ちぃちゃんと僕

みやぢ

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ちとせ、13歳<1>

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この春、ちとせちゃんは6年生に進級した。
あいかわらず元気いっぱいだ。

地元でも遊び相手はたくさんできたみたいだけど、僕といる時間が一番楽しいらしい。

僕の休みの日に自分でバスと連絡船を乗り継いで、僕の家まで遊びに来るようになった。

お弁当もお母さんに手伝ってもらいながら自分で作れるようになったそうだ。

今日も二人で天城島が見渡せる公園へ遊びに来ている。

小高い丘の上のベンチでお弁当を広げていると微かな風切り音と同時に黒い影が二人の間を横切った、
「えっ?」
二人して驚きの声を上げていた、トンビがお弁当のおかずを攫っていったのだ。
「わーびっくりした…」
「大丈夫?怪我してない?」
「うん、大丈夫だけど…唐揚げ持ってかれちゃったね」
「あーあ…」
見上げると唐揚げを入れていたアルミカップがキラキラと光りながら落ちていった。
「きっと鳥さんもちぃちゃんのお弁当美味しそうだから食べたかったんだよ」
そう言って二人で笑った。

「はるかぜ光画部」に入ってから僕はちぃちゃんと会ったときに積極的に彼女の写真を撮っている。

写真展の作品作りというのもあるが、ご両親がちぃちゃんが生まれたばかりの頃にお店を始めたので小さい頃の写真がほとんどないそうだ。

だからせめて二人でいる時の記録を残しておきたかった。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
「今のわたし、きれいに撮れてる?」
「もちろんだよ」
「うれしいな」

二人でいる時間がとても大切に感じられる。

年末になり、僕は例の実演販売に駆り出されていた。

商店街に面した店頭で長机を並べてそこで実際に簡易印刷機でハガキを印刷してみせるのだ。

時間帯によっては黒山の人だかりになる。

わりと手軽な価格なので毎年結構な台数が売れるのだ。

準社員で働くようになってこの時期だけ倉庫勤務から外れるのだけど、特別に手当が出るようにしてくれている。

正社員と比べて賞与の少ない僕にはありがたかった。

クリスマス辺りは忙しくてちぃちゃんとはなかなか会えないのだがもう少し頑張ればお正月の休みだ。

最近は実家に寄るのもそこそこに天城島へ渡ってちぃちゃんの家で過ごすことが多く、初詣も島内の大きな神社へ一緒に行っている。

拝殿の前で二人で手を合わせてお参りした。

「なにお願いしたの?」
「内緒」
「ずるいなぁー」

何気ないやりとりでも幸せを感じる。

その時ちぃちゃんが唐突に言い出した。

「中学生になるの楽しみだなぁ、お兄ちゃん入学式に来てね!」

そういえばもうこの春には彼女は中学生だ。

「お兄ちゃんに制服姿見て欲しいから」
「わかったよ」
「絶対来てね!約束だよ!」

そう言って彼女は小指を差し出した。

僕は同じように指切りしたあの夏の終わりを思い出していた。




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