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第四話:魔力霧散(魔力循環ストップ)との格闘
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第四話:魔力霧散(魔力循環ストップ)との格闘
「初動の鼓動……緩やかに魔力は沸き起こり力の流転を始めたり……」
基本座学を終えて、実技と座学を両方授業で受け始める。
今日は、まずは魔力の練りこみだ。
教習所の汎用杖を用いて、まずは魔法を使うための基本中の基本、予備詠唱を開始する。
正直、手探りの感覚で魔法使いへの第一歩を踏み出した。
前世では魔力なんて概念自体がなかったのだから、感覚としてぴんとこない。
けれど、杖を持って予備詠唱を開始すると、何となく身体が高揚し、理解してくる。
やはりスペルを詠唱してこその魔法使いの真髄だと思っていたのだが、現実はそう甘くなかった。
車のエンストのように、せっかく杖に込めた魔力が循環を止め、霧散してしまう『魔力循環ストップ』を何度も起こしてしまっていたのだ。
「もっと集中しろっ!!」
最初のうちは、初めてならこんなものだと苦笑いだった教官の顔がだんだん引きつったものになっていく。
「は、はいっ」
「まごつくな、返事も乱れているぞ」
「はいっ!」
返事だけは、何とか元気を取り繕う。
そして杖に魔力を込めて集中していく。
予備詠唱の言葉が暗証できるほどしっかりと身についていないので、魔力を杖の機構にめぐらすよりも、言葉を思い出すことに気を取られてしまう。
頭の中では「ファイヤーボール!」と叫びたいのに、口から出るのは「えーと、あの……」といった情けない声だ。
「あっ」
そうなるとどうしても集中が途切れ、予備詠唱の循環が途切れ、せっかく込めた魔力が杖から飛び出して霧散してしまう。
これは反復練習で習うより慣れろ、ということなのだろう。
だからこそ、慣れて意識せずとも予備詠唱ができるようになれば、前後不覚や酩酊状態でも詠唱してしまい、大惨事を引き起こすこともあるのだろう。
……つい余計なことまで考えてしまうのが、駄目なのだろうな。
「カズ! まだ慣れないのか!?」
実技講師は騎士団所属の女性騎士で、雑念に囚われていた私を厳しく叱責してきた。
「すみません!」
謝りつつも、気を引き締めて課題と向き合う。
彼女は腕組みをして、冷徹な視線で私の未熟な詠唱動作を観察していた。
「予備詠唱は詠唱の中でも特に重要だ。魔法の発現にも関わるし、何より杖内での魔力循環に影響する。これを怠ると魔力が上手く杖内をめぐらずに魔法がうまく発現できない。魔法がうまく発現できなければ、即ち魔物などの脅威を前にしても満足に反撃も出来ないということだ。良いか、予備詠唱は魔法における『起動シーケンス』だ。これを間違えれば、魔法は正しく発動しない。敵を前にして棒立ちでは、死あるのみだぞ」
教官は淡々と予備詠唱の重要さを口にするが、その言葉一つ一つが、実感と真剣さに満ちていて、いっそう私に緊張を強いてきた。
けれど、魔物が居てダンジョンがあるこの世界においては、そんな厳しさはむしろ優しさなのだろう。
教官の言っていることに間違いはないのだ。
確かにそうだ。魔法使いはしっかりと発動した時はその魔法の威力に脅威を感じるけれど、魔法を放てなければただの人。
いや場合によってはただの人以下なのだから。
どんなに凄い魔法が使えても、肝心なところで発動できなければ意味を成さない。
ドラゴンさえ一撃で屠る魔法を唱えられても、実際にドラゴンを前に怯え、詠唱できなければ、それはただの塵芥と変わらない。
「特に始めたばかりの初心者は仕方ないが、どうしても上手くいかなければ、オートマ杖への変更も考えた方がいいかもしれない。いまは便利なものがあるからな。無理に難易度の高い詠唱にこだわる必要はない。ただ、オートマ杖は万が一のトラブル時に自分で対処できる範囲が狭まる可能性もある。一長一短だ」
