよ」
「そうなんだ」
「観光地なんかでミス◯◯ってあったのも◯◯アンバサダーって言って男の人もなれるようになったんだって」
「いろいろやりにくい世の中になってきたんだねぇ…」
最近まどかさんも事務所仕事のほうが増えていろいろ大変らしい。
「アキさん…社長もモデル仕事引退しようかな、なんて言ってるのよ」
あきこさんはまどかさんの事務所の現在の社長でモデル業も続けているが、僕にとってはゆき姉の友達としてのイメージが強い。
この街で催されるイベント事はほとんどがあきこさんの会社が携わっているのでTシャツにデニムパンツ姿で裏方仕事をしている姿しか思い浮かばない。
それでも家業を引き継ぐまでは国際的なファッションショーの経験もあるモデルだった。
モデルとしてこれからというときに前社長であるお父さんが病気で倒れ、後遺症で仕事もままならないことからあきこさんが引き継いだそうだ。
元いたモデル事務所とのパイプを生かして家業を多角的に拡大していったのはあきこさんの才覚だといえる。
まどかさんもそのツテで大きな仕事に呼ばれることもたびたびあった。
いつかはこの街から出て行くかも知れない、そう思っていたこともあったが、まどかさんにしてみれば唯一の身内とも言える僕とは離れたくなかったようだ。
「ねぇ翔ちゃん、もしわたしが仕事辞めるって言ったらどうする?」
「どうって?」
「モデルの仕事もこのままだと先細りだし、イベントの仕事が嫌ってわけでもないんだけど…」
「なんだかまどかさんらしくないなぁ」
「えっ?」
「いいじゃない、まどかさんの好きなようにすれば、それに僕は口出ししない、お店もなんとか安定してやっていけてるし、まどかさんひとりくらいは食べさせていけるよ」
「翔ちゃん…」
「でも外ではカッコいいお姉さんでいて欲しくはあるけどね」
「ごめんね、ちょっといろいろあったから弱気になってたの」
「まどかさんの帰る場所はここだよ」
少し考えてまどかさんが言った
「ねぇ翔ちゃん、キスして…」
僕はまどかさんの髪をかき上げていつもより少し長くキスをした。
「…ん、ありがと、これで明日からまた頑張れる」
いつものまどかさんの笑顔に戻った。
多くは望まない、いつまでもその笑顔でいてくれるだけでいいんだ。
まどかさんのおしごと <了>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる




