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すみれ、夜に咲く
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会社の同僚と飲みに行った帰り道、飲み屋街の路地裏で僕はその人と出会った…いや、正確には再会したのだけれど…
僕には小さい頃から「人ならざる者」が視える力があるらしい。
水商売と思しき黒いワンピース姿、そして見覚えのある猫耳と尻尾…壁にもたれて煙草を吸っていた彼女は僕に気がつくと小走りに駆け寄ってくる。
「少年⁉︎」
彼女…すみれさんは僕に抱きついてきた
「立派になったなぁ…会いたかった!」
そう言うとすみれさんは唇を重ねてきた、懐かしい煙草の苦い味のするキスだった。
彼女は祖母の友人、ということになっているが実は祖母の飼っていた黒猫が変化した化け猫なのだ。
おばあちゃん子だった僕はたびたび祖母の家に遊びに行っていてすみれさんにもよく遊んでもらっていた。
今考えると思春期を迎えていた僕にとってはすみれさんはあまりにも刺激的過ぎたし、彼女が僕を挑発するようなこともたびたびあった。
高校生になる頃に祖母が亡くなってからは祖母の家も取り壊されてすみれさんとも会うことはなくなってしまったのだけど…
「もう仕事も終わるから少し付き合ってくれないかな?」
ここで待つよう言われてしばらくするとラフな服装に着替えたすみれさんが出てきた。
「お待たせ、とりあえずごはん食べに行こう」
そう言うと僕の手を引いて歩き始めた。
朝まで営業してるというすみれさんの馴染みの食堂で祖母が亡くなってから今まで人間社会で暮らしてきた苦労話を聞きながら僕はあの頃と変わらないすみれさんの姿を見つめていた。
「終電も無くなったし…よかったらうちに来ない?」
時間のことをすっかり忘れていた僕はすみれさんの住まいにお邪魔することにした。
繁華街から少し歩いた場所にある少し古い一軒家がすみれさんの今の住まいだった。
「シャワー浴びてくるからゆっくりしてて」
そう言ってすみれさんは浴室へ向かった。
亡くなった祖母の家に似た感じがして落ち着く雰囲気の家だ。
しばらくしてすみれさんの声が聞こえた。
「バスタオル取って~」
そう言われて浴室へ行くと一糸まとわぬ姿のすみれさんがいた。
目のやり場に困って視線を逸らしていると彼女が言った。
「キミになら見られてもいいよ、見せるために呼んだんだけどね」
そう言っていたずらっぽく笑った。
昔から彼女はそういうところがあって僕はさんざん困らされた記憶がある。
「一緒に入ればよかったかな?」
冗談とも本気ともつかない顔ですみれさんはそう言って缶ビールを手に僕の隣に座った。
「ひさしぶりの再会にかんぱーい!」
昔話に花を咲かせながら夜は更けていった…
「そろそろ寝よっか…」
すみれさんは僕の手を引いて隣の部屋へ向かう。
布団が一組だけ敷いてあるのを見て僕はすみれさんの方を向くと…
「わたし一人暮らしだからね、ふとんはこれしかないの…だから一緒に寝よっ!」
すみれさんが抱きついてきた勢いで二人は布団に倒れ込んだ。
「ふふっ、久しぶりだねキミとこうするのも♡」
そう言って僕の上に乗りかかってきたすみれさんは妖艶な笑みで唇を重ねてきた…
僕とすみれさんはこれが初めてではない、
祖母が亡くなる少し前、夏休みに遊びに行ったとき、祖母が買い物に出かけて留守番してる間にすみれさんと戯れあっててなんとなくそんな雰囲気になって…というかあの時もすみれさんに挑発されたのだった。
そして僕とすみれさんは何度も求めあい、抱き合ったまま眠りに落ちていった。
翌朝、目覚めると台所からパタパタという忙しそうな音とともにいい匂いが漂ってきていた。
「おはよう、朝ごはんできてるよ」
すみれさんが台所から顔を出してそう言った。
食卓に向かい合って朝食を食べているとすみれさんが切り出した。
「キミさえ良ければだけど…この家でいっしょに暮らさないか?」
確かに今の家より広いし職場にも近くなるからねがったりかなったりではあるけれど…
「ハルさん…キミのお祖母さんには本当にお世話になった、恩返しに孫のキミのお世話をするというのは悪い話ではないと思うけど」
そう言ったあと少し顔を赤らめて
「それにキミのことが好き…だから…」
普段のすみれさんからは想像できない可愛い表情だった。
「この家のしつらえをハルさんの家を参考にしてよく似た雰囲気にしたのもキミと過ごしたあの家を忘れたくなかったからだよ」
それほどまでに…そう言われて僕は言葉が出なかった
「人ではないわたしに分け隔てなく接してくれたキミの優しさにわたしは惚れた…それに夜の街で働いてはいてもキミ以外に心も身体も許してはいない!」
どうやら断る理由は無さそうだ…僕は黙ってすみれさんのそばへ行き、やさしく抱きしめた。
それからしばらくして、僕はすみれさんの家へ引っ越ししてふたりでの新しい生活が始まった。
