空中庭園

鈴木唯里

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【王様と侍従】

【王様と侍従】

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「誠意ある謝罪、か……ふむ」

 一通りの執務を終えたレイシスが己の乳兄弟であり侍従のキールを伴い、王宮の最も奥まった位置にある私室に戻ったのは、丁度昼食と夕食の間の時間帯。

「悪かった、と普通に謝れば宜しいかと思いますが?」

 アフタヌーンティの準備をしながらキールは思慮深げな表情で呟く王に苦笑する。兄君を蹴落としてでも玉座を手に入れる、と覚悟を決めた時と同じ位に真剣な面持ちの王は、恐らくは不安なのだろう。

「口を聞いてくれなかったんだぞ?そんな状態で謝罪を受け入れてくれるか……」

 ならば余計なことなど言わなければ良いのに、あの姫君に対して何故か大人げなく接する王は、好きな子にわざと意地悪をする小さな少年と変わらない。
 それでも。眉をひそめどうしたものかと悩む王を見て、キールはなかなか良い傾向だと思っている。
玉座を得ることばかりに気を取られて張り詰めていたあの頃よりも、かの姫に振り回されている今の方が、王に余裕があるのだから。心に余裕がある王の心中は察しやすく、侍従であるキールにとっては非常に補佐しやすい状況とも言えよう。
 そもそも幼い頃より王族としての教育を受けてきた我等が陛下は、感情のコントロ ールに長けた人物であり、その心の動きは限られた者のみが知るものであった。
 王に仕えて日の浅い未来の宰相殿はある程度までだが、二人の将軍閣下はそれなりに深く読んでいるようだ。
 そのなかでも、王の心中を察するのに長けているのは、乳兄弟として幼い頃より行動を共にしてきた自分である、とキールは自負している。

(だからこそ、陛下の不安を感じられたわけだけど……)

 その不安を取り除くのは、自分の役割ではない。 王を悩ませている張本人にしか出来ないことなのだから。

「陛下。姫様が陛下のお言葉をお聞きにならなかった事などありませんよ」

 そう、あの姫君が自ら選んだ王の言葉に耳を傾けなかった事など、一度もない。
 セイファートは精霊の恵みに守護された国。
 何故なら、国の要たる王家の人間には必ず、守護精霊がつくから。
 セイファートの王位継承権はその守護精霊の強さで左右される。
 つまり、王族の中で最も強い精霊に加護された者が玉座を得ることが出来るのだ。
 レイシス王の守護精霊は、自然界を構成していると言われる地・水・火・風の四大精霊よりも遙かに上位にある、光の精霊。
 滅多に属する精霊界を出る事がない光の精霊の加護を得たレイシスは、最も玉座か王子とされていたが、王位を得る事ができた。

「どんな些細な事でも陛下のお言葉だからこそ、姫様はお聞きになる。だから、今朝 だって……陛下の仰ったことだから姫様はお怒りになったのでしょう」

 レイシスに玉座を、そう言ってこの国で人間界で生きていく事を決めた 姫君の声と真っ直ぐな瞳をキールは今でも覚えている。
 その言葉の重みと共に……

「口を聞いてくださらなかったのは、意地悪な陛下への仕返しですよ、きっと」

 幼い頃と変わらない、宥めるような口調で話すキールを見つめていた王は一度大きく息を吐き出すと、その亜麻色の髪をぐちゃぐちゃに掻き回した。

「まったく……情けないな、俺は。 アレに甘えてばかりだ」

 ぶっきらぼうに言うと、王は腰掛けていた椅子に深く体を預ける。どうやら、うまくできない自分に苛立っているらしく、キールが差し出したティーカップを乱暴な手付きで受け取り、口を付けた。

(昔はこんな風に八つ当たりする陛下なんて、見る事なかったなぁ)

 かの姫君の効果は素晴らしいものだ、とキールが再確認していると、セイファートの若き王は椅子から立ち上がり、少しだけ足早に扉へと向かう。

「陛下、どちらに?」

 答えなど分かりきっているが、キールは尋ねる。 侍従としての嗜みだ。
 苛立っているらしい王の気を逆撫でしないように、笑いの形に歪もうとする顔を必死に持ち直すのも、また然り。
 それでも、やはり王の心の変化を喜ぶキールは、穏やかな微笑みが浮かぶのを止められない。

「エリカの元へ」


 まるで戦いに赴くかの如く悲壮な表情をした主を、笑みを修め神妙な面持ちをしたキールが一礼
し、激励と共に送り出す。

「御武運をお祈り致します、陛下」



fin.
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