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【王様と将軍】
【王様と将軍】
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セイファートの若き王の側近の内、軍人であるのはデュークとゼルダの二人である。 二人はセイファートの双璧と呼ばれる、優秀な剣の使い手であり、また指揮官でも あった。
その二人の将軍が同席した謁見も早々と終了し、場所は王宮にある王の執務室へと 移された。
「さて、どうしたものか……」
侍従を努める王の乳兄弟が淹れた冷たい紅茶を飲み、何やら深刻そうに考え込む王の姿があるが、その傍らで年若い未来の宰相殿が溜め息を濃くしたところを見ると、どうやら国の行く末を左右するような問題ではないようだ。
「陛下。何やらお考えの様ですが、何かありましたの?」
どこか憂いを含んだ王の呟きに労るような声音で応じたのは、セイファートの戦女神とさえ言われる女将軍ゼルダである。
途端に労る必要などなし、と言わんばかりの視線を寄越すアルフレッドに気付いたデュークは口を閉じ、事の成り行きを見守ることにした。王の乳兄弟もどこか不安そうに見守っている。
「わたくしでよければお聞きいたしますわ」
戦場に置いては容赦なく敵を切り捨てる彼女だが、剣を持たぬ時は母のような慈しみを持つ穏やかな女性であった。
万人の目がなく近しい者しかいない時、 ゼルダは王に対して姉のように接する事があるが、今回もそうであるらしく、王を悩ます原因を取り除こうと言う気遣いが伺える。
「あぁ……アレの機嫌をどう直すか考えていたのだが」
アレとはあの子供の事か、とデュークは一人納得する。
そういえば、朝食の席で王が余計な事を言って子供の機嫌を損ねていた事を彼は思い出した。
そうでしたの、と王の言葉に応じたゼルダもその事に思い当たったらしく、長く波打つ髪を揺らしながら苦笑している。
アレ、と王が言った子供は、ただの子供ではない。 精霊の子である。
人形をとるのは力の強い上位精霊だけだ、と少年のくせに大人顔負けの知識を持つ王宮書記官が言っていたから、益々ただの子供ではないわけだが……。
(この王様を振り回せるんだから、大した子供だよ)
もっとも、人間と精霊では流れる時間が違うのだから、子供が本当に外見通りの子供であるかは謎である。
「先程の富豪が審越した宝石で装飾品でも作って贈ろうかと思ったのだが、アルフレ ッドがそれで機嫌が直るかわかるぬと言う……」
(って、謁見の最中にそんな事聞いてたのか)
吐息交じりの声はこの王に憧れる国中のお嬢様方が聞いたなら頬を染めうっとりする事間違い無し、と思われるほど甘いものであったが、長く仕えている彼らにはその 威力は発揮されない。
ただ、側近としてはまだ年数が浅く、人生経験もまだまだなアルフレッドはどうしたものか、と困り顔をしているが。
その表情も、もしかしたら王の発言に対するものかもしれない、とデュークは密かに思う。
「ゼルダ、デューク。お前達はどう考える?」
黄金の瞳がジッとこちらを見つめてくるのを正面から受けたデュークは一瞬たじろいだが、すぐに持ち直しの求める答えを探し始める。
「え~と……俺としては、微妙かと思います。あのお姫様が物で釣られたとこ見たところないですし」
実際、あの子供が贈り物に礼を言えども心動かすところを見たことのない王は、神妙な顔をして頷いた。
先程の見なんかよりも真剣な様子に、傍らの少年が親を引きつらせたが、デュークは触らぬ神に祟り無し、と言わんばかりに視線を逸らす。
修羅場は戦場だけで十分だ。
「陛下、贈り物に最適なものがありますわ」
「それは何だ?」
にこりと綺麗な微笑みを浮かべた戦女神は、駄々っ子を愉す様な柔らかい口調でもって中の玉に対してはどこか情けない態度しか取れない不器用な王に告げると、本人は直ぐ食いついてきた。
彼女の答えを聞き逃すまい、と耳を澄ましているのは何も王だけではない。ここにいる者たち全員が戦女神が導き出した子供の機の取り方を、固唾を飲んで待っている。
「陛下の誠意ある謝罪、ですわ。悪いことをしたのなら謝らなくては」
ご尤も、である。
fin.