すみれさんは相変わらず僕のことを「少年」と呼ぶ、もういい大人なんだから…と言ったが「わたしの中ではキミはあのころの少年のままなんだよ、あだ名だと思えばいいじゃない」と笑った。
すみれ、夜に咲く<了>
僕には小さい頃から「人ならざる者」が視える力があるらしい。
水商売と思しき黒いワンピース姿、そして見覚えのある猫耳と尻尾…壁にもたれて煙草を吸っていた彼女は僕に気がつくと小走りに駆け寄ってくる。
「少年⁉︎」
彼女…すみれさんは僕に抱きついてきた
「立派になったなぁ…会いたかった!」
そう言うとすみれさんは唇を重ねてきた、懐かしい煙草の苦い味のするキスだった。
彼女は祖母の友人、ということになっているが実は祖母の飼っていた黒猫が変化した化け猫なのだ。
おばあちゃん子だった僕はたびたび祖母の家に遊びに行っていてすみれさんにもよく遊んでもらっていた。
今考えると思春期を迎えていた僕にとってはすみれさんはあまりにも刺激的過ぎたし、彼女が僕を挑発するようなこともたびたびあった。
高校生になる頃に祖母が亡くなってからは祖母の家も取り壊されてすみれさんとも会うことはなくなってしまったのだけど…
「もう仕事も終わるから少し付き合ってくれないかな?」
ここで待つよう言われてしばらくするとラフな服装に着替えたすみれさんが出てきた。
「お待たせ、とりあえずごはん食べに行こう」
そう言うと僕の手を引いて歩き始めた。
朝まで営業してるというすみれさんの馴染みの食堂で祖母が亡くなってから今まで人間社会で暮らしてきた苦労話を聞きながら僕はあの頃と変わらないすみれさんの姿を見つめていた。
「終電も無くなったし…よかったらうちに来ない?」
時間のことをすっかり忘れていた僕はすみれさんの住まいにお邪魔することにした。
繁華街から少し歩いた場所にある少し古い一軒家がすみれさんの今の住まいだった。
「シャワー浴びてくるからゆっくりしてて」
そう言ってすみれさんは浴室へ向かった。
亡くなった祖母の家に似た感じがして落ち着く雰囲気の家だ。
しばらくしてすみれさんの声が聞こえた。
「バスタオル取って~」
そう言われて浴室へ行くと一糸まとわぬ姿のすみれさんがいた。
目のやり場に困って視線を逸らしていると彼女が言った。
「キミになら見られてもいいよ、見せるために呼んだんだけどね」
そう言っていたずらっぽく笑った。
昔から彼女はそういうところがあって僕はさんざん困らされた記憶がある。
「一緒に入ればよかったかな?」
冗談とも本気ともつかない顔ですみれさんはそう言って缶ビールを手に僕の隣に座った。
「ひさしぶりの再会にかんぱーい!」
昔話に花を咲かせながら夜は更けていった…
「そろそろ寝よっか…」
すみれさんは僕の手を引いて隣の部屋へ向かう。
布団が一組だけ敷いてあるのを見て僕はすみれさんの方を向くと…
「わたし一人暮らしだからね、ふとんはこれしかないの…だから一緒に寝よっ!」
すみれさんが抱きついてきた勢いで二人は布団に倒れ込んだ。
「ふふっ、久しぶりだねキミとこうするのも♡」
そう言って僕の上に乗りかかってきたすみれさんは妖艶な笑みで唇を重ねてきた…
僕とすみれさんはこれが初めてではない、
祖母が亡くなる少し前、夏休みに遊びに行ったとき、祖母が買い物に出かけて留守番してる間にすみれさんと戯れあっててなんとなくそんな雰囲気になって…というかあの時もすみれさんに挑発されたのだった。
そして僕とすみれさんは何度も求めあい、抱き合ったまま眠りに落ちていった。
翌朝、目覚めると台所からパタパタという忙しそうな音とともにいい匂いが漂ってきていた。
「おはよう、朝ごはんできてるよ」
すみれさんが台所から顔を出してそう言った。
食卓に向かい合って朝食を食べているとすみれさんが切り出した。
「キミさえ良ければだけど…この家でいっしょに暮らさないか?」
確かに今の家より広いし職場にも近くなるからねがったりかなったりではあるけれど…
「ハルさん…キミのお祖母さんには本当にお世話になった、恩返しに孫のキミのお世話をするというのは悪い話ではないと思うけど」
そう言ったあと少し顔を赤らめて
「それにキミのことが好き…だから…」
普段のすみれさんからは想像できない可愛い表情だった。
「この家のしつらえをハルさんの家を参考にしてよく似た雰囲気にしたのもキミと過ごしたあの家を忘れたくなかったからだよ」
それほどまでに…そう言われて僕は言葉が出なかった
「人ではないわたしに分け隔てなく接してくれたキミの優しさにわたしは惚れた…それに夜の街で働いてはいてもキミ以外に心も身体も許してはいない!」
どうやら断る理由は無さそうだ…僕は黙ってすみれさんのそばへ行き、やさしく抱きしめた。
それからしばらくして、僕はすみれさんの家へ引っ越ししてふたりでの新しい生活が始まった。
すみれさんは相変わらず僕のことを「少年」と呼ぶ、もういい大人なんだから…と言ったが「わたしの中ではキミはあのころの少年のままなんだよ、あだ名だと思えばいいじゃない」と笑った。
すみれ、夜に咲く<了>
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