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【王様と賢者】
【王様と賢者】
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セイファート王国は恵みの季節を向かえたばかり。
寒く厳しい季節を家の中に閉じこもって過ごしていた人々も、穏やかな光に誘われて外に出ていた。
王都に響く陽気な喧騒も届かぬ王宮、謁見の間にて、国一番の大富豪と対面するセイファートの若き国王の横顔を見て、アルフレッドは眉間に皺を寄せた。決してやる気の無さがその表情に出ている分けではないのだが、何となく上の空の様だ。最も装う事の得意な王の心など、そう易々とは読めないのだけれども。
セイファート王の名はレイシスと言う。
亜麻色の髪に希有な黄金の瞳を持つ王は、大陸全土にすら名を知られる美丈夫であり、また、文武両道に優れた名君としても名高い。それは、まもなく成人を向かえる少年のアルフレッドから見ても、納得できる評価 であった。
アルフレッドの正式な地位は王宮書記官であるが、それは未だ彼が未成年であるが故で、実際は王の参謀的存在であり、成人し経験を積めば宰相に登り詰めるであろうと実しやかに囁かれている。
少年にすぎないアルフレッドが王の側近として迎えられたのは、彼が大陸中の知恵が集まると言われる学問都市リース=ハートにある賢者の学院を卒業して暫くたった頃。
難関である賢者の学院を卒業したといえど、年若いアルフレッドの言葉に耳を傾ける者は皆無に等しく、自分にはどうしようもない現実に葛藤するアルフレッドの前に現れたのがレイシスだった。
当時王太子にすらなっていなかったレイシスだったが、王位継承権を狙っていたらしく、側近になり得る才能ある者を自らの目で探していたらしい。
そうして見出されたアルフレッドは、彼が望んだように王の側近として仕えているのだが……
(心ここに非ずか)
大富豪が何か言う度にセイファート王は微笑を浮かべながら返答している。だから王の些細な様子の変化に気付いているのは、自分を含むごく近しい者だけだろう。
その証拠に、王の信任厚い将軍のうち一人が笑いを堪えるような微妙な表情をして いる。
(あぁ、そう言えば・・怒らせてしまったからか)
王のやる気の無さの原因に思いを馳せていたアルフレッドは、今朝の朝食風景を思い出した。
王の食卓に招かれるのは珍しくない。側近を招いての食事は、時として非公式の会議の場になる事もある。
(今日は痴話喧嘩の場だったけど)
若き王には掌中の玉の如き大切にしている姫君がいる。それは、彼が玉座を得るのに非常に重要な役割を担い、彼の情緒面にも劇的な変化をもたらした人物でもある。そんな掌中の玉のご機嫌を、王は今朝の食卓で損ねてしまったのだ。
(さっさ謁見を終わらせて、ご機嫌伺いに行きたいわけか....)
原因と王の望んでいる事に思い当たって、アルフレッドは誰にも気付かれぬように ように溜め息をつく。
名君と称されているくせに、つまらない事を言って毎回掌中の玉の機嫌を損ねる王 に飽きれと、そんな王の子供っぽさに振り回されているかの姫君に同情を含めて。
「アルフレッド」
ふいに密やかな声が小さく己を呼ぶ。
視線を上げると、王が指先でこちらに来るように促しているのが見えた。
王の知恵として、将来宰相の地位を約束されているアルフレッドがこうして王に発言を求められる事は多く、その場に居合わせた者たちも特に不信がる様子もない。アルフレッド自身も何やら尋ねられるのか、とやや気を引き締めて、王の傍らに進む。
しかし、アルフレッドの耳に聞こえたのは、大富豪が訴えてきた件についての質問ではなくて意見を求めるものであった。 それも、彼の予想を遙かに越えるもので……
「彼が寄越した貢ぎ物の中に良い石があったのだが……あぁ、あの蒼い宝石だ。あの石で首飾りでも作って贈ればアレの機嫌は直るか?」
アルフレッドは己の眉間に刻まれた殻が深くなるのを自覚しながら、賢者の学院を卒業したその優秀な頭脳を以てして弾き出した答えを小声で王に伝えた。
「陛下・・・残念ですが、僕には分かりかねます」
fin.