その二人の将軍が同席した謁見も早々と終了し、場所は王宮にある王の執務室へと 移された。
「さて、どうしたものか……」
侍従を努める王の乳兄弟が淹れた冷たい紅茶を飲み、何やら深刻そうに考え込む王の姿があるが、その傍らで年若い未来の宰相殿が溜め息を濃くしたところを見ると、どうやら国の行く末を左右するような問題ではないようだ。
「陛下。何やらお考えの様ですが、何かありましたの?」
どこか憂いを含んだ王の呟きに労るような声音で応じたのは、セイファートの戦女神とさえ言われる女将軍ゼルダである。
途端に労る必要などなし、と言わんばかりの視線を寄越すアルフレッドに気付いたデュークは口を閉じ、事の成り行きを見守ることにした。王の乳兄弟もどこか不安そうに見守っている。
「わたくしでよければお聞きいたしますわ」
戦場に置いては容赦なく敵を切り捨てる彼女だが、剣を持たぬ時は母のような慈しみを持つ穏やかな女性であった。
万人の目がなく近しい者しかいない時、 ゼルダは王に対して姉のように接する事があるが、今回もそうであるらしく、王を悩ます原因を取り除こうと言う気遣いが伺える。
「あぁ……アレの機嫌をどう直すか考えていたのだが」
アレとはあの子供の事か、とデュークは一人納得する。
そういえば、朝食の席で王が余計な事を言って子供の機嫌を損ねていた事を彼は思い出した。
そうでしたの、と王の言葉に応じたゼルダもその事に思い当たったらしく、長く波打つ髪を揺らしながら苦笑している。
アレ、と王が言った子供は、ただの子供ではない。 精霊の子である。
人形をとるのは力の強い上位精霊だけだ、と少年のくせに大人顔負けの知識を持つ王宮書記官が言っていたから、益々ただの子供ではないわけだが……。
(この王様を振り回せるんだから、大した子供だよ)
もっとも、人間と精霊では流れる時間が違うのだから、子供が本当に外見通りの子供であるかは謎である。
「先程の富豪が審越した宝石で装飾品でも作って贈ろうかと思ったのだが、アルフレ ッドがそれで機嫌が直るかわかるぬと言う……」
(って、謁見の最中にそんな事聞いてたのか)
吐息交じりの声はこの王に憧れる国中のお嬢様方が聞いたなら頬を染めうっとりする事間違い無し、と思われるほど甘いものであったが、長く仕えている彼らにはその 威力は発揮されない。
ただ、側近としてはまだ年数が浅く、人生経験もまだまだなアルフレッドはどうしたものか、と困り顔をしているが。
その表情も、もしかしたら王の発言に対するものかもしれない、とデュークは密かに思う。
「ゼルダ、デューク。お前達はどう考える?」
黄金の瞳がジッとこちらを見つめてくるのを正面から受けたデュークは一瞬たじろいだが、すぐに持ち直しの求める答えを探し始める。
「え~と……俺としては、微妙かと思います。あのお姫様が物で釣られたとこ見たところないですし」
実際、あの子供が贈り物に礼を言えども心動かすところを見たことのない王は、神妙な顔をして頷いた。
先程の見なんかよりも真剣な様子に、傍らの少年が親を引きつらせたが、デュークは触らぬ神に祟り無し、と言わんばかりに視線を逸らす。
修羅場は戦場だけで十分だ。
「陛下、贈り物に最適なものがありますわ」
「それは何だ?」
にこりと綺麗な微笑みを浮かべた戦女神は、駄々っ子を愉す様な柔らかい口調でもって中の玉に対してはどこか情けない態度しか取れない不器用な王に告げると、本人は直ぐ食いついてきた。
彼女の答えを聞き逃すまい、と耳を澄ましているのは何も王だけではない。ここにいる者たち全員が戦女神が導き出した子供の機の取り方を、固唾を飲んで待っている。
「陛下の誠意ある謝罪、ですわ。悪いことをしたのなら謝らなくては」
ご尤も、である。
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