オートマ杖は、詳しい仕組みは分からないが、この予備詠唱のプロセスを杖の機構として取り込んでいるらしい。
魔力の練りこみのタイミングとか、通常より大分遅いが、いちいち口にしなくても魔力がぐるぐると巡って加速してゆくので、非常に楽だということは解る。
それでも、である。
せっかくの異世界なのだから、ロマンを追い求めてもばちは当たるまい。
格好良く詠唱してこそ魔法使いである。
ということで、教官のアドバイスには感謝するものの、首を横に振る。
「ならもっと練習することだ。ベテランになると自然と予備詠唱の文言が口から零れてくるそうだぞ」
「はい」
結局、初日は練習だけで終わってしまった。
それが悔しくて、次の講義までにはしっかり覚えてやろうと、授業が終わってからも繰り返し反復練習に励んだ。
その甲斐あってか、次の授業の時には、予備詠唱第一段階で魔力ストを必ず起こすという状態からは脱していた。
「ふむ、随分と練習してきたようだな。初動がうまくいったら第二予備詠唱に移行する。上手くつながないといけないからここは初動詠唱以上に慣れが必要だ。循環魔力の速度が早くなり、量も増えるので今まで以上に集中が必要だ。ここをスムースに繋がないと、魔力の流れが滞り、魔法の質が落ちるからな」
杖内部の魔力の巡りを見つつ、うまく予備詠唱第二段階へと繋いでいく。
この繋ぎを間違うと杖が光ったり、ブルブルと内部で暴れた魔力によって杖が振動したりする。
その失敗で込めた魔力が総て霧散しなかったとしても、結局驚きで集中を切らして失敗したりしてなかなか難しい。
ギアの繋ぎを間違えて『ギャリギャリ』と音を立て、思わず『うわっ』となるのと同じ感覚だ。
だからこそ、スムースな詠唱移行に慣れないといけない。
何より中級魔法以上に必要な魔力量や流速が初動詠唱だけでは満たせないからだ。
魔力量を込めるのだけなら、初動詠唱でも力技でいけるかもしれないが……十分に練られた魔力で、本詠唱による魔法行使という流れが本筋であるから、決しておろそかにできない。
「……さてと、今日もがんばりますか」
講習所に来てから数日。順調といえば順調である。
私の頭の中では、教官の「はい、そこ! スムーズに! スムーズに!」という声がエンドレスリピートされていた。
「初動の鼓動……緩やかに魔力は沸き起こり力の流転を始めたり……」
基本座学を終えて、実技と座学を両方授業で受け始める。
今日は、まずは魔力の練りこみだ。
教習所の汎用杖を用いて、まずは魔法を使うための基本中の基本、予備詠唱を開始する。
正直、手探りの感覚で魔法使いへの第一歩を踏み出した。
前世では魔力なんて概念自体がなかったのだから、感覚としてぴんとこない。
けれど、杖を持って予備詠唱を開始すると、何となく身体が高揚し、理解してくる。
やはりスペルを詠唱してこその魔法使いの真髄だと思っていたのだが、現実はそう甘くなかった。
車のエンストのように、せっかく杖に込めた魔力が循環を止め、霧散してしまう『魔力循環ストップ』を何度も起こしてしまっていたのだ。
「もっと集中しろっ!!」
最初のうちは、初めてならこんなものだと苦笑いだった教官の顔がだんだん引きつったものになっていく。
「は、はいっ」
「まごつくな、返事も乱れているぞ」
「はいっ!」
返事だけは、何とか元気を取り繕う。
そして杖に魔力を込めて集中していく。
予備詠唱の言葉が暗証できるほどしっかりと身についていないので、魔力を杖の機構にめぐらすよりも、言葉を思い出すことに気を取られてしまう。
頭の中では「ファイヤーボール!」と叫びたいのに、口から出るのは「えーと、あの……」といった情けない声だ。
「あっ」
そうなるとどうしても集中が途切れ、予備詠唱の循環が途切れ、せっかく込めた魔力が杖から飛び出して霧散してしまう。
これは反復練習で習うより慣れろ、ということなのだろう。
だからこそ、慣れて意識せずとも予備詠唱ができるようになれば、前後不覚や酩酊状態でも詠唱してしまい、大惨事を引き起こすこともあるのだろう。
……つい余計なことまで考えてしまうのが、駄目なのだろうな。
