29 / 36
ちとせ、19歳<3>
しおりを挟む
年が明けいよいよちとせの卒業が迫ってきた。
正月三ヶ日をちとせの実家で過ごしていた僕はちとせにある提案をした。
「天城島へ引っ越さないか?」
「どういうこと?」
「いろいろ考えたんだけど、これから僕たちが結婚して子供を育てるのにこの島はいい場所だと思うんだ」
「けんごさんのお仕事はどうするの?」
「高速バスを使えば支障ないよ、時間も今とそんなに変わらないし、交通費は会社から出るからね」
「うん、それは嬉しいけど…」
橋が開通してやがて10年になろうとしている、その間天城島は劇的に発展していた。
大きなショッピングモールができ、島を貫く国道沿いには全国チェーンの大きなお店が立ち並ぶようになって本土にいるのと変わらない生活が送れるようになってきていた。
それでいて今までの島の自然そのままの部分もまだたくさん残っていて、天真爛漫なちとせを育てた環境はまだ残ってると僕は思う。
「あとは住む場所さえ見つければ問題はないと思うんだ」
「そうね、けんごさんがそういうならわたしは反対しないよ」
賃貸住宅の相場を調べてみたが、橋が開通して以降多少は上がったらしいがそれでも僕の住んでいる朝日市に比べれば格安と言ってよかった。
そしてその話をたけしさんにすると、
「いいじゃない、住むところならいくらでもあるよ」と言われた。
話をよく聞くと「さんらいず」のお店がある一角はもともとたけしさんのお祖父さんが所有していた土地でその後たけしさんが相続したそうで、店舗付き住宅を建てて貸し出し、そのうちの一軒で「さんらいず」を始めたそうだ。
「任せてる不動産屋に聞いてみるけど、例の現像所だったところが確か空いてるはずだよ」
こうして最後の問題は意外な形で決着した。
そして3月、ちとせの高校の卒業式に僕はご両親と一緒に参列した。
年が明けて卒業式までのあいだ、ちとせはほぼフルタイムに近い形で「はるかぜ」で働いていた。
少しでも両親や僕に負担をかけたくない、彼女なりに気を使ったのだろう。
卒業証書を手に、満面の笑みで校舎からちとせが出てきた。
「ちとせ、卒業おめでとう」
「うん、ありがと」
少ししてりょうたろうくんも出てきた。
「りょうたろうくん、卒業おめでとう」
「けんごさん来てたんですね、ありがとうございます」
「4月から大学がんばってね」
「はい!」
こうしてちとせは無事に高校を卒業し、僕たちは晴れて入籍した。
結婚式はちとせの希望で6月に行うことにした、ジューンブライドというのもあるが、進学、就職した同級生たちの生活が落ち着いてからの方がいいと考えたのだ。
そして島への移住の準備も進んでいた。
アイランドフェスタの際の仮設の現像所だった場所、その後カフェが入居していたが、数年前に閉店してその後は空き物件になっていたそうだ。
たけしさんの同級生が営む不動産屋に委託していたのだけど、僕たちが住むことになったので住居として改装してもらうことになった。
改装費は僕が負担したのだが、どう考えても相場よりかなり安かった。
たけしさんの幼馴染だという不動産屋さんは「たけしの娘婿だからね、多少の無理は聞いてあげるよ」と笑っていた。
改装工事は結婚式の直前に終わる予定とのことだった。
正月三ヶ日をちとせの実家で過ごしていた僕はちとせにある提案をした。
「天城島へ引っ越さないか?」
「どういうこと?」
「いろいろ考えたんだけど、これから僕たちが結婚して子供を育てるのにこの島はいい場所だと思うんだ」
「けんごさんのお仕事はどうするの?」
「高速バスを使えば支障ないよ、時間も今とそんなに変わらないし、交通費は会社から出るからね」
「うん、それは嬉しいけど…」
橋が開通してやがて10年になろうとしている、その間天城島は劇的に発展していた。
大きなショッピングモールができ、島を貫く国道沿いには全国チェーンの大きなお店が立ち並ぶようになって本土にいるのと変わらない生活が送れるようになってきていた。
それでいて今までの島の自然そのままの部分もまだたくさん残っていて、天真爛漫なちとせを育てた環境はまだ残ってると僕は思う。
「あとは住む場所さえ見つければ問題はないと思うんだ」
「そうね、けんごさんがそういうならわたしは反対しないよ」
賃貸住宅の相場を調べてみたが、橋が開通して以降多少は上がったらしいがそれでも僕の住んでいる朝日市に比べれば格安と言ってよかった。
そしてその話をたけしさんにすると、
「いいじゃない、住むところならいくらでもあるよ」と言われた。
話をよく聞くと「さんらいず」のお店がある一角はもともとたけしさんのお祖父さんが所有していた土地でその後たけしさんが相続したそうで、店舗付き住宅を建てて貸し出し、そのうちの一軒で「さんらいず」を始めたそうだ。
「任せてる不動産屋に聞いてみるけど、例の現像所だったところが確か空いてるはずだよ」
こうして最後の問題は意外な形で決着した。
そして3月、ちとせの高校の卒業式に僕はご両親と一緒に参列した。
年が明けて卒業式までのあいだ、ちとせはほぼフルタイムに近い形で「はるかぜ」で働いていた。
少しでも両親や僕に負担をかけたくない、彼女なりに気を使ったのだろう。
卒業証書を手に、満面の笑みで校舎からちとせが出てきた。
「ちとせ、卒業おめでとう」
「うん、ありがと」
少ししてりょうたろうくんも出てきた。
「りょうたろうくん、卒業おめでとう」
「けんごさん来てたんですね、ありがとうございます」
「4月から大学がんばってね」
「はい!」
こうしてちとせは無事に高校を卒業し、僕たちは晴れて入籍した。
結婚式はちとせの希望で6月に行うことにした、ジューンブライドというのもあるが、進学、就職した同級生たちの生活が落ち着いてからの方がいいと考えたのだ。
そして島への移住の準備も進んでいた。
アイランドフェスタの際の仮設の現像所だった場所、その後カフェが入居していたが、数年前に閉店してその後は空き物件になっていたそうだ。
たけしさんの同級生が営む不動産屋に委託していたのだけど、僕たちが住むことになったので住居として改装してもらうことになった。
改装費は僕が負担したのだが、どう考えても相場よりかなり安かった。
たけしさんの幼馴染だという不動産屋さんは「たけしの娘婿だからね、多少の無理は聞いてあげるよ」と笑っていた。
改装工事は結婚式の直前に終わる予定とのことだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる