ちぃちゃんと僕

ちとせ、19歳＜１＞

ちとせと初めて結ばれた夜からしばらくして、僕たちは天城島のご両親の元を訪ねた。

近況の報告とちとせの今後の話をするためだった。

はるかさんとしばらく話をして、僕は一人でたけしさんの畑へ行った。

「よう！けんごくん、珍しいじゃないか一人でここへくるなんて」

たけしさんは明るく迎えてくれた。

「ちとせちゃんとのことでたけしさんにお話があって…」

「なんだ？喧嘩でもしたか？」

「いえ、そうじゃないんです、この先一緒に暮らしていくのにお父さんの意見を聞きたくて」

「そうか。でもな、ちとせをけんごくんに渡したあの時にもう口出しはしないと決めたんだ」

「それは…」

「ちとせのことはもう君に任せるということだ、親としてはちょっと寂しいけどな」

「そうですか、ありがとうございます」

「はじめはみんな手探りなんだよ、でもそれに正解なんてものはない、選んだこと全てを受け入れる、ただそれだけだよ」

たけしさんの言ってることはわかる。

生きていくことってそういうことなんだな。

「そうだ、けんごくん、もしよかったらこの畑手伝わないか？」

「えっ？」

「爺さんの代からの畑で機械化も進めたけど、さすがにしんどくてな、週末だけでもいいんだ、手伝ってくれると助かる、それに青空の下で体動かすと気晴らしになるしな」

「わかりました、ちとせちゃんと相談してみます」


こうして僕は時々週末にたけしさんの農場を手伝うようになった。



そしてちとせは高校三年生になった。

まわりの同級生が受験や就職活動で殺気立っていくなか、ちとせ自身も今後のことで悩んでいた。

卒業後にすぐ結婚して家庭に入るべきか、社会経験を少し積んだ方がいいのか…

まわりの同級生にとっては結婚はまだまだ先の話なのだが、ちとせにとってはすぐ目の前のことだ。

「お兄ちゃん、わたしどうしたらいいかわからない…」

僕はこの前のたけしさんの言葉をそのまま伝えた。

「お父さんにそう言われて僕は目が覚めたよ」

「うん、わかった頑張って考えてみる、だから…今は少しだけ甘えさせて」

そう言ってちとせは僕の隣に座って身体を預けてきた。

この先僕たちはどうすればいいんだろう、その答え探しはまだ深い霧の中だった。



そんなある日、僕は天城島と隣町を結んでいる高速バスが運行されているのを知った。

橋が架かってすぐに運行されていたのだけど利便性が高く隣町のターミナル駅から直接島へ行けるので人気があり、このたび大幅に増便されるそうだ。

調べてみると「さんらいず」のある街のバスターミナルからも出ている、所要時間も思ったより短くこれなら通勤にも使えそうだなと思った。

僕の頭の中にあることがひらめいた、だけどまだいくつかの問題がある、もうしばらく考えることにした。