「カズ! まだ慣れないのか!?」
実技講師は騎士団所属の女性騎士で、雑念に囚われていた私を厳しく叱責してきた。
「すみません!」
謝りつつも、気を引き締めて課題と向き合う。
彼女は腕組みをして、冷徹な視線で私の未熟な詠唱動作を観察していた。
「予備詠唱は詠唱の中でも特に重要だ。魔法の発現にも関わるし、何より杖内での魔力循環に影響する。これを怠ると魔力が上手く杖内をめぐらずに魔法がうまく発現できない。魔法がうまく発現できなければ、即ち魔物などの脅威を前にしても満足に反撃も出来ないということだ。良いか、予備詠唱は魔法における『起動シーケンス』だ。これを間違えれば、魔法は正しく発動しない。敵を前にして棒立ちでは、死あるのみだぞ」
教官は淡々と予備詠唱の重要さを口にするが、その言葉一つ一つが、実感と真剣さに満ちていて、いっそう私に緊張を強いてきた。
けれど、魔物が居てダンジョンがあるこの世界においては、そんな厳しさはむしろ優しさなのだろう。
教官の言っていることに間違いはないのだ。
確かにそうだ。魔法使いはしっかりと発動した時はその魔法の威力に脅威を感じるけれど、魔法を放てなければただの人。
いや場合によってはただの人以下なのだから。
どんなに凄い魔法が使えても、肝心なところで発動できなければ意味を成さない。
ドラゴンさえ一撃で屠る魔法を唱えられても、実際にドラゴンを前に怯え、詠唱できなければ、それはただの塵芥と変わらない。
「特に始めたばかりの初心者は仕方ないが、どうしても上手くいかなければ、オートマ杖への変更も考えた方がいいかもしれない。いまは便利なものがあるからな。無理に難易度の高い詠唱にこだわる必要はない。ただ、オートマ杖は万が一のトラブル時に自分で対処できる範囲が狭まる可能性もある。一長一短だ」
オートマ杖は、詳しい仕組みは分からないが、この予備詠唱のプロセスを杖の機構として取り込んでいるらしい。
魔力の練りこみのタイミングとか、通常より大分遅いが、いちいち口にしなくても魔力がぐるぐると巡って加速してゆくので、非常に楽だということは解る。
それでも、である。
せっかくの異世界なのだから、ロマンを追い求めてもばちは当たるまい。
格好良く詠唱してこそ魔法使いである。
ということで、教官のアドバイスには感謝するものの、首を横に振る。
「ならもっと練習することだ。ベテランになると自然と予備詠唱の文言が口から零れてくるそうだぞ」
「はい」
結局、初日は練習だけで終わってしまった。
それが悔しくて、次の講義までにはしっかり覚えてやろうと、授業が終わってからも繰り返し反復練習に励んだ。
その甲斐あってか、次の授業の時には、予備詠唱第一段階で魔力ストを必ず起こすという状態からは脱していた。
「ふむ、随分と練習してきたようだな。初動がうまくいったら第二予備詠唱に移行する。上手くつながないといけないからここは初動詠唱以上に慣れが必要だ。循環魔力の速度が早くなり、量も増えるので今まで以上に集中が必要だ。ここをスムースに繋がないと、魔力の流れが滞り、魔法の質が落ちるからな」
杖内部の魔力の巡りを見つつ、うまく予備詠唱第二段階へと繋いでいく。
この繋ぎを間違うと杖が光ったり、ブルブルと内部で暴れた魔力によって杖が振動したりする。
その失敗で込めた魔力が総て霧散しなかったとしても、結局驚きで集中を切らして失敗したりしてなかなか難しい。
ギアの繋ぎを間違えて『ギャリギャリ』と音を立て、思わず『うわっ』となるのと同じ感覚だ。
だからこそ、スムースな詠唱移行に慣れないといけない。
何より中級魔法以上に必要な魔力量や流速が初動詠唱だけでは満たせないからだ。
魔力量を込めるのだけなら、初動詠唱でも力技でいけるかもしれないが……十分に練られた魔力で、本詠唱による魔法行使という流れが本筋であるから、決しておろそかにできない。
「……さてと、今日もがんばりますか」
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