異世界転生したので念願の魔法使いになるぞ! けれど現実は……甘くなかった。いや、こうじゃないだろう……

踊りまんぼう

文字の大きさ
4 / 11

第四話:魔力霧散(魔力循環ストップ)との格闘

しおりを挟む
第四話:魔力霧散(魔力循環ストップ)との格闘


「初動の鼓動……緩やかに魔力は沸き起こり力の流転を始めたり……」

 基本座学を終えて、実技と座学を両方授業で受け始める。
 今日は、まずは魔力の練りこみだ。

 教習所の汎用杖を用いて、まずは魔法を使うための基本中の基本、予備詠唱を開始する。
 正直、手探りの感覚で魔法使いへの第一歩を踏み出した。

 前世では魔力なんて概念自体がなかったのだから、感覚としてぴんとこない。
 けれど、杖を持って予備詠唱を開始すると、何となく身体が高揚し、理解してくる。

 やはりスペルを詠唱してこその魔法使いの真髄だと思っていたのだが、現実はそう甘くなかった。
 車のエンストのように、せっかく杖に込めた魔力が循環を止め、霧散してしまう『魔力循環ストップ』を何度も起こしてしまっていたのだ。

「もっと集中しろっ!!」

 最初のうちは、初めてならこんなものだと苦笑いだった教官の顔がだんだん引きつったものになっていく。

「は、はいっ」

「まごつくな、返事も乱れているぞ」

「はいっ!」

 返事だけは、何とか元気を取り繕う。
 そして杖に魔力を込めて集中していく。
 予備詠唱の言葉が暗証できるほどしっかりと身についていないので、魔力を杖の機構にめぐらすよりも、言葉を思い出すことに気を取られてしまう。
 頭の中では「ファイヤーボール!」と叫びたいのに、口から出るのは「えーと、あの……」といった情けない声だ。

「あっ」

 そうなるとどうしても集中が途切れ、予備詠唱の循環が途切れ、せっかく込めた魔力が杖から飛び出して霧散してしまう。
 これは反復練習で習うより慣れろ、ということなのだろう。

 だからこそ、慣れて意識せずとも予備詠唱ができるようになれば、前後不覚や酩酊状態でも詠唱してしまい、大惨事を引き起こすこともあるのだろう。

 ……つい余計なことまで考えてしまうのが、駄目なのだろうな。

「カズ! まだ慣れないのか!?」

 実技講師は騎士団所属の女性騎士で、雑念に囚われていた私を厳しく叱責してきた。

「すみません!」

 謝りつつも、気を引き締めて課題と向き合う。
 彼女は腕組みをして、冷徹な視線で私の未熟な詠唱動作を観察していた。

「予備詠唱は詠唱の中でも特に重要だ。魔法の発現にも関わるし、何より杖内での魔力循環に影響する。これを怠ると魔力が上手く杖内をめぐらずに魔法がうまく発現できない。魔法がうまく発現できなければ、即ち魔物などの脅威を前にしても満足に反撃も出来ないということだ。良いか、予備詠唱は魔法における『起動シーケンス』だ。これを間違えれば、魔法は正しく発動しない。敵を前にして棒立ちでは、死あるのみだぞ」

 教官は淡々と予備詠唱の重要さを口にするが、その言葉一つ一つが、実感と真剣さに満ちていて、いっそう私に緊張を強いてきた。

 けれど、魔物が居てダンジョンがあるこの世界においては、そんな厳しさはむしろ優しさなのだろう。

 教官の言っていることに間違いはないのだ。

 確かにそうだ。魔法使いはしっかりと発動した時はその魔法の威力に脅威を感じるけれど、魔法を放てなければただの人。
 いや場合によってはただの人以下なのだから。

 どんなに凄い魔法が使えても、肝心なところで発動できなければ意味を成さない。
 ドラゴンさえ一撃で屠る魔法を唱えられても、実際にドラゴンを前に怯え、詠唱できなければ、それはただの塵芥と変わらない。

「特に始めたばかりの初心者は仕方ないが、どうしても上手くいかなければ、オートマ杖への変更も考えた方がいいかもしれない。いまは便利なものがあるからな。無理に難易度の高い詠唱にこだわる必要はない。ただ、オートマ杖は万が一のトラブル時に自分で対処できる範囲が狭まる可能性もある。一長一短だ」

 オートマ杖は、詳しい仕組みは分からないが、この予備詠唱のプロセスを杖の機構として取り込んでいるらしい。
 魔力の練りこみのタイミングとか、通常より大分遅いが、いちいち口にしなくても魔力がぐるぐると巡って加速してゆくので、非常に楽だということは解る。

 それでも、である。
 せっかくの異世界なのだから、ロマンを追い求めてもばちは当たるまい。
 格好良く詠唱してこそ魔法使いである。
 ということで、教官のアドバイスには感謝するものの、首を横に振る。

「ならもっと練習することだ。ベテランになると自然と予備詠唱の文言が口から零れてくるそうだぞ」

「はい」

 結局、初日は練習だけで終わってしまった。
 それが悔しくて、次の講義までにはしっかり覚えてやろうと、授業が終わってからも繰り返し反復練習に励んだ。
 その甲斐あってか、次の授業の時には、予備詠唱第一段階で魔力ストを必ず起こすという状態からは脱していた。


「ふむ、随分と練習してきたようだな。初動がうまくいったら第二予備詠唱に移行する。上手くつながないといけないからここは初動詠唱以上に慣れが必要だ。循環魔力の速度が早くなり、量も増えるので今まで以上に集中が必要だ。ここをスムースに繋がないと、魔力の流れが滞り、魔法の質が落ちるからな」

 杖内部の魔力の巡りを見つつ、うまく予備詠唱第二段階へと繋いでいく。

 この繋ぎを間違うと杖が光ったり、ブルブルと内部で暴れた魔力によって杖が振動したりする。
 その失敗で込めた魔力が総て霧散しなかったとしても、結局驚きで集中を切らして失敗したりしてなかなか難しい。
 ギアの繋ぎを間違えて『ギャリギャリ』と音を立て、思わず『うわっ』となるのと同じ感覚だ。

 だからこそ、スムースな詠唱移行に慣れないといけない。
 何より中級魔法以上に必要な魔力量や流速が初動詠唱だけでは満たせないからだ。
 魔力量を込めるのだけなら、初動詠唱でも力技でいけるかもしれないが……十分に練られた魔力で、本詠唱による魔法行使という流れが本筋であるから、決しておろそかにできない。

「……さてと、今日もがんばりますか」

 講習所に来てから数日。順調といえば順調である。
 私の頭の中では、教官の「はい、そこ! スムーズに! スムーズに!」という声がエンドレスリピートされていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...