寒く厳しい季節を家の中に閉じこもって過ごしていた人々も、穏やかな光に誘われて外に出ていた。
王都に響く陽気な喧騒も届かぬ王宮、謁見の間にて、国一番の大富豪と対面するセイファートの若き国王の横顔を見て、アルフレッドは眉間に皺を寄せた。決してやる気の無さがその表情に出ている分けではないのだが、何となく上の空の様だ。最も装う事の得意な王の心など、そう易々とは読めないのだけれども。
セイファート王の名はレイシスと言う。
亜麻色の髪に希有な黄金の瞳を持つ王は、大陸全土にすら名を知られる美丈夫であり、また、文武両道に優れた名君としても名高い。それは、まもなく成人を向かえる少年のアルフレッドから見ても、納得できる評価 であった。
アルフレッドの正式な地位は王宮書記官であるが、それは未だ彼が未成年であるが故で、実際は王の参謀的存在であり、成人し経験を積めば宰相に登り詰めるであろうと実しやかに囁かれている。
少年にすぎないアルフレッドが王の側近として迎えられたのは、彼が大陸中の知恵が集まると言われる学問都市リース=ハートにある賢者の学院を卒業して暫くたった頃。
難関である賢者の学院を卒業したといえど、年若いアルフレッドの言葉に耳を傾ける者は皆無に等しく、自分にはどうしようもない現実に葛藤するアルフレッドの前に現れたのがレイシスだった。
当時王太子にすらなっていなかったレイシスだったが、王位継承権を狙っていたらしく、側近になり得る才能ある者を自らの目で探していたらしい。
そうして見出されたアルフレッドは、彼が望んだように王の側近として仕えているのだが……
(心ここに非ずか)
大富豪が何か言う度にセイファート王は微笑を浮かべながら返答している。だから王の些細な様子の変化に気付いているのは、自分を含むごく近しい者だけだろう。
その証拠に、王の信任厚い将軍のうち一人が笑いを堪えるような微妙な表情をして いる。
(あぁ、そう言えば・・怒らせてしまったからか)
王のやる気の無さの原因に思いを馳せていたアルフレッドは、今朝の朝食風景を思い出した。
王の食卓に招かれるのは珍しくない。側近を招いての食事は、時として非公式の会議の場になる事もある。
(今日は痴話喧嘩の場だったけど)
若き王には掌中の玉の如き大切にしている姫君がいる。それは、彼が玉座を得るのに非常に重要な役割を担い、彼の情緒面にも劇的な変化をもたらした人物でもある。そんな掌中の玉のご機嫌を、王は今朝の食卓で損ねてしまったのだ。
(さっさ謁見を終わらせて、ご機嫌伺いに行きたいわけか....)
原因と王の望んでいる事に思い当たって、アルフレッドは誰にも気付かれぬように ように溜め息をつく。
名君と称されているくせに、つまらない事を言って毎回掌中の玉の機嫌を損ねる王 に飽きれと、そんな王の子供っぽさに振り回されているかの姫君に同情を含めて。
「アルフレッド」
ふいに密やかな声が小さく己を呼ぶ。
視線を上げると、王が指先でこちらに来るように促しているのが見えた。
王の知恵として、将来宰相の地位を約束されているアルフレッドがこうして王に発言を求められる事は多く、その場に居合わせた者たちも特に不信がる様子もない。アルフレッド自身も何やら尋ねられるのか、とやや気を引き締めて、王の傍らに進む。
しかし、アルフレッドの耳に聞こえたのは、大富豪が訴えてきた件についての質問ではなくて意見を求めるものであった。 それも、彼の予想を遙かに越えるもので……
「彼が寄越した貢ぎ物の中に良い石があったのだが……あぁ、あの蒼い宝石だ。あの石で首飾りでも作って贈ればアレの機嫌は直るか?」
アルフレッドは己の眉間に刻まれた殻が深くなるのを自覚しながら、賢者の学院を卒業したその優秀な頭脳を以てして弾き出した答えを小声で王に伝えた。
「陛下・・・残念ですが、僕には分かりかねます